8 / 31
母の思い
しおりを挟む夕飯の支度を終えた頃に父さんと母さんが戻ってきた。
「おっ、今日はやけに豪勢だな。」
父さんがニコニコしながら言うなか、母さんが怪訝そうな顔をする。
「そりゃあ、夏実の完治祝いも兼ねてるから……。」
慶太がおどけて言うと。
「そんなの何回もやってるでしょうが……」
母さんが、冷たい声で言い放つ。
やっぱり、母さんは私の事を……。
「母さん。そんな風に言わないで。夏実だって、好きで怪我したんじゃないし……。」
慶太が庇ってくれる。
「そうやって、夏実を庇ってどうするの。」
そう言って、母さんはダイニングを出て行った。
母さん……。
私、母さんに嫌われてるんだ。
「夏実。気にしなくて良い。母さん、虫の居所が悪かっただけだから。」
父さんが、笑顔で言ってくれるが、怪我する度に母さんの機嫌が悪くなってるような気がする。
「夏実。冷める前に食べるぞ。」
慶太が、私の頭を軽くポンポン叩いて大丈夫だって顔をする。
「……うん。」
私は、自分の席につくと夕飯を食べた。
夕食後。
たまたま両親の部屋を通った。
そこから、漏れ聞こえてきたのは……。
「夏実は、何時になったら落ち着くことが出来るのかしら……。もしかして、私の育てかたが間違いだったのか……。」
って、母さんの声だった。
やっぱり……。
私、母さんに嫌われてるんだなぁ。
私はそっと自分の部屋に戻った。
母さんにとっては、慶太が一番大切なんだ。
私は、要らない存在だったんだな。
何時か、母さんが自分の事を認めてくれると思ってた。
慶太と比較されながらも、自分は自分なんだと言い聞かせてきた。
でも、あんなこと聞いたら、自分はダメな子だって思い知らされる。
居ない方がいいんじゃないかって…。
コンコン。
不意にドアがノックされた。
「……はい。」
私は、明るい声で返事をする。
「夏実。入るぞ。」
部屋に入ってきたのは父さんだった。
「どうしたの?」
笑顔を張り付けて、父さんに聞く。
「お前が、夕飯前に哀しそうな顔をしてたからな、ちょっと気になってな。」
父さんはそう言うと私の隣に座る。
「お前は、何時も人の事ばかり気にかけてるから、直ぐに顔に出る。」
気付いて……いたんだ。
「父さんに話せる範囲で良いから、話してごらん。」
父さんが、優しく諭すように言う。
「……母さんは、私の事……嫌いなの……かな。」
私は、呟くように言った。
すると。
「そんなことない。母さんは、一番夏実の事を心配してるんだ。」
父さんは、私の頭を撫でる。
「……でも、私、母さんに避けられてるきがするの…。慶太とも比較されてるの知ってる。……私は私なのに………。」
耐えていた涙が溢れ出す。
頬を伝って、私の手の甲にポタリと落ちる。
そんな私を父さんが抱き寄せた。
「母さんな、夏実にどう接したら良いかわからないんだよ。夏実が怪我して帰ってきた時って、何時も父さんと慶太が最初に心配して駆け寄るから、母さんは素直に表現できずに思ってることと反対の事を言っちゃうんだよ。本当は、誰よりもお前の事が心配で仕方ないのに……。」
父さんは、そこで言葉を区切った。
母さんが……。
そんなことあるわけない。
「高校だって、夏実の成績なら慶太と同じ高校に行けるって、安心してたのに夏実が突然今の学校を選んだ時だって、何で同じ学校に行ってくれないのかって、ずっと悩んでたんだぞ。夏実が、慶太に劣ってることって、何もないだろう? 慶太と一緒の学校に行ってくれたら、安心して夏実を送り出せたのに……。って未だにそう言ってるんだぞ。」
父さんが、母さんの代わりに思いを伝えてくれる。
母さんは、慶太と私を比較してたんじゃないの?
今の父さんの話だと、慶太と私の成績を比較してたんじゃなくて、同じ学校に行って欲しくて、比較してたの?
心配だったってこと?
「夏実は、誰から見てもほっとけない女の子になってる。慶太が一緒なら悪い虫もつかないって、母さんは思ってたんだ。それを反発するように違う学校に行くから、心配で仕方ないんだよ。」
そう、だったんだ……。
私、母さんの思いと正反対の事しかしてないんだ。
「夏実は、好きな男の子とか、気になる子って居ないのか?」
父さんが突然聞いてきた。
「そんなの居ないよ。慶太よりカッコいいって思う人何て居ないもん。」
私が言い切ると。
「そっか……。夏実にとって慶太が一番なのか……。」
そう言って、呆れた様に溜め息を吐く父さん。
「慶太よりカッコいい男の子近くに居るんじゃないのか?」
父さんの言葉に。
「う~ん。私にはそんな存在は居ない。」
考えながらそう答えた。
「そっか。夏実にはまだ先になるのかな。」
父さんが髪の毛をグチャグッチャに掻き混ぜる。
「まぁ、お風呂に入いってグッスリ寝なよ。」
父さんはそれだけ言って、部屋を出て行った。
私は、お風呂の準備をして部屋を出た。
「夏実。まさか泣いてたのか?」
階段に差し掛かった時に慶太が駆け上がってきて、私の頬に手を伸ばしてきた。
「う、うん。もう大丈夫だから……。心配させてごめん。」
慶太の顔を見れない。
「ならいい。何かあったら言えよ。」
慶太が優しい声音で言う。
「うん。ありがとう。」
私は慶太にお礼を言って、お風呂場に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる