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第1章 疫病と言う夫婦喧嘩
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しおりを挟む「旦那様。何故、もっと早く来てくださらなかったのですか?」
ジュリーが頬を膨らませて言う。
「これでも急いだ方なんですがね。それに此村の流行り病は、終息し掛けてたとはいえ病が蔓延して居た場所ですから、子ども達を連れてなんてこれないでしょ。あの子たちを残して屋敷を空けるなんて出来ませんからね、その手配にも時間が掛かったのですよ。」
僕は、彼女を咎めるように言えば、彼女はシュンと肩を落とし落ち込み出す。
「ごめんなさい、旦那様……。」
小声で謝ってきた。
「うん、子ども達にも謝るんですよ。そして今回の罰は、僕の事を名前で呼ぶこと。名前が無理なら、ジュリーが呼びやすいように呼んでください。後、無事に戻れたら、お義父様のお説教がありますので、覚悟してくださいね。」
そう僕が言うと。
「エッ……。そんな、旦那様を名前呼びなんて、恥ずかしくて出来ません。」
顔を真っ赤にさせて言われても可愛いだけなのだが、敢えて僕は強く出てみることにした。
「結婚して八年も経ちましたし、僕はジュリーと呼んでいるのに、ジュリーは何時だって "旦那様" 呼びじゃないですか。もしかして、僕の名前忘れたのでしょうか?」
僕は、態と悲しげな表情と声を作って言ってみる。
彼女は、首を横に振る。
「僕は、この可愛い唇から何時自分の名前を呼んでくれるのかと待ちわびていたのですが、ジュリーは一更に口にしようとはしないでしょ。だから、罰として僕の名前を呼ばせることしか出来ないのが、歯痒いのです。もし無理だと言うのであれば、ジュリーとは口を利きませんから。」
僕は、ジュリーの唇を親指で撫でながら言葉を発する。
今、この瞬間にも彼女の唇を貪り尽くしたい。
何て僕が思ってるとは、彼女は微塵も思っていないだろう。
それでも、今は我慢して彼女が僕の名前を紡いでくれるのを待つ。
「イヤです。旦……リオ様と話が出来なくなるのイヤです。私は、何時だってリオ様と話していたいです。」
あぁ、やっと彼女が僕の名前を……。嬉しい。
好きな女性から名前を呼ばれるのが、こんなに嬉しいものだとは……。今まで、何で呼んでくれなかったのかと悔やまれる。
「リオ様……。なんだか顔が赤くなってます。熱でも出たのですか?」
彼女が、心配気に僕の額に自分の額を引っ付けてくる。
これは、ジュリーの性だと何故わからないのかなぁ。
何て思った時だった。
突然ドアが開く音がして、そちらに目を向ければ僕を此処に案内してきた女性が肩を震わせて僕たちを凝視していた。
「な、何をなさっておられるのですか? 他所様の宅で!」
彼女が怒鳴り付けてくる。
まぁ、確かにそうなんですがね。
僕にとっては、ジュリーとただ一緒の部屋に居ただけという感じなのですが、あちらから見れば見知らぬ男女が自分の家で密会してるんですからね。
ですが、ご主人さんから聞いてないんですかね。
夫婦なら話があっても良いだろうに……。
まぁ、あからさまに無視されていれば、話なんか出来ないか。
「何って、リオ様が突然顔を赤くされたので、熱を測ってるんです。」
ジュリーが堂々と言い返す。
まぁ、ねぇ。ジュリーの口から戸惑い無く自分の名前が出てくるのを聞くと破壊力が抜群でね。思わず赤面になってしまったのが真相なのだが……。
ジュリーに心配されるのも悪くないかなぁ、何て思ってしまう辺り僕は彼女一筋なんだなって想ってしまう。
「熱って……。それより、未婚の男女がそんなに近付くなんて……。」
女性は、汚らわしいものを見るような目付きで僕たちを見てくる。
「私たちが未婚ですって? リオ様とは八年前に結婚してましてよ。子どもも三人居りますの。」
って、ジュリーが誇らしげに言い放ちました。
あぁ、これは後でお仕置きですね。
何の為に村長に婚約者と告げたのか……。
ハァ~。
僕が溜め息を吐くと。
「エッ、夫婦? アンナ、貴女結婚していたの?」
女性は、驚いた顔をしてジュリーに詰め寄ってくる。
「えっ……、あっ…。」
やっと自分が仕出かした事に気が付いたようで、でも何も言い訳が浮かばないのか口をパクパクと動かすだけ。
はぁ~、またもややってくれましたね。
本当にどんなお仕置きをしましょうかねぇ。
ちょっと考えるのが楽しくなってきました。
もう、この際だからはっきりと言いますか。彼女が偽名を使っていることもね。
「えぇ、彼女、ジュリーは僕の妻ですよ。何せ、無鉄砲で何処にでも飛んで行ってしまいまして、中々帰ってきません。こうして迎えに来たんですよ。彼女が居ないと子ども達も寂しそうにしているんでね。早く帰らなければならないのですが……。仕事も兼ねておりますがね。」
どちらが次いでなのかは、僕には明らかなんですが……。
子ども達を想い憂い気に口にする。
「そうだったのですね。すみません。私の早とちりでこんな場所に閉じ込めてしまいまして……。」
何故か嬉しそうな顔をして言う女性。
「イエ、誤解が解けたのなら良いのです。」
僕は笑みを浮かべてのだが、隣に居るジュリーが鬼の形相で女性を睨み付け始めた。
何か、女性との間にトラブルでもあったのだろうか?
僕は首を捻る。
「リオ様をこんな陰気臭いところに閉じ込めたのは、貴女ですか?」
って、僕の事で怒っていたのか。
納得していると。
「エッ…あの……。」
何だろう。何か嫌な予感がする。
僕は、慌ててジュリーを腕に閉じ込め。
「ジュリー、落ち着いてください。僕の為に怒ってくれるのは嬉しいのですが、あの女性を痛め付けるのは僕としては心苦しいです。それにジュリーの手を煩わせる事で僕は後悔してしまいます。ですから、何時ものジュリーに戻って欲しいです。僕の可愛い人。」
と告げれば、怒りで振るえていた肩も次第に落ち着きを取り戻し顔を赤くし。
「リオ様、ごめんなさい。」
小声で言ってきた。
フ~、これで安心かな。
「ジュリー、一つ約束してください。」
僕が口を開けばキョトンとした顔で僕の方を見て "何ですか?" と訴えてくる。
「僕の事で何があっても絶対に手を出さないこと。それだけは守ってください。君を犯罪者にしたくないですからね。」
子ども達の為にもこれだけは守って貰いたいです。
魔力がある分、何時でも加害者になってしまう恐れがあるのですから……。
「はい、リオ様。約束致します。」
ジュリーは、僕の腕の中で頷いた。
奥さんの機嫌が直った事で女性への被害は免れた。
本当に、可愛いですね。
応援ありがとうございます!
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