Herec~一度音楽をやめた奴らが『社会人バンド』を組む話~

勝哉道花@みちなり文庫

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後日談 あずきアイス

後日談-3

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「サイトって、あのサイト、ですか⁉」「うっそ! マジで⁉」「優くん、そんな事できたの⁉」とたかのっぽくん、俺、拓弥の口から驚きの声が次々と飛び出していく。

 優作が見せつけてきた画面の中。そこには確かに、WebサイトのTOPページらしきものが表示されている。
 作りかけなせいか、サイト内を彩るカラーが白と黒だけだったり、画面上部にどこかのフリーサイトから取ってきたと思われる画像が添付されていたりとするけれど、形だけを見れば確かに、よく見るバンドのオフィシャルサイトにそっくりだ。

「うわ、マジだ。マジのサイトだ……」
「タブレットでサイトって作れるもんなんですね……」
「というか優くん、一体いつの間にこんなもの作って……」

 あ然とする俺達に気前をよくしたのか、優作がニヤニヤと笑いながら俺達を見回す。そうだろ、すげぇだろ、もっと褒めろや、とでも言いたげな、してやったり顔である。

「動画の投稿ばっかしてるのもいいけどよ、やっぱ一応はわけだしな。形ぐらいでもまぁ……、ちゃんとしてるもんがあった方がいいだろ」

「社会人だって、外見がきちんとしてねぇ奴は仕事できてもいい印象持たれねぇしな」と優作がガリガリと頭を掻きながら、そっぽを向いた。

『バンドしてる』という言葉に、拓弥が思わずと言ったように優作を見た。「優くん……」と、さっきとはまた異なる驚きから、その目が見開かれる。

(なんだ。優作の奴、なんだかんだあの時の拓弥の言葉、気にしてたんだ)

 ちゃんと『バンドをしてる』と言えるのか。
 そう優作に向けて怒鳴りつけた時の拓弥の姿が、俺の頭の中に思い浮かぶ。

 結局、あの喧嘩は互いに謝って終わりはしたけど、なんだかんだ優作の中にしこりとして残ってはいたのだろう。つまるところ、優作なりに、拓弥の言葉をちゃんと受け止めて考えていたって事である。

 やり方はちょっと、いや、結構? 思った以上に、斜め上ではあったけど。

「ま、まぁっ、とにかくだっ」と優作が声を荒げた。「ま、まぁっ、とにかくだっ」と優作が声を荒げた。そうして咥えていたアイス棒を手に持つと、それを持った手の空いてる指の爪で、タブレットの画面をとんとん、と叩く。

「サイトはこうして、形になってるわけだが、ここで問題が1つ出てきた」
「問題?」

 拓弥が優作の言葉に首をかしげた。俺とたかのっぽくんも、なにそれ、と優作を見る。

「バンド名が決まってねぇせいで、サイト名がつけられねぇ」
「「「あ」」」

 バンド名。やっべ、それ忘れてたわ。

 拓弥とたかのっぽくんも同じだったようで、「あ~……」「そういえば、ないままでしたね……」となんとも言えない様子で、苦笑をその顔に浮かべている。

 バンド結成から約3ヶ月。
 たかのっぽくんも仲間入りし、オリジナルの楽曲も発表した。……というのに、実は未だに俺達のバンド名は決まっていない。

 本当は、2本目の動画をあげる時に決めりゃあよかったんだけど、結局すっかり忘れて、そのまま放置しちゃってたんだよね。どうせ優作の動画チャンネルであげるんだし、まぁいっかって思っちゃったのも原因の1つだろう。

 でもそうだよなぁ、いい加減そろそろ、作らないとだよな。

 とは言っても、言われてすぐにパッと出てくるものではない。1番楽なのは、皆の名前の頭文字を取って~、とかだけど、なんかそれもそれでやっつけ感半端ないしなぁ。

 うーん、と俺、拓弥、優作の3人で唸る。
「あの」と、たかのっぽくんが小さく手をあげた。「どうした」と優作が尋ね返す。

「その……、皆さんが以前結成されていたバンドの名前を使うとかは、さすがにまずかったりする感じですか」
「「「…………あー……」」」

「ま、前かぁ……」「前の、なぁ」「うーん、前のはなぁ」と拓弥、優作、俺の順で歯切れの悪い返事が口からこぼれ落ちていく。

 そんな大人3人組の反応が予想外だったのか、たかのっぽくんが「え、や、やっぱりダメですかね」と恐る恐ると言った様子で、再び尋ねてきた。

 いや、別にダメじゃあ、ないんだけど。いやダメと言えばダメなのかな。うーん、でもたかのっぽくんが思ってるようなダメ、とは少し違うと言いますか……。

「……ヒーロック」
「え。それって、確か皆さんが好きなアニメの名前じゃ……」
「だから、HERO ROCKって書いて、ヒーロック。それが俺達の前のバンドの名前」

 たかのっぽくんが、ぽかん、と口を開けたまま固まった。数秒の間をあけて「そ、それって……」と続けられた言葉に、「いやっ、言いたい事はわかるよっ!」とタンマをかける。

「自分達の好きなアニメ作品、しかもバンド組むきっかけのそれをそのままバンド名に使うとか、安直すぎてどうなのって、普通に思うってわかってる! 著作権とかもね、あるしね!」

「だからほら、一応字面だけはちょびっと変えて使ってはいたんですっ!」と慌てて補足するも、返ってくるのは「はあ」という微妙な相槌だけだった。なんとも言えない絶妙な返事。ちょびっとだけ泣いてしまいそう。

「だ、だって、しかたないじゃん……。俺ら皆、ネーミングセンスなかったんだもん。優作なんて、まったく思いつかないから、最終的に『めんどくせぇっ! もうポチとかたまにでもしとけ!』ってブチキレるしさぁ」
「あぁ⁉ てめぇが考えた、女子がスタバで頼みそうなくそ長ぇ、わけわっかんねぇバンド名より全然マシだったろうがっ!」
「ちょっと2人とも、一応ここ外だって事、忘れないでよ」

「大声で喧嘩してると、他の人に迷惑かかるよ」と拓弥が俺達の間に割り込んでくる。言われてハッと我に返る。

 そうだった、ここ一応駅前だった。夜も更けかけだし、人通りは減ってるけど、それでも人自体がいなくなったわけじゃない。ちらっ、とこちらに目を向けながら、歩き去っていく人達の姿が目につき、なんとも言えない恥ずかしさに襲われる。
 優作も周囲の目に気づいたらしく、「うっ」と言葉を詰まらせながら、バツが悪そうに頭を掻いた。

「あの……」と、再びたかのっぽくんが口を開いた。「こういうのは、どうですか」と、コートのポッケから取り出したスマホに何かを打ち込み始める。
 そうして数秒もしない内に打ち終えると、スッと俺達の前にスマホ画面を出した。

 テキストアプリが開かれた、白い画面。

 そこに英単語が1つ、ぽつんと書かれている。

 ――『Herec』
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