すれ違い

麻沙綺

文字の大きさ
8 / 14

頼side2

しおりを挟む


  やべ。
  俺、バカだ。
  何で昨日のうちに姉貴に鍵を渡しておかなかったんだ。
  今頃、寒空の元姉貴は待ってるんじゃ……。

  俺は、そう思いながら家路を駆ける。


  それを思い出したのが、そろそろ定時となる時間だった。
  今日は、残業しなくても良さそうだ。
  何て呑気に構えてた。
「おーい、頼。飯食いに行こう。」
  同僚に声を掛けられた時にふと姉貴の事を思い出し、そういえばと考えてから。
「悪い、また今度。」
  その言葉を言い、手早く机の上を片付け、鞄を手に取ると。
「お先に失礼します。」
  足早に部署を出た。


  会社の出入り口を出ると、一目散に駆け出した。
  信号で足止めを食らった時に、姉貴に電話してみる。
「もしもし、姉貴。今、何処に居る?」
  そう問えば。
『頼の家に居るよ。』
  と返ってきた。
  
  もう、居るのか?
  姉貴の会社、家からじゃ少し遠い筈だが?
  少し、早めにあがれたのか?

  何て疑問を浮かべる。
  なら、今は玄関の前で待ってるんだろう。
「今から、帰るから、もう少しだけ待ってて。」
  そう口にすれば。
『うん。慌てなくて良いからね。気を付けてね。』
  と、逆に心配されて、通話を切った。

  信号も変わり、人混みの中を駆け出した。



  家に辿り着けば、玄関のドアに凭れて、空を見上げてる姉貴。どことなく儚げに見える。

  こんな姿、一度たりとも見た事がない俺は、少し動揺した。
  それだけ、今の彼氏の事を思ってるのだと、改めて知らされる。


  息を整えたところで、姉貴に近寄る。
  姉貴が、足音に気付いて、俺の方を向く。
「お帰り。」
  って、微笑んで見せる。


  家の中に入ると。
「姉貴、ゴメン。これ、此処のスペアーキー。昨日のうちに渡しておけばよかった。」
  自分の間抜けさに肩を落としながら、姉貴に手渡す。
  姉貴は、その鍵を受け取り。
「ううん。勝手に居候してるのは、私の方だし、気にしなくて良いよ。」
  って、申し訳なさそうに言う。
「俺に遠慮しなくて良いからな」
  これは、俺の本音。
  姉弟何だから、して欲しくない。
  だけど、姉貴は弟の俺に対しても遠慮する人。
  だから、言葉にして伝えないと信じてもらえない。

「遠慮は、して、無い、よ」
  苦笑いを浮かべ途切れがちに言う姉貴に、怪訝な目を向けた。


  それから、姉貴はキッチンに立ち夕飯を作り出した。
  俺は、自分の部屋に行き部屋着に着替えた。

  リビングで寛いでいたら。

「頼、ご飯出来たよ」
  姉貴が呼ぶ。
  ダイニングに行き、食事を済ませてると再びリビングで寛ぐ。
  姉貴が居ると飯の心配要らなくて良いや。
  何て思ってると、片付けを終えた姉貴が、ソファーに座ったのを見計らって。
「……で、彼氏さんとはあったの?」
  俺は、このことが気がかりだった。
  朝起きてみれば、姉貴は居なくて確認さえさてもらえなかったんだ。
  聞きたかったことを口にすれば、首を横に振る
「何で? 昨日、会うって約束したよな。」
  俺は、苛立って問い詰めるように言う。
  すると。
「今日、仕事に行ってないから……。」
  姉貴から返ってきた言葉は、俺が予想してなかった言葉だった。
  朝食の準備はしっかりしてあったから、会社に行ったんだって思ってたんだ。
  何で、行ってないんだ。
「はっ? どういう事? 俺は、てっきり、会社が遠くなったから、先に出たんだと思ってた。」
  俺は、姉貴を凝視してた。
  姉貴は、居たたまれなくなったのか顔を伏せた。

「なぁ、姉貴。逃げたって、何にも解決しないんだ。ちゃんと話し合った方がいい。」
  彼氏さん、凄く心配して尚且つ困惑してたから。
  姉貴が居なくなって、自分が何をしたのかを一生懸命、考えているのだろう。
  そう思い、二人が話し合わないと先が進まないと感じたから、俺は彼氏さんに了承したんだ。
  なのに、此処に来て、弱い姉貴が出てる。
「私だって、そうしたい……。だけど、怖いんだ。また、彼に捨てられるんだって思ったら…こわくて……。」
  姉貴の経験上、仕方ないと思う。
  今までの男どもは、姉貴の見た目に寄ってきて全く中身を知ろうとはしなかった。だから、振られる度に "男なんて要らない" って口癖のように言ってた。
  だけど、今回は何故だか違うような気がする。
  俺の第六感がそういってるんだ。
  姉貴の事を大事にしすぎて、会社の人間には、付き合ってることを隠してると思う。
  だから、姉貴への被害が無いんだと思う。
  俺は、意を決して。
「姉貴。今までの男はそうだったかもしれないが、今回の彼氏は、違うんじゃないか?昨日電話してて思ったんだけど、本当に姉貴の事を心配してた。それに俺の事を疑って "新しい彼氏" じゃないかって。」
  俺の言葉に弾かれたように姉貴が顔をあげた。その顔は、目に涙を浮かべていて、今にも溢れ落ちそうだ。
  今の彼を心底信頼してるから、浮かぶ涙なんだろうが……。
「そんな人が、姉貴を捨てるなんて、思えない。」
  そう、あんなに焦った声は滅多に聞かない。
  だからこそ、断言できるのだ。
「……でも。」
  それでも、姉貴は会うのが怖いみたいで、尻込みしている。
「大丈夫だって。俺を信じろ」
  俺はそう言って、笑みを浮かべた。
  姉貴が、俺の顔を見て小さく頷いた。

「ってことで、姉貴。スマホかして?」

  姉貴の前に自分の手を差し出すと、不思議な顔をしながら。
「ちょっと待って、鞄の中だから……。」
  そう言って席を立ち、部屋に行った。

  戻ってくると、俺の手にスマホを渡されたと同時に鳴り出した電話。
「俺が出ていい?」
  と聞けばコクりと頷いた。
  画面をタップし、電話に出る。

『伊織……ゴメン……』
  と弱々しい声。
  俺は、スピーカーにして、テーブルの上に置いた。

  姉貴に聞かせるために……。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...