Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 妹と兄と自主制作

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「お父さんが海外出身だって言うから、もっと外国人っぽい名字してるのかと思ってた」

「こっちに帰化でもしてんのかね。たかのっぽくん自身は、生まれも育ちも日本なんだろ? となりゃあ、親父さんの方が日本に帰化しててもおかしい話じゃねぇしな」
「日本で結婚したから、日本人になったってこと?」

「妹の方の名前が日本人寄りだったしな。日本人として暮らせるようにって、考えたんじゃねぇの。あからさまに外人っぽい苗字なのに、日本生まれで英語が喋れないとかってなりゃあ、将来的にいじめられる可能性もなきにしもあらずだろ」

「まっ、俺は子どもなんざできた事ねぇから、その辺の気持ちはよくわかんねぇけど」と俺の問に答えながら、優作が机上に頬杖をつく。

 あー、いじめかー。今どき外人だから、ハーフだからって理由で省かれるような事は早々ないだろうけど、からかいの対象になる可能性が絶対にないとは言い切れねぇな。日本人同士ですら、名前がからかいの理由になる事もあるわけだし。

 さすがは、顔だけで多くの修羅場をかいくぐってきた男。
 物の見方が一味違うぜ。

「でもそうやって考えると、両親の方は家族思いないい両親って感じじゃん? 家族仲よさそうに見えるっっつーか……。なんでたかのっぽくん、シオリちゃんとはあんな感じなんだろ」
「……まぁ、家族だからって、必ずしも全員と仲がいいとは限らないしね」

「悪い時はどうしたって、悪くなっちゃうものだよ」俺の疑問に言葉を返しながら、拓弥が自分の飲み物に手をつけた。
 俺のそれと同じ、赤い紙カップ。でも中身はやはり、カップのメーカーとはなんら関係ない、それどころかジュースでもない烏龍茶だったはずだ。それを静かに、俺や優作なんかとは真逆の落ち着いた雰囲気でストローを使って飲む。

 その姿はいつも通りの拓弥だったが、どことなく身にまとう空気が一瞬前よりも硬い気がするのは気のせいじゃないだろう。

(やべ、この手の話は拓弥にはタブーだったか)

 そういえば、拓弥が元奥さんと離婚した理由って、性格の不一致からだったっけ。
 あんまり詳しい事はわからないけど、以前聞いた感じじゃ喧嘩もよくしてたみたいだし、そりゃあ家族仲の複雑さってものを理解しているはずだぜ。地雷踏んでごめんなさい。

 思わず身を縮め込ませながら優作を見れば、奴も奴で、やらかしたと言いたげに顔を顰めていた。

 と、俺達の反応に気付いたのか、拓弥が「ちょっと」と困ったように苦笑した。

「そんな重たい空気にならないでよ。言った方が気まずいじゃない」

 場の空気を払拭するように言葉が続けられるが、こっちとしてはその気遣いが逆に複雑な気持ちを呼んで仕方がない。情けなさから俺が「ごめん」と謝れば、「だからいいって」と、やはり苦笑しながら拓弥が返してきた。

 その時、突然俺達3人のスマホが同時に鳴った。
 各々にスマホを手に取り、画面を見る。

 Herec用のグループチャットから新たな通知が来ていた。「今、ショッピングモールに着きました」と、たかのっぽくんからのメッセージが画面上に表示されている。

「ほら着いたってよ、迎えに行こう」

 そう言って、拓弥が椅子から立ちあがった。「だな」と優作も立ちあがる。「あ、うん」と、俺も頷きながら立ちあがった。

 不仲の美男美女兄妹に、見通しが不明になってしまったMV制作。
 そして、バンドを続けていく上では避けては通れない、第三者の存在――。

 オリジナル曲を作った時もそうだったけど、どうしてうちのバンドは何かしようとする度に、予想外な問題ばかり起きてしまうのだろう。
 そういう呪いにでもかかってるの? お祓いとかした方がいい? 今度神社でお守りでも買ってこようかしら。

(せめてこれ以上は、なんの問題も起きないでくれよ~)

 本当に、本気で、マジで。フリでもなんでもなく。

 そんな事を心の中で願いながら、残っていたジュースを一気飲みする。
 そうして空っぽになったそれを近くのゴミ箱に捨てた後、すでに歩き出していた幼馴染達に追いつくため、急いで俺も歩き出したのだった。
 
 それから数時間もしない内に、俺の心からの願いも虚しく、新たな問題が起きる事になろうとは、やはり1ミリだって想像もせずに――……。
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