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しおりを挟む「なぁ、さっきの、どういう事だ?」
腕を引っ張っていた男友達、高井蒼汰が動揺しながら聞いてきた。
「さぁ? 私も知らない。っていうか、知らされてない!」
口を尖らしそう答えるしかなかった。
イヤ、もう本当に何も聞いてないからな。
そのせいで、話をするって訳にもいかず。
「ごめん。こっちが誘っておいて何だけど、今日は帰る。」
申し訳無く私がそう言えば。
「お、おう。わかった。真相がわかり次第連絡くれ。」
苦笑しながら心配そうに蒼汰が言う。
「うん。本当にごめん。今日は楽しかった。」
私はそう返事を返して、足早に家に向かった。
家と言っても独り暮らしのマンションではなく、実家の方に向かった。
さっきに騒動の詳細を聞き出さなければいけないから……。
思ったら直ぐに行動しないと気がすまないんだ。
「ただいまー!!」
玄関口で大声で言えば。
「お前、声でかすぎ。近所迷惑だろが。」
すかさず兄が慌てて近付いてきてそう言う。
「何がご近所迷惑よ。うちのご近所さんって近くても50メートル離れてるじゃない! どうやったら聞こえるの」
喧嘩腰に言い返す。
ほんと、こんなデカイ家がうちなのかって、何時も思う。
周囲からも浮いてるし。
「…で、急に帰ってきた理由は?」
兄が怪し気な顔をし淡々と聞いてくるから、負け時に。
「兄貴。私に婚約者なんて居ないよね」
兄貴を睨み付け淡々と聞いた。
「…今、何と言った」
朗かに動揺してるのが見てとれる。そして聞いてなかった訳でも無いのに、聞き返して来るところをみると、何かあるなと感じ。
「私に婚約者って居るの?」
もう一度問い質したところ。
兄は、ピキンと顔を膠着させた。そして、微動だにすること無くその場に固まり出した。
あまりにも兄の態度が可笑しいから、玄関を上がり奥にある廊下を進んだ。
ある一部屋のドアの前で立ち止まり、ノックをした。
「はい。入って良いぞ。」
軽快な声が返って来る。
中から許可を得たのでドアノブを廻し部屋に入ると、この家の主がこちらに背を向けて何やらしている。
そんな主に。
「私ですが、何時の間に婚約したんですか?」
低い声で怒りをぶつけた。
まぁ、仕方ないよね。
今まで一度も連絡してなかったんだから(自分からも親からも)……。
父が、恐る恐るこちらを振り返り。
「やぁ、元気にやってるか、佳澄」
おどけた風に片手を軽く上げて、こちらを伺うように見てくる。
そんな父を睨み付け、両手を腰に当てて。
「"元気にやってるか" じゃないです! 何時、私が婚約したのでしょうか? 私の所には、何の連絡がないんですが?」
苛立ちを押さえきれず、ずかずかと父に元に行くと、父の首元を締め上げた。
「ちょ…っと、…佳澄…ちゃん…首…絞まってる…」
途切れ途切れ言う父。
「ええ。そうしないと父様、何も話さずに勝手にポンポン決めてしまうでしょ? 私は、家の道具ではないんですよ!」
小さい頃から、祖父母に言い聞かされてきた。
私にとってのトラウマ。
女の子は "政略結婚しかない" って。所謂家と家の繋ぐ道具でしかないと……。
私はそれが嫌で、反発するように高校生の時に家を出て一人暮しを始めたのに、気付けば婚約させられていたって、何の戯れ言ですか?
「佳澄…、手を放してくれ……。じゃなきゃ…落ち着いて、話せないだろうが……。」
父の抗議の声を素直に聞き入れ、手を放せば椅子にだらしなく崩れ落ちる。
「うっ……ゴホッ……ゴホッ……」
父は噎せ返り、私を軽く睨み付けてくる。
今それをしたいのは、私の方ですよ。
美形の睨みは、凄みが増すけど見慣れてる私としては、どうでも良い。
とにかく、真相を話して欲しいんだが、何も語らない父に問いただすことにした。
「で、私は、何時、誰と婚約したんですか?」
殺気を込めて聞けば。
「去年の今頃……だったかなぁ…。あちらさんがどうしてもって聞かなくてね。」
父は、すっとぼけるように口を割る。
去年の今頃って……。
その頃、私日本には居なかったはず。
それをどうやって、婚約に持ち込んだんだ?
しかも本人不在で、婚約成立したんだ。
私が考えてると。
「相手は、豊川ホールディングの社長令息櫂君だ。」
父がツラツラと言い出した。
豊川ホールディング…ねぇ。
うん、全然顔も思い出せないぞ。
一体誰なんだ。
「何で、一年も放置してたわけ?」
そこ重要だよね。
「連絡しても佳澄ちゃん何にも返してこなかったし、そのうちに忘れちゃった。」
って、舌を出す父。
良い年したオジサンがそんな事しても全然可愛くなんかないんだからな(逆にキモイし)。
だからって、重大なことを本人に話さないのは、どうかと思うのだが……。
「何で、そんなこと聞いてくるの? もしかして、婚約者に興味を持ったの?」
胡散臭そうな目で私を見てくるから。
「違います!! 今日、偶然私の婚約者だって言った人に会ったんです。だから、確かめに来ただけです!」
私が、そう吐けば眉間にシワを寄せて、不味そうな顔をする。
そして、私の両肩を鷲掴みにして
「何処で会ったんだ!」
問い詰めてきた父。
「会社の近くの繁華街だけど。しかも、痛い台詞を言ってた。その時は、自分じゃないと無視を決め込みましたが」
うん、あれはいただけませんね。
「そこには、もう行くな! 会社も、辞めろ。」
険しい顔をしてそう言い出した。
朗かに狼狽えている父。
「会社を辞めろって……。今、大事なプロジェクトを任されてるのに、辞めれるわけないでしょ。そんな無責任なことを父様はしろと言うのですか?」
私は、溜め息一つ溢した。
「そうだ。今すぐにだ。家は、まだ大丈夫か……。オレが、社長に直に連絡する。」
そう言って、机の上に置いてあったスマホを手にする父。
私は、素早くそれを取り上げ。
「何するのよ。勝手に決めないで! 何時もそう。肝心なことは何も言わず、勝手に決めて。どれだけ迷惑かけてるかなんて、考えてないでしょ。」
何時も振り回されるこっちの身にもなってよ。
「佳澄…。お願いだから、今回だけは、俺の言うことを……。」
「お取り込み中すみませんが、櫂様がお見栄になってます」
父の言葉に被せるように、使用人の申し訳なさそうな声がした。
「終わった……。」
父が、項垂れるように言ったのだった。
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