Herec~一度音楽をやめた奴らが『社会人バンド』を組む話~

勝哉道花@みちなり文庫

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5章 「なりたかった」ものと「なれなかった」もの

5-1

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 たかのっぽくんが本格的に仲間になる事が決まったその後、一旦、俺達は改めて今後の活動方針について話しあう事となった。

 とりあえず、目下の方針である『仕事と家庭優先』は変わらぬまま、その上で、新たにメンバーを加えた今何ができるか、何をしていくか、という事について話しあっていく。

 最初に口を開いたのは、拓弥だった。「とりあえずは、持ち曲を増やす方向でいいんじゃない?」と言いながら、スタジオのど真ん中に輪を作って座る俺達を見回す。

「今後、ライブに出たりCD作ったりするかはまだわからないけどさ、なんにせよ曲は必要でしょ? 演奏できる曲がなくて困る事はあっても、あって困ることはないだろうしね」

 確かに、と俺、優作、たかのっぽくんが頷く。
「したら、新しい動画でもあげるか」と、続けて優作が発言した。

「カバー曲じゃなくて、正真正銘のオリジナル曲のな。それなら今後ライブとかに出るってなっても使えるだろ」

『オリジナル曲』――その言葉に、どきりと胸が高鳴った。

 カバーじゃなくて、オリジナル曲。自分達だけの、唯一無二の楽曲。なんともバンドらしいその言葉に、ドキドキと胸が鳴り続ける。バンドをまたやりたいと、そう思ったあの時に似た興奮が自分の全身を駆け巡っていくのがわかる。

 ……でもあの時と違って、同時に緊張の2文字が脈打っているのも感じる。

 オリジナル曲を作る。それ自体は実のところ、学生時代にすでに経験済だ。だがあの頃と違って、今の俺達は音楽ばかりに向きあってはいられない。

 あの時以上にしっかりと計画を練らなければ、やり通す事が難しいのは火を見るよりも明らかだ。

 それにもう1つ、気がかりな点がある。

「でも作るって言ってもさ、どうやって楽曲作るんだ? 俺達、演奏はできるけど、楽曲は作れないぜ? だから最初の動画だって、カバー動画にしたわけじゃん」

「「うっ」」と拓弥と優作が言葉をつまらせた。途端、そこなんだよなぁ、という空気が場を支配する。

 そう。今さらだけど、俺達は曲の制作ができない。
 
 学生時代のバンドの楽曲は、郁也が制作していた。0からの作曲作詞を郁也が行い、実際に演奏をしてみて、それぞれが思った事をまとめてもう1回、郁也が制作し直す。
 そんな感じの繰り返しで楽曲を制作続けてきた。

 今にして思えば本当、いろんな事を郁也に頼りっぱなしだったんだよなぁ、俺達。
 各パートの技術はにそれぞれで身につけたけど、でもバンドや音楽そのもの、楽器に関する知識なんかは、全部郁也から教えられてきたようなものだ。

 というかバンドの結成自体がまず、郁也の発案だったわけで。そう考えると、ある意味最初から全て郁也に頼りっぱなしと言っても過言ではない気がする。

あれ? これもしかして、思った以上に俺達って使いものにならない人間だったりする? ――そんな考えに、俺が至った時だった。

「あの……、」

 おそるおそると言った様子で、たかのっぽくんが手をあげた。

「その、作曲だけでよかったら、たぶん、俺できます……」
「「「え」」」

 大人3人組の視線を受けて驚いたのか、たかのっぽくんがビクッと肩をすくめた。そうして慌てたように「た、たぶんですよ、たぶんですっ」と言葉を続けた。

「えっと、俺、一応大学で作曲に関する授業もやってて……。バンド編成の楽曲を作った経験はないんすけど、ピアノとか、管楽器とか、あとパーカッションとか、そういう感じの音でのなら、作曲自体はやったことがあるんで。なので、皆さんに意見を貰いつつなら、なんとか作れるかもしれません……」

 ボソボソと、尻すぼみ気味に続けるたかのっぽくん。
 言いながら自信が失われでもしたのか、最後の方はほとんど聞こえづらい声音となっていたが、しかしそんな事は俺達には関係ない。

(こ、これは……! 予想外の逸材来たよ……⁉)

 いや確かにね、音大生とは言っていたけど、まさか作曲できる子が来てくれるとまでは思わないじゃん⁉
 演奏者としての実力も申し分なければ、作曲もできちゃうとか、天は一体君に何物の物を与えてくれているんだ⁉

