Herec~一度音楽をやめた奴らが『社会人バンド』を組む話~

勝哉道花@みちなり文庫

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後日談 あずきアイス

後日談-2

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「帰って……。その、バンドをやってる事を、ちゃんと親に話そうと思います」

「ベースの事とか、ピアノの事も。ちゃんと」そうたかのっぽくんが、ぽつりぽつりと言葉を続ける。その場面を想像しての不安からか、次第にそのイケメンフェイスが暗く、俯き始めていく。

「たかのっぽくん……」と思わず、その名前を呼ぶ。と、俺の心配が伝わったらしい。たかのっぽくんが俺の方へ顔を向けると、いつかの俺が彼にそうしたように「大丈夫ですよ」と笑った。

「そりゃあ、素直に受け入れてもらえるかって言われたら、たぶん難しいとは思います。反対……、もされるかもしれません。妹にはすでに話してありますけど、今回自分がした事がした事なので、味方になってくれるかと言われたらちょっと微妙な気も。でも……、言うだけ言ってきます」

「いつまでも逃げてるわけにはいきませんから」そう言ってたかのっぽくんが、あずきアイスをかじった。ガリッ、と氷となったあずきが砕ける音が、その場に小さく響いた。

(いつまでも逃げてるわけにはいかない、か)

 すげぇなぁ、たかのっぽくん。その結論に自分の力でたどり着けたんだ。

 俺達がバンドの事や郁也の事なんかで、わーわーぎゃーぎゃーしてるその横で、彼がずっと1人で悩んできた事は明白だ。俺達が気づけなかっただけで、きっとたかのっぽくんは、たかのっぽくんなりに色々悩んで、迷っていた筈である。

 誰にも言えず、相談する事もできず。
 でもそれでも諦めずに、悩んで、考えて、迷って、それで逃げない事を選んだのだ、彼は。

(……郁也、何してるかなぁ、今頃)

 ふいに思い浮かぶ、旧友の姿。

 たかのっぽくんがそうであったように、きっと今も1人で戦い、悩み、苦しんでいるかもしれない、幼馴染。その姿が俺の脳裏に浮かぶ――。


 郁也と3度目の再会したのは、制作し終えた2本目の動画を公開した、その翌週の事だった。

 11月の第2火曜日。
 前回と同じで、その日のバンド練習を行うスタジオルームへ向かっている最中の事だった。

 だが前回と異なり、その場には俺以外にも拓弥と優作がいた。ロビーで受付をしている間に合流し、そのまま一緒に部屋に向かう事となったのである。

 通路奥、俺達が向かう方向から郁也がやってきた。俺達の姿を認めたらしい郁也が、瞬間、その顔を顰めて足を止めた。
 こちらの足も止まる。拓弥が、まずいというように表情をこわばらせ、優作が警戒心むき出しの表情をその顔に浮かべる。

 だが、俺達の予想に反して、郁也は何も言わなかった。
 そうして歩みを再開すると、何も言わず俺達の横を通り過ぎていった。

(郁也が、俺達の事を認めてくれているかどうかって言われたら、それはちょっとわからない)

 でも何かしらの心境の変化があったらしい事は確かなはずだ――、身につけている仕事着兼コート代わりのウィンドブレーカーのポッケに手を突っ込む。
 そうして中にしまっていたスマホを取り出し、今月の頭に投稿したばかりの演奏動画を確認する。

 再生回数、45。前回よりは稼げているけど、やっぱりしょぼい数字だ。

 でも、そんな再生回数の下に、1という数字が表示されている箇所がある。

 再生回数の下に表示されている、親指をたてたマーク。表示されている動画に対する高評価を送る為のボタンだ。その下には、そのボタンが押された回数を表示する欄がある。

 そこに1という数字がついている。

 たった1回、たかが1回――、されど1回。

 なんだかんだ45回は再生された動画の中で、たった一回しか押されなかったボタン。そう言ってしまえば、厳しくて寂しい現実ではあるが、一度も押されなかった前回と比べれば、その差は雲泥の差である。この場にいる誰もが喜んだのは言うまでもないだろう。

 でも皆が喜ぶ中、俺だけはなんとなく、もしかしたら、という考えがあった。

 記入者の名前が残るコメントと違って、評価ボタンは押した相手の名は、動画投稿者相手にも公開されない。要は、完全に匿名での評価ができるという事だ。

 だから確証的な事は言えないけれど……、でももしかしたら、見てくれたのかなって。

 俺達の新しい音楽を、バンドを。見てくれたのかなって、そんな事を思ってしまっても、しかたないだろう。

(もう、一緒にバンドをする事はできないけれど、)

 皆、音楽という同じ場所にいる。
 同じものを見ることは出来なくても、それでも皆、同じ場所にいるから、

(届くといいなぁ、郁也にも)

 俺が思った何かが、伝わっていたら嬉しいなぁ――、そんな事を思った瞬間だった。

「偉いっ!」

 と優作が声を張りあげたのは。

「偉いっ、たかのっぽくん、お前は偉いぞっ!」
「え、お、俺ですか」

 突然名前を呼ばれた事で驚いたらしいたかのっぽくんが、びっくりしたように優作突然名前を呼ばれてたかのっぽくんが、びっくりしたように優作の方へ顔を向けた。

 そんなたかのっぽくんに「おうっ」と優作が頷き返す。そうして、ガリガリボリボリガリガリッ! と残っていたあずきアイスを一気に食べきった。まるで某じゃがいもスティックのCMのように、勢いよく食べ終えた優作に俺も拓弥も目を丸くしてしまう。

 な、なんだなんだ、どうしたんだ、優作の奴。冬場のあずきアイスなんて、アホみたいな事したせいで、俺のアホ具合がうつりでもしたか? 

 だが俺達の視線など気にした様子もなく、優作は食べ終えたあずきアイスの棒を口にくわえながら「そんなたかのっぽくんにいいものをやろう」と、笑った。

「い、いいもの……、ですか?」
「おう。いいものだ。つーってもまぁ、正確には、たかのっぽくんにというか、今この場に居る全員にって感じのもんだけどな」

「本当はちゃんと完成してから見せるつもりだったんだが、まっ、いいだろ」そう言って、優作が自身の背中に背負っていたリュックを地面におろし、その中からタブレットを取り出した。

 フタつきの、黒い皮製のケース入りタブレット。小学校の子ども達が持っているようなゴツいそれとは違う、オシャレで大人な持ち物って感じのケースに包まれたそれを、慣れた手付きで優作がサッサッサーッと操作していく。

 かと思うと、突然俺達の前に立ち、「とくと見やがれっ」とその画面を、バッ! と勢いよく見せつけてきた。

「現役SEであるこの俺が、お前らのためにバンド用のサイトを作ってやったぞ!」
「「「サ、サイト⁉」」」
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