すれ違い

麻沙綺

文字の大きさ
11 / 14

伊織side5

しおりを挟む


  頼の言葉に琉生が、こちらを振り返る。と同時にソファーから立ち上がって、無表情で足早に近付いてくる。

  もしかして、怒ってる?

  そう思ったら、恐れからか足が一歩後退してしまう。
  気がつけば、抱き締められていた。その腕は微かに震えている。
  えっ……。
  何が起きてるのかわからず、戸惑っていれば。

「やっと会えた。一日半会えなかっただけなのに、オレって女々しいかも……。」
  そんな言葉に顔を上げれば、ホッとした顔つきと今にも泣きそうな顔が混在してる彼の顔が、妙に愛しく見えてしまう。
  私は、彼の胸に額を押し付け。
「ごめん……ね。」
  そう口にした。
  彼の心音は、何時もより速くて余程緊張してるんだと思った。
「もう、こんな思いしたくないから、社内でも一緒に居よ。」
  琉生の切羽詰まった言葉に私は、首を横に振る。
「何故?」
  琉生が、疑問に思うのも無理はない。
「琉生が、女性社員に人気があるから……嫉妬の視線に私が耐えられない……。」
  社内だけじゃなく、社外でも人気がある。
  私のところにまで、噂が上ってくるぐらいなんだから……。
「それが本音? だったら、オレが護る。何がなんでも、オレが大切に想ってる相手を傷つけるやつは、後悔させてやる。だから、婚約してることを話してしまおう。」
  琉生に突然の言葉に、頭がついていかない。
  えっ……婚約……。
  何時、婚約したの?
  私が疑問に思ってたことがわかったのか琉生が。
「今、ここで。」
  と口にする。
  へっ?
  今って……。
  益々わからなくなる私に。
「本当は、この間のデートの時に言おうと思ってたんだ。だが、あいつのせいで流れた。だから、今から伊織は、オレの婚約者な。」
  って、堂々と宣言されてしまった。
  
  うっ……。
  これって、答えは始めから決まってるものだと言われてるみたいだ。一方的ではないのかって思ってしまう自分がそこに居て……。
  これといって、拒む理由なんて、何もないから頷くしかないわけで……。
  あれこれ悩んでると。
「うおっほん!」
  と、突然の咳払いにその方を見れば、頼がジと目で私たちを見ていた。
  あっ、ここ頼の家だった。
  私の顔は、羞恥心で赤面顔になってるに違いない。

「あのさ。人の家で燃えるのやめてくれない。一人身の俺には、キツすぎるんだけど。続きをしたければ、他所でやってくれ。」
  頼に呆れた声。
  琉生の顔を見上げれば、彼では珍しく赤面顔。
  私たちは、慌てて離れると。
「ごめん、頼。帰るね。」
  と声を出せば。
「あぁ。また、喧嘩したら何時でも来れば。」
  って、そっけない言葉が返ってくる。
「頼くん、ありがとう。伊織の事、絶対に幸せにするから。」
  彼が、真顔で言う。
「お願いします。今までの彼氏達と違って、琉生さんなら任せられると信じてますよ。」
  頼も真顔で答えてる。
  この二人、短期間で仲良くなりすぎでは?
  疑問視しながら、二人を交互に見る。
「あぁ。伊織、行くぞ。」
  そっけない返事を返す彼が、一瞬の内に私が持っていた鞄を奪って、空いてる方の手で私の腰に回してきた。
「頼。ありがとうね」
  私は、振り返り頼にそう言うと。
「ん。今度は、大丈夫だから、心配せずに琉生さんに着いていきな。」
  寂しそうな目をして、言う頼。
「また、来るからね。今度は、ダブルデートできたらいいな。」
  口許を緩めて言えば。
「……善処します。」
  頼の小さな声が聞こえてきた。



  頼、ありがとう。
  頼りない姉で、ごめんね。


  心の中で、そう告げると玄関を出た。
















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...