Herec~一度音楽をやめた奴らが『社会人バンド』を組む話~

勝哉道花@みちなり文庫

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4章 新しいとあの頃

4-4

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「今日の夕方、おれのとこに応募のメールが来たんだよ。あの動画を見て応募をしてくれたみたい」

 スタジオ前の自販機で購入した水を飲みながら、拓弥が俺と優作に自分のスマホを見せてくる。
 優作と共に画面の中を覗き込めば、そこには確かに『ベースの応募について』という件名で始まるメールが表示されていた。

「マジだ」
「マジだわ」

 フラグの回収、早くないですか?
 思っても見なかった展開に、俺、優作の順で口から言葉をボロボロと落としていけば、「マジだよ」と拓弥が苦笑しながら、スマホをパンツのポケットにしまった。

(あの動画って、あのカバー動画のことだよね。それってつまり、あの22って数字の内の1人が来てくれるってこと?)

 俺がさっきまで見ていた22って数字の中に、うちのベースになるかもしれない奴が居たってこと? 
 うわーっ、何その展開。すっごい心震えるんですけど。

「とりあえず、仕事終わりに急いで返信して、面接の日取りの話までは取り付けたんだけど……。どうする? 先方さんは日取りはいつでもいいので、そちらに合わせますだって」
「面接……」
「さすがに一度も会いもしないで、「はい、どうぞ」って入れるわけにはいかないでしょ。文面だけ見ると凄く丁寧でいい人そうだけど、実際に会ってみたらまた違ってくる可能性もあるわけだし」

 ぼんやりとした声音でオウム返しをした俺に、拓弥が説明を補足してくれる。

 言われてみれば確かにそうだ。メンバーは必要だけど、でもだからって性格があわない奴を仲間にしても、将来的に失敗するのは目に見えている。応募が来たからって、イコールで必ずその人がバンドメンバーになるってわけじゃないのだ。

 ちゃんと俺達とあう人なのか、俺達がやろうとしているバンドの形を受け入れてくれる人なのか。

 それをきちんと判断する必要がある――。

 ごくりと、思わず生唾を飲み込んだ。

「な、なんか就活の面接みたいで、俺、緊張してきたんだけど……っ」
「ばっ、バッカ。なんで面接する側が緊張してんだよっ。しゅ、就活とか、い、嫌な事、思い出させるんじゃねぇよっ」
「優くん、声震えてる。2人とも、変なところでチキンだなー」
「あぁ⁉ じゃあ逆に、なんでタクはんなに普通にしてられんだよ」
「おれは、時々仕事で面接したりする事もあるから」

 優作の切り返しに、さらっと返答する拓弥。
 うわー、こんなところでも職業差が出るのかー。今だけはちょっと拓弥と職種交換したいかも、なんて馬鹿げた考えが俺の脳裏を横切った。

 とりあえず、こんな状態で練習なんてしていられる余裕もなく。
 ひとまず3人で、面接の日取りを話しあう事となった。ありがたい事に、向こうは日取りに関してはいつでもいいと言ってくれている。なので後は、こちらが全員で集まれる日を探すだけで済んだ。

 結果、今週の日曜日のお昼に、面接を行う事が決まった。
 平日は決して仕事を休めない俺と、仕事終わりの夜遅くに面接をやるのは常識はずれだろう、という2点を配慮しての結果である。

 拓弥は本来ならば仕事だったらしいが、有給を取ってくれるという形で収まった。「いいの?」と尋ねる俺に、「まぁ、無駄にたまってるから」と、拓弥が苦笑を返す。「あんまりためすぎると、逆に上から怒られるしね」とのこと。

 あー、確かに。有給って有効期限があるせいで、ためすぎると逆に消費しろーって怒られるよね。

 休んでるのに給料出るのはありがたいけど、俺みたいな教職だと取るタイミングが全く見つからなくって、困るんだけなんだよなぁ、あれ。

 拓弥のスマホを使って面接の日取りメールを送ると、数分と経たずに相手から了承の返答が返ってきた。その返答の早さには驚かされるも、了承の返事と共に「当日は、よろしくお願いいたします」と添えられていた一言には、なんとなく好感触を覚えた。

 どんな人かはまだよくわからないけど、ちゃんと挨拶をできる人に悪い人はいないはずだ。挨拶、大事。

 そうしてその後は、いつも通りにバンドの練習をしてから解散となった。

 練習とは言ってもまぁ、好き放題好きな楽曲の演奏をしてるだけなんだけどね。カバー動画をあげて以降、次に何をするか、というのはなんとなく決めあぐねてて、結局好き勝手ただ演奏するだけの活動になってしまっていたりするから。

