Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 妹と兄と自主制作

1-19

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 第2の事件が起きたのは、スタジオ入りをした後の事だった。

 たかのっぽくんと無事に合流できた俺達は、再びショッピングモールで時間を潰した後、そろそろ入れるだろう、という頃合いを見てRe:crieationへ向かった。

 ロビーにて、受付にいた女性スタッフの高瀬たかせさんに声をかける。どうやら、高瀬さんの方は俺達が来る事を把握していなかったらしい。平日夜常連の俺達が休日、それも夕方に来た事に驚いたのか、「あれ、この時間からなんて珍しいですね」と、そのパッチリとした目が驚いたように瞬かれた。

「急遽入れてもらったんですよ」なんて、そんな雑談に花を咲かせつつ、彼女からレンタルの機材と楽器を借りて、俺達は予約した部屋へ向かった。

 急遽予約を取ったという事もあってか、入った部屋は俺達がよく使っている部屋とは異なるタイプの部屋だった。
 とはいえ、広さや部屋のデザインそのものに大きな違いはない。置いてあるドラムの種類やアンプの種類が異なっているぐらいだ。

「アンプ違うね」「ですね」と、弦楽器組が即座にアンプの方へ足を伸ばす。弦楽器組はアンプが音の響きに直結する組なので、アンプの使い方を確認するのは2人にとっては重要な事なのである。

 優作の方も、自身の担当楽器であるドラムをチェックしに、アンプ郡の隣に置かれているドラムセットへと向かう。
 俺もとりあえず、マイクとかミキサー――楽器やマイクの音を混ぜるミックスするための機械である――とかのチェックするか~、と必要機材が置かれているところへ足を伸ばす。

 そんな感じに、各々に必要な準備に取り掛かっている時だった。

 ブーッ、ブーッ、と誰かのスマホが鳴ったのは。

「あ、ごめん、おれだ」と拓弥が口を開いた。ズボンの尻ポケットに手を伸ばし、そこに仕舞っていたスマホを取り出す。

 止まる気配なく、震え続ける拓弥のスマホ。「電話?」と拓弥に尋ねると、「みたい」と頷き返される。

 と、次の瞬間、その片眉が訝しげに持ちあげられた。

「? どうかしたん?」
「…………元嫁からだ」

 俺の質問に、ボソッと呟くように拓弥が返してきた。
 予想外の返事に、「え」と思わず驚きの声が俺の口からこぼれ落ちる。

 優作とたかのっぽくんも、動かしていた手を止めて、キョトンとした表情で拓弥を見ている。

(元嫁って……、それって離婚した奥さんの事だよな。拓弥、元奥さんとまだ連絡取ってたんだ)

 あ、でも、確か元奥さんの方には拓弥の娘ちゃんが一緒に居るんだっけ。それなら、子どもに関する事でやりとりする必要とかあるのか。教育費云々もだけど、子どもが居ての離婚の場合って、別れた後の元親との面会云々とか細かいあれこれがあったはずだ。

 という事は、この電話もそうした娘ちゃん関係のなんかなのだろうか。
 しかし俺の予想に反して、拓弥の方は一切心当たりがないのか、相変わらず訝しげな表情が顔に浮かんでいる。

「ごめん、とりあえず出てくる」

 拓弥が準備していたギターを、スタジオの端に置かれているスタンドにかけた。そうしてスマホを操作すると、「もしもし」と電話に出ながらドアの方へ向かっていく。

(……まぁ、何かあったら、あとで言われるか)

 とりあえず今は、練習の準備を続けよう。そう思い直し、再び機材の方へ向き直る。

 たかのっぽくんと優作も困ったように顔を見合わせてはいたが、しかしこうしていても何が解決するわけでもない事は、彼らにもわかっているのだろう。すぐに手元の楽器や機材に顔を向け、各々の作業へと戻っていった。

 ――……時、だった。

「はっ⁉ 嘘だろっ⁉⁉」

 拓弥が突然、大声をあげた。

「「「⁉」」」

 俺はもちろんの事、優作とたかのっぽくんも、ギョッと目を見開きながら拓弥の方へ振り返った。

 そこにあったのは、スタジオのドアを開けた状態で固まっている拓弥の姿だった。
 が、俺達の視線に気付いたのだろう。ハッと肩を震わしたかと思うと、一度スマホを離してこちらを振り返り、「ご、ごめん」と慌てたように謝罪をする。

 そうして再びスマホを耳にあてると、やはりどこか慌てた様子で、「うん、いや、こっちには来てない、うん」と相槌を打ちながら廊下へと出ていった。

「なんだ、今の」

 優作がセットしたドラムスローンに腰をおろしながら、怪訝そうに拓弥が出ていったドアを見た。

 なんだなんて、そんなこっちが聞きたい。「さぁ」と、俺もドアの方を見ながら呆然と返す。
 たかのっぽくんも戸惑いがちにその目を、扉と俺達との間で行ったり来たりさせている。

 さてどうするか、と3人で顔を見合わせた時、「ごめんっ」という謝罪と共に拓弥がスタジオ内に戻ってきた。

「急で申し訳ないんだけど、おれ今から帰るっ」
「は⁉」
「え」
「えぇ、今から⁉」

 突然の拓弥の報告に、優作、たかのっぽくん、俺の順に驚きの声がスタジオ内に響き渡った。

 帰るって、まだ練習のれの字も始めてないのに⁉ いや、それ以前に今の流れからして元奥さんとの間に何かあったって事だよな⁉

 拓弥の慌てっぷりも尋常じゃないし、これ絶対、なんかやばい事があったやつだろ!

 その場にいる奴らを代表するように、「なんかあったのか」と優作が拓弥に問いかけた。たかのっぽくんも心配そうに拓弥を見る。

 シールドやらなんやら、借りてきた機材をドタバタと片付け始めていた拓弥が動きを止めた。「いや、その、えっと、」と、困ったような声と共に、俺達の方を振り返る。

 続きを言うかどうかで迷ったのか、拓弥の視線が一瞬辺りを彷徨った。

 が、さすがに何も言わずに帰るのはまずいと思ったのだろう。
 ぐっ、と下唇を噛みしめると、意を決したようにその口を開いた。

「娘が…………、いなくなりました」
「「「え」」」 

 一瞬の静寂。

 言われた事が理解できなかったのか、それとも理解が追いつかなかったのか。
 どちらも意味は同じような気がするけれど、確かに一瞬、誰もが言われた意味を考えるような間が、その時その場には生まれていた。

(いなく、なった?)

 誰が? 娘が? 誰の? 拓弥の? 娘が?

 ――……いなくなった????

「「「はぁあああああああ/えぇぇぇえええええ⁉⁉⁉⁉」」」

「「「娘/さんがいなくなったぁ⁉」」」衝撃の展開を誰もが理解したその瞬間、野郎3人の大声が、スタジオ内に一斉に響き渡った。
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