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8章 始まりと始まり
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――1週間前、10月第3火曜日。
拓弥と優作がスタジオにやってきたのは、俺とたかのっぽくんがスタジオ入りをしてから、少ししての事だった。
「駅で鉢会った」と言って、一緒にスタジオに現れた2人。その様子は普段と何ら変わらなず、郁也に会っていないだろう事は明らかだった。
郁也と会った事を2人に言うか。少しだけ迷ってやめた。
俺は郁也の事を怒っていないと言ったけど、それはあくまで俺の話であって、この2人までがそうかはわからない。2人は2人で、それぞれに郁也に対する思いや考えがあって、それは俺が思うものと必ずしも同じだとは限らないはずだ。
拓弥はまぁ、百歩譲って俺と同じ可能性があるけど、優作の方はなぁ。
俺達と郁也の間にある確執が完全になくなる日は、たぶんまだまだ先の話だろう。
たかのっぽくんの方も、俺が言わないでおく事を察してくれたらしい。何か言いたげな視線はちょっと寄越してきてたけど、結局その口が郁也について何かを言う事はなかった。
本当にできた年下である。いい子過ぎるので、あとでこっそりスタジオ前の自販機で奢っちゃったのは、ここだけの内緒話です。
そうしていつも通りにバンド練習を終えた俺は、家に帰るとそのまま歌詞制作に取り掛かった。
練習でたまった疲労や、明日の仕事の事を考えると、本当ならすぐに寝た方がいいのだけど、でも今書かないといけないと、そう漠然と思ったのだ。
書きながら、頭の中をさまざまな記憶がめぐった。
ヒーロックを通して、初めて目にしたバンド。そこから始まった郁也との出会い。バンドの活動。音楽を諦めたあの日。今の仕事を選んだ時のこと。旧友達との再会。子ども達の喧嘩――。
そして、
『いいか。次、ここに戻ってくる時は、世界をアッと言わせるような、ビックな奴らになった時だ。また音楽で! ここに戻ってこようぜ!』
――そう約束した、あの日のこと。
(結局、あの約束は果たせなかったなぁ)
ビックな奴になんてなるどころか、全員が一度は道がバラけてしまった。
本当の意味であれを叶えようとしているのはただ1人になり、それ以外の3人からは、叶えようとする熱意そのものが完全に失われた。
そして残った1人も――、たぶんきっと、今苦しい状態にある。
あれ程までに固執していたバンドをやめた彼は、今一体、どんな思いで音楽の道を突き進んでいるのだろうか。
わからない。それは、その道を諦めてしまった俺達には想像もできない事のはずだから。
(いつだって、誰かに何かを伝えるという事は、本当に難しい)
きっと世の中には無数のこういう事が存在するんだと思う。自分がこれだと思って自信を持って作り上げた何かすらも、この世界においては誰にも届かずに終わったりしてしまう。
伝わる、伝える、届ける。
それはきっと、思う以上に難しくて、思う以上に苦しみを伴うものなのだろう。
(でもそれでも、)
もう1回って。
もう1回だけ、やってみようって。
そう思ってしまう、そう思える何かが、そこにある事もきっと確かな事の筈だ。
一度音楽をやめた俺達が、もう一度音楽をやってしまったように。
惹かれる何かもまた、きっとそこにはある。
そんな何かを――、歌詞にしたかった。
(ま、ちゃんとできてるのかは、自分でもよくわからんのだけど)
いやー、だってねー、何かってさ、やっぱりなんなのかわからんから、何かって感じなわけですしー? それなのにそれを歌詞に落とし込めるとか、ちょい無理があるといいますか。
小学生に物を教えるにも免許認定の試験が必要なぐらいですよ?
俺自身が理解しきれてないものを歌詞に詰め込んで不安がないかって聞かれたら、そりゃあ不安120%ですわ。あっはっはっはー。あ、なんか涙出そう。
うーん、どうしよう、どんどん不安になってきた――、目尻に浮かんだ涙を指で拭ったその時だった。
「そうだ。俺、撮影前に1個、やりたい事があるんだった」
ぽん、と思わず漫画のように手を叩く。
俺の突然の言動に、「「「やりたい事/ですか?」」」と他3人が目を丸めて、俺の方へ一斉に振り返ってきた。
「そうそう。準備してくっから、ちょっと待っててー」
そう言って、スタジオルームを飛び出す。「え⁉」「おいっ⁉」「酒井さん⁉」と三者三様の驚きの声が耳に飛び込んできたけど、その全てを無視してロビーの方へ向かう。
そうしてロビー受付にいた高瀬さんから、目当ての物を借りた後、飛び出してきた時と同じ勢いで再びスタジオルームへと戻った。
「ただいまーっ! いやー、これよこれ! なかったらどうしようかと思ったよー」
「こっちは、お前が急にいなくなっからどうしようかと思ったわ、アホ」
「お前のその突発的な行動力はどうにかならんのか」と優作が額に手を当てながら言う。「メンゴ、メンゴ」と謝れば、イラッとしたらしい優作のこめかみに青筋が立った。
おっと、まずい。何か言われる前にと、俺は急いで部屋のど真ん中に『それ』を置いた。
途端、優作、拓弥、たかのっぽくんの視線が、『それ』に集まる。
そうして次の瞬間、キョトンとした声で、3人が揃って口を開いた。
「「「ラジカセ????」」」