(でもメンバーが増えれば、何かが変わるはずだ)

 新しい何かが始まる。そんな予感に、ワクワクともウキウキとも、両方とも取れる気持ちが俺の中を締めていった。

      ******

 そうして日は経ち――、日曜日。

 俺、拓弥、優作は面接会場となるファミレスにやってきていた。
 例の、『Music Studio Re:creation』近くにあるあのファミレスである。

「おい、せめぇよ。もっとそっち寄れ」と、ソファータイプの2人がけ椅子、その通路側に座っていた優作が不機嫌そうに口を開いた。それを聞いた拓弥が、「これ以上は無理だよ」と苦笑しつつも、頑張って窓際に寄ろうと体を動かす。

 そんな2人に挟まれる形で座っていた俺は、「仕方ねぇじゃん」と唇を尖らせながら、優作を見返した。

「2人がけ用の席に、野郎が3人で無理やり収まろうとしてるんだからさ。文句言うんなら、その無駄にガタイのいい図体をどうにかするか、向こうの席に座るかしなよ」
「アホか。これから面接相手が来るっつーのに、なんで面接する側がソイツの隣になるだろう位置に座らなきゃなんねぇだよ」

「あとこのガタイの良さは無駄じゃねぇわっ。お前らがヒョロガリ過ぎなんだよっ」と優作がギロリと俺を睨みつけてくる。

 誰がヒョロガリじゃ。こちらとら、20代男子の平均体格だわ。
 お前が無駄に体も顔もいかついだけだわ、見せかけばかりのインドア職ゴリラめ。

 バチバチバチバチ、といつぞやの如く、優作と火花を散らしあっていれば「喧嘩しないっ」と、拓弥がピシャリと言い放った。そうして「もうそろそろ来る頃なんだから」と、呆れたように言葉が続けられる。

(ぐ~っ、やっばい。まじで、緊張してきた)

 いや、緊張自体は面接が決まった瞬間からすでにしていたけどね。でもそれ以上に、もっとやばい緊張というか、なんといいますか……。

 あ~っ、とにかく、めっちゃ落ちつかないっ。
 すっごい、足元とか胸あたりとか、なんかいろいろソワソワしてて、まずいっ!

 優作の方も俺と同じらしく、そわそわとした様子であっちを見たりこっちを見たりと、忙しなくその目を動かしている。表情も、どことなくいつもよりなんだか浮ついている印象がある。
 反対に拓弥の方は、落ち着いた様子で座っている。ドリンクバーで淹れてきたアイスコーヒーをゆったりと飲んでいる。

 これが職業経験値の差か……。羨ましさを通り越して、なんだか腹が立ってくる落ち着き具合である。

 とそこで、そういえば、とふいにある事が頭を横切った。

「なぁ、そういえば今日来る人って、なんて名前の人なの」
「え」

 拓弥が驚いたように、俺の方を振り返った。「あれ、言ってなかったっけ」と、その目を瞬かせる。

「あー、そういえば聞いてねぇな。なんて言うんだよ」

 俺の質問に便乗するように、優作が拓弥に問う。
 その質問に、「えぇっと、確か、たか――」拓弥が答えを返そうとした時だった。

「すいません」

 ゆったりとした、低いハスキーボイスの声が、俺達のテーブルにかけられた。

「あの、ゆーさんのところのバンドの方々……、であってますか?」

「「「!」」」

『ゆーさん』。その名前に、俺達3人の肩がぎくりと揺れた。

 ゆーさんというのは、優作の動画サイト上での名前だ。正確には、さんはなしで『ゆー』というのが正しい。名前の由来は、まぁお察しの通り、優作の『優』の字からと実に安直なものである。

(ついに来たっ)

 バクバクと心臓が鳴る。なんか俺、このファミレスに来る時はいつも緊張してばっかだな? と、緊張の2文字で埋め尽くされる脳内の端で、やけに冷静な自分がツッコんできた。

「あぁ、はい、そうですっ」と返事をしたのは、拓弥だった。にこやかな笑みを顔に浮かべながら、声がした方へ顔を向ける。

 ――瞬間、ひぇっ、と俺は心の中で小さな悲鳴をあげた。
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