Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 妹と兄と自主制作

1-7

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 ダラダラと、滝のような冷や汗が俺の心の中を流れていく。
 逃げ場を求めるように、手元に置いていたドリンクバー産のコーヒーに手をつけた時、右隣に座る優作が肘で俺をつついてきた。

 もう耐えきれんと言わんばかりに、「なぁ」と小声で俺と拓弥に話しかけてくる。

「なんで俺達、たかのっぽくんの妹ちゃんにこんなに睨まれてんだよ」

「いや、俺に訊かないでよ、わかるわけないじゃん、そんなの」

「と、とりあえず、今は話を進めるしかないんじゃない? 一応、顔合わせってことなんだし、こっちも自己紹介ぐらいはしとかないと失礼だよ」

 大人達のヒソヒソ話を無理やり締めくくるように、「あー、えっと、こほん」と、拓弥がわざとらしく咳払いをする。

 そうして「シオリさん、でしたっけ」と、場の空気を切り込みにいく。

「今回は俺達のMVを制作していただけるとの事で、お声をかけてくださり、ありがとうございます。たかのっぽくん……、じゃなくて、えぇっとお兄さんの方からお話は聞いてるかもしれないけれど、改めて自己紹介を。おれ達がお兄さんとバンドを組ませてもらっているHerecのメンバーです。おれがギターの井尻拓弥といいます」

「それで、こっちがバンドの発起人でボーカルの酒井透くん、その隣にいるのが、ドラムのゆーくんです」と、拓弥が俺達を手で示しながら紹介を続ける。
「透です」「どうも」と俺、優作の順に、拓弥の紹介に合わせて頭をさげる。

 と、

「……『たかのっぽ』?」

 ぴくりと、妹ちゃんが片眉を揺らした。
 次の瞬間、その薄灰色の瞳が険しい眼差しを携えたまま、自身と同じ色の瞳を持つ隣人へと向けられた。

「お兄ぃ、たかのっぽって名乗ってるんだ」
「……んだよ。なんか文句あるわけ」
「別に。相変わらずネーミングセンスがないなって思っただけ」

「ダサ」と、ぽそっと小さくシオリちゃんが呟く。

 たかのっぽくんが「あ?」とイラッとした声をあげた。
 シオリちゃんの方も、「は?」と売り言葉に買い言葉よろしく、イラ立たしげに返す。

(もしかしなくてもだけど……、この2人、思った以上に仲が悪いわね⁉)

 仲がよくない事は察してたけど、まさかここまで悪いとは。
 こんな口が悪いたかのっぽくんも初めて見たよ、俺。うわ~、え~、マ、マジでかぁ~~~。

 バチバチバチと、目に見えぬ火花を散らし始めた兄妹の姿に、優作と拓弥の2人も困惑した様子でお互いに目を合わせている。

 とにもかくにも、このまま放置はどう考えてもまずい。
 現状を変えるため、俺は慌てて「あ、あのさっ」と、たかのっぽくんとシオリちゃんに声をかけた。

「え、えぇっと、とりあえず、その、今回のシオリちゃ……、じゃなくて、シ、シオリさんの自主制作について、改めて詳しく教えてもらってもいいです、か!」

『シオリちゃん』と口にした瞬間、ギロリと、呼んだ相手から鋭い視線が飛んできたので、慌てて『シオリさん』と言い直す。
 なんでアンタにちゃん付けなんてされなきゃいけないのよ。そうありありと、目が語っていた。

(そ、そうだよね、出会ってまだ数分程度の相手にちゃん付けなんて、馴れ馴れしくって嫌だよね、すみませんっ‼)

 でも、俺としてはちゃん付けの方が呼びやすいと言いますか……。
 うぇ~、なんか凄いやりづらいよぉーっ。年度初めに、新しく受け持つ事になったクラスの子達との距離感を掴む時以上に大変だよ、これ~っ。

 心の中で泣き声をあげていると、ふいにシオリちゃん――心の中でぐらいなら、ちゃん付けでもいいよね? ――が、ふぅ、と息を吐いた。

 と、同時に殺意マシマシな目が引っ込まれ、「まぁ、そうですね」と落ち着いた声が返される。どうやら、俺の発言そのものは一理あると思ってくれたようだ。

 よ、よかった。どうにか事態を落ち着かせる事はできたらしい。

「どうせ、この木偶の坊な兄の事です。皆さんには、私が自主制作の助力を求めているぐらいの話しかしてないんでしょう? 改めて、私の方からも詳しく事情をお話させていただければと思います」

 実の兄を木偶の坊呼びですか。
 この妹さんもなかなかにやりよる……。

『木偶の坊』と呼ばれたたかのっぽくんが、ぴくりと気に触ったように片眉を揺らす。
 が、ここで口を挟んだら話が進まないと思ったのだろう。その口が開かれる事はなかった。

 それにホッと胸をおろしたのは、多分俺だけじゃないだろう。左右に居座る幼馴染達の安堵した顔を見ながらそう思う。

(これは、思ってもみない感じになってきたぞ~)

 はたして本当に無事にMV制作はできるのだろうか。そんな一抹の不安が俺の中を横切っていった。
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