Herec~一度音楽をやめた奴らが『社会人バンド』を組む話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 秘密基地と大人

1-3

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 ――『いいか。次、ここに戻ってくる時は、世界をアッと言わせるような、ビックな奴らになった時だ。また音楽で! ここに戻ってこようぜ!』

 夕飯時によみがえってきた光景が、再び脳裏に思い浮かぶ。

 なぜ忘れていたのかと思うほどに、鮮明に色づいた記憶。暑い暑い夏の記憶。
 愉快に楽しそうに未来の事を語り合いながら、この小さなタイムカプセルを土の中に埋めたあの日のこと。

 夏の炎天下。青々とした青空の下、青々と伸びる草の間で必死になって土を掘る自分と仲間達。
 仲間達と土を掘りながら、この辺りでいいか、まだもう少し深くした方がいいんじゃないか、とペンケースを埋める位置を探している光景がよみがえる。

(これがここにあるって事はたぶん、皆、あん時の約束を忘れてしまったんだろうな)

 約束を口にした本人も来てないし。まぁ俺も、母さんがこの空き地の事を言い出さなければ、忘れたままだったのだろうから、人の事はあまり言えないんだけどさ。

 だいたい、いつかは取りに来ようと約束していたが、それが『いつ』になるかは決めていなかった。そう考えると、この結果もしかたがない事なのだろう。『ビックな奴らになった時』だなんて、そんな不明瞭な約束をしてしまった自分達が悪い。

 それに、

(忘れているというよりは、、という方が正しいのかもしれない)

 忘れてしまいたかった。――忘れていたかった。
 だって俺達は、あの約束を守れなかったから。

 やめてしまったから。
 ビッグになることを。

『また音楽で』とそう言ったあの日の自分達を、やめてしまったから――。

「……まぁいいや」

 とりあえず目的の物は見つけ出せたわけだし、帰るかな。いつまでもこんなところにいて、誰かに見つかったりなんかしたら目も当てられないし。

 ペンケースをスコップを入れてきた袋に入れ、パンパン、と手についた土を払う。

「あ。帰る前に、この穴埋めとかねぇと」

 ここだけ掘られた跡があったら、工事の人達が怪しむかもしれない。だから何があるってわけじゃないが、できる限りがここに誰かがいたという痕跡は残さずに帰った方がいいだろう。

 入るな、危険って看板無視して入ってきちゃってるわけだしね。

「よーし、やるぞー!」とわざとらしく呟きながら、スコップを手に穴を埋めにかかった、

 ――その時だ。

 ガサガサ、ガサガサ、と草をかき分けるような音が俺の耳に飛び込んできた。

「え」

 やばい、誰か来た⁉ ビクッとして息をひそめる。

(だ、誰誰誰誰誰⁉ こんな時間にこんな場所に来る奴とか、俺以外に誰もいないと思ってたんですけど……⁉)

 まさか工事関係者が来た⁉ こんな時間にか⁉
 なんにせよ、忍び込んでいる事がバレたら事だ。しかし逃げようにも、一歩でも動いたら周囲の草が揺れて、ここに俺が居る事がバレてしまう。

(あ~~~っ、お願いだからこっちには来ませんようにっ)

 来るな来るな来るな……っ、と心の中で願う。
 だが願いも虚しく、ガサガサ、ガサガサと草をかき分ける音達は、両方とも俺の方に近づいてきている。

(……ん? 両方とも?)

 おや? と首をかしげる。そうして、耳をすまして聞こえてくる音の方角を探ってみる。

(やっぱりだ――。音が、それぞれ違う方向から聞こえてくる)

 片方は右から、もう片方は左から。ガサガサ、ガサガサと聞こえる。
 これってつまり、別々の方向から別々の人が来ているって事か? どういうことだ、と、再び首をかげした瞬間。

「「え」」という2つの声がその場にあがった。

「あれ、うわっ、君、もしかして……⁉」
「は? ちょっ、おいおい、まさか……、嘘だろ……⁉」

 驚愕の2文字で染まった男のものだと思われる声達が、俺の耳に飛び込んできた。

 まるで、はち合わせるとは思っていなかった相手と出会ったかのような声だ。予想外の人物との出会いに驚いている声。それを受け入れられずに困惑し、動揺している――、そんな声だ。

 だが、なんとなくその声に聞き覚えがあるような気がした。

 頭の奥底にかすかに残っている、古びた記憶。その中に、その声があるような気が――。

『透くん、昨日のヒーロック見た? ギターのエレキ野郎の敵とのソロシーン1対1対決! すっごいロックだったよね⁉』
『おーい、透っ! 今日も秘密基地行くんだろっ! くっそかっけぇスティック作ったから楽しみにしとけよ!』

「あ⁉」

 思い出したっ! と思わずその場を立ち上がった。

 ガサッ!! と今までで一番大きな音をたてて、周囲の草が揺れる。次の瞬間、草の中から急に飛び出てきた俺に驚いた男達の声が、「うわっ!?」「うぉっ!?」と夜の空き地内に響き渡る。

 飛び上がった先、そこには居たのは予想通りというかやっぱりというか、2人の男達だった。

 1人は、さっぱりとしたショートヘアが特徴的な男だった。柔らかな焦げ茶色の髪をした、優しそうな顔立ちの男。背丈は俺よりそう変わらないか、ほんのちょっぴり上か。少し線の細めの男だ。

 反対にもう1人の方は、いかつい雰囲気のある男だった。短く刈り上げられた黒髪に、肩幅のあるちょっとごつめな体つきが特徴的で、強面の2文字が似合いそうな顔つきの男だ。この場にいる誰よりも身長が高く、威圧感が強い。

 そんな全く見た目も雰囲気も違う男達の目が俺に向けられる。
 ギョッ、とその瞳を大きく見開きながら。

 そして――……。

「「「……あっ!?!?!?」」」

 瞬間、全員の声が重なった。
 
 まるで、どっかに大事な何かを落としてしまった事に気づいた時のように、
 まるでたった一瞬で、忘れていた何かを思い出した時のように、

 10数年ぶりにこの場に集まった子ども達の声が、響き渡ったのだった。
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