「いいよ、いいよっ。全然手伝う手伝うっ」

 興奮で、声を張りあげる。「なっ⁉」と、優作と拓弥の方を振り帰れば、ハッと我に帰った2人が「お、おうっ」「う、うんっ、全然いいよ」とうなずき返してくれた。

 そんな俺達3人の様子に、たかのっぽくんがホッとしように胸をなでおろしながら、「ありがとうございます」と礼を口にする。

 う~ん、お礼を言わなきゃいけないのは、本当はこっちのはずなんだけどな。やっぱり、どこか遠慮過ぎるきらいのある子だなぁ、たかのっぽくんって。

 そんなわけで。
 残すところ、あとは作詞の制作に関してのみとなったわけだけど――……。

「どうしようか」「こうなったら、どっかに作詞依頼でも出してみっか?」「そういえば、そういう依頼を受けてるサイトとかってありますよね」と、拓弥、優作、たかのっぽくんが会話を続けていく。

(依頼かぁ)

 確かに、作詞をどっかに依頼するというのは、悪くはない案だ。というか、作詞したことがある奴がいないんだから、それが妙案というものだろう。
 でも、作曲も演奏もなんとか自分達でなりそうなのに、歌詞だけは他の人にっていうのは、なんだかあまりにも惜しいって感じがしないか?

「……俺、作詞やる」

 ぽつりと、そんな言葉が口から飛び出した。

「へ」「は?」「え」拓弥、優作、たかのっぽくんが目を丸めながら、俺を見返した。

「作詞やるって……、透くんが?」
「ん」
「おま……。やるって、やった事もねぇのにやるのかよ」
「やった事ないからやるんじゃん。それに歌うのは俺だよ。実際に歌詞を1番使う俺がやるのが妥当じゃない」

 俺の言葉に「歌詞使うって、日本語変じゃね」と優作がツッコんでくる。
 変じゃないですぅーっ。皆がそれぞれに使ってる楽器があるみたいに、ボーカルである俺にとっては歌詞が使う楽器なんですぅーっ。

 ん? あれ、でも歌うって事がボーカルのメインの役割なんだから、楽器にあたるのは歌詞じゃなくて声の方か?
 あれ? おや?

「でもそうだね」と拓弥が口を開いた。小さくうなずきながら、首を捻っていた俺の方に顔を向けてくる。

「持ち曲を増やすってなると、今後も新しい曲を作る事は必須なんだし。それなら、自分達で全部できるようになっておくのも手かもしれないね」

「好きこそ上手なれっていうし。透くん、そういうの得意そう」と拓弥がにこりと笑った。
 お。それはなんですか、褒められてる感じですか。やだ~。俺ってば、こないだから拓弥に褒められっぱなしじゃね~?

「も~。おだてても何も出ないぜ~」とエヘエヘと笑えば、「鼻なら伸び出てるな」と優作からまたツッコミが飛んできた。はーい、今の会話に褒めるのホの字も関係ない人は黙っててくださーい。

「じゃあ、作曲はたかのっぽくんを中心に、作詞は透くんが担当するって事で。とりあえずは経験者がいる作曲の方をメインに行っていく形でいいんじゃないかな」

「透くんはその間に作詞の勉強しといてね」と拓弥が言葉をしめる。「はーい、わかりましたー」と手を伸ばして答えれば、今度は呆れたような声音で、優作が「子どもか」とツッコミを入れる。
 そんな俺達のやり取りを、オロオロと不安そうに眺めるたかのっぽくんに、「いつものこと、いつものこと」と拓弥が優しく言葉をかけた。

(いいじゃん、いいじゃん。どんどんいい風吹いてるじゃん)

 なんだかんだ色々あるけど、でもいい方向に進んでる事だけは確かだろう。
 きっと上手く行く。そんな予感だけが、どんどんと目の前に広がっていくのを感じた。

「よーし、話しあい終わり。じゃあとりあえず今日の残りは、なんか好きな曲適当にやって帰ろうぜ」

「たかのっぽくん、なんか弾けそうなの他にある?」と優作がたかのっぽくんに訊ねる。「えぇっと……」とたかのっぽくんが少し考え込んだ後に、これならという曲名をあげていく。

「あ。それなら俺達もやった事あるー」と知ってる曲名に、思わず俺も2人の会話に飛びつく。「やった事ないのは各自練習して、また今度挑戦してみようよ」と、拓弥も会話に参加する。

 わーわー、と進む話し合い。これからの期待だけが満ちる空間は、自負ではあるけど、今世界で一番楽しい場所の筈だと、そう強く言い切れる。

 そして――……、だからこそ、俺は忘れていたのである。

 どんなに順調そうに進んでいたって、それが思わぬ事態が起こらないわけはない証拠ではないという事を。

 順調そうに見えた運動会の練習が、ラジカセという思っても見なかった方向で問題を起こしてしまった、あの時ように、

「――……あ?」

 思わぬ方向から問題がやって来るなんて、思ってもみなかったのだ。

 スタジオの防音扉の向こう、通路。
 扉に設置された狭い窓ガラス越しに、「アイツら、まさか……」と不穏な視線を俺達に向かって投げている人物が居る事には、誰も気づかなかったのである。
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