「いぇ~す! 大・正・解!」
3人に向かって俺は、ニッと笑い返した。
拓弥と優作がスタジオにやってきたのは、俺とたかのっぽくんがスタジオ入りをしてから、少ししての事だった。
「駅で鉢会った」と言って、一緒にスタジオに現れた2人。その様子は普段と何ら変わらなず、郁也に会っていないだろう事は明らかだった。
郁也と会った事を2人に言うか。少しだけ迷ってやめた。
俺は郁也の事を怒っていないと言ったけど、それはあくまで俺の話であって、この2人までがそうかはわからない。2人は2人で、それぞれに郁也に対する思いや考えがあって、それは俺が思うものと必ずしも同じだとは限らないはずだ。
拓弥はまぁ、百歩譲って俺と同じ可能性があるけど、優作の方はなぁ。
俺達と郁也の間にある確執が完全になくなる日は、たぶんまだまだ先の話だろう。
たかのっぽくんの方も、俺が言わないでおく事を察してくれたらしい。何か言いたげな視線はちょっと寄越してきてたけど、結局その口が郁也について何かを言う事はなかった。
本当にできた年下である。いい子過ぎるので、あとでこっそりスタジオ前の自販機で奢っちゃったのは、ここだけの内緒話です。
そうしていつも通りにバンド練習を終えた俺は、家に帰るとそのまま歌詞制作に取り掛かった。
練習でたまった疲労や、明日の仕事の事を考えると、本当ならすぐに寝た方がいいのだけど、でも今書かないといけないと、そう漠然と思ったのだ。
書きながら、頭の中をさまざまな記憶がめぐった。
ヒーロックを通して、初めて目にしたバンド。そこから始まった郁也との出会い。バンドの活動。音楽を諦めたあの日。今の仕事を選んだ時のこと。旧友達との再会。子ども達の喧嘩――。
そして、
『いいか。次、ここに戻ってくる時は、世界をアッと言わせるような、ビックな奴らになった時だ。また音楽で! ここに戻ってこようぜ!』
――そう約束した、あの日のこと。
(結局、あの約束は果たせなかったなぁ)
ビックな奴になんてなるどころか、全員が一度は道がバラけてしまった。
本当の意味であれを叶えようとしているのはただ1人になり、それ以外の3人からは、叶えようとする熱意そのものが完全に失われた。
そして残った1人も――、たぶんきっと、今苦しい状態にある。
あれ程までに固執していたバンドをやめた彼は、今一体、どんな思いで音楽の道を突き進んでいるのだろうか。
わからない。それは、その道を諦めてしまった俺達には想像もできない事のはずだから。
(いつだって、誰かに何かを伝えるという事は、本当に難しい)
きっと世の中には無数のこういう事が存在するんだと思う。自分がこれだと思って自信を持って作り上げた何かすらも、この世界においては誰にも届かずに終わったりしてしまう。
伝わる、伝える、届ける。
それはきっと、思う以上に難しくて、思う以上に苦しみを伴うものなのだろう。
(でもそれでも、)
もう1回って。
もう1回だけ、やってみようって。
そう思ってしまう、そう思える何かが、そこにある事もきっと確かな事の筈だ。
一度音楽をやめた俺達が、もう一度音楽をやってしまったように。
惹かれる何かもまた、きっとそこにはある。
そんな何かを――、歌詞にしたかった。
(ま、ちゃんとできてるのかは、自分でもよくわからんのだけど)
いやー、だってねー、何かってさ、やっぱりなんなのかわからんから、何かって感じなわけですしー? それなのにそれを歌詞に落とし込めるとか、ちょい無理があるといいますか。
小学生に物を教えるにも免許認定の試験が必要なぐらいですよ?
俺自身が理解しきれてないものを歌詞に詰め込んで不安がないかって聞かれたら、そりゃあ不安120%ですわ。あっはっはっはー。あ、なんか涙出そう。
うーん、どうしよう、どんどん不安になってきた――、目尻に浮かんだ涙を指で拭ったその時だった。
「そうだ。俺、撮影前に1個、やりたい事があるんだった」
ぽん、と思わず漫画のように手を叩く。
俺の突然の言動に、「「「やりたい事/ですか?」」」と他3人が目を丸めて、俺の方へ一斉に振り返ってきた。
「そうそう。準備してくっから、ちょっと待っててー」
そう言って、スタジオルームを飛び出す。「え⁉」「おいっ⁉」「酒井さん⁉」と三者三様の驚きの声が耳に飛び込んできたけど、その全てを無視してロビーの方へ向かう。
そうしてロビー受付にいた高瀬さんから、目当ての物を借りた後、飛び出してきた時と同じ勢いで再びスタジオルームへと戻った。
「ただいまーっ! いやー、これよこれ! なかったらどうしようかと思ったよー」
「こっちは、お前が急にいなくなっからどうしようかと思ったわ、アホ」
「お前のその突発的な行動力はどうにかならんのか」と優作が額に手を当てながら言う。「メンゴ、メンゴ」と謝れば、イラッとしたらしい優作のこめかみに青筋が立った。
おっと、まずい。何か言われる前にと、俺は急いで部屋のど真ん中に『それ』を置いた。
途端、優作、拓弥、たかのっぽくんの視線が、『それ』に集まる。
そうして次の瞬間、キョトンとした声で、3人が揃って口を開いた。
「「「ラジカセ????」」」
「いぇ~す! 大・正・解!」
3人に向かって俺は、ニッと笑い返した。
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