Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

文字の大きさ
48 / 82
3章 子どもとカレーと背景事情

3-10

しおりを挟む
 瞬間、場の空気は一変。
 それまでにこやかに笑っていたはずのお母さんが、突然厳しい顔つきでこう返してきた。

「そんな事を言うんじゃありません」と――。

「きらり、なにもわるいこと言ってないのに」と、きらりちゃんが涙をこらえながら言葉を続けた。

「ただ、パパにも、きらりが学校でおべんきょうしてるところ見てほしかったって、そう言っただけなのに……っ。なのにママったら、とつぜんこわい顔して『パパはもう家族じゃないから、きらりの学校には行けないの』って……っ、『お父さんがかなしくなっちゃうでしょ』、『ごめんなさいしなさい』って……」
「……お父さんはなんだって?」
「『だいじょうぶだよ』って、わらってた。でも、ちょっぴりかなしそうだった……」

 その時の事を思い出したのか、きらりちゃんの顔が、くしゃりとまた大きく歪んだ。

「きらり、お父さんのこと、かなしくさせたかったわけじゃないのよ。だってきらり、お父さんのこと大すきだもん」
「でもね、同じぐらいパパのことも大すきなの。だからパパにも、きらりの“じゅぎょうさんかん“を見てもらいたかったの。でもママはダメだって……」
「“じゅぎょうさんかん“だけじゃないわ。ママにパパのはなしをするといつもそう。パパにも会いたいなって言うだけで、ママはこわい顔で『ダメ』って言うの。パパのお話は、あんまりお外でしちゃダメって。『お父さんが2人いるおうちなんて変でしょ』『パパはもう、きらりの家族じゃないのよ』って」
「きらりだって、おかしいことはわかってるもん。だからおともだちの前では、ちゃんとママのいうとおりにしてるもの」
「先生にだって、きんじょのおばさんおじさんにだって、パパのおはなしをしたことないわ。パパのおはなしするのは、ママといっしょにパパとお話するときだけ。ちゃんとそうしてるもの」 
「でも、でもね、透くん。パパだって、きらりのパパでしょ? きらりの家族でしょ?なのになんでお父さんのおはなしはよくて、パパのおはなしをするとダメなの? なんでいっしょにくらせなくなっただけで、家族じゃなくなっちゃうの?」
「それともやっぱりパパ、本当はきらりのことがイヤで大キライだから、もう家族じゃないし、きらりといっぱいおはなししてくれないの……?」

 そこまで言ったところで、ぶわりと、きらりちゃんの両目からこぼれ落ちる涙の量が増した。
 もう我慢できないというようにわんわんと大声をあげながら、きらりちゃんが泣き始める。

「きらりちゃん……」

 情けない声が俺の口からこぼれ落ちた。
 何かあるんだろうなー、とは思っていたが、まさかこんな込み入った事情だったとは。

 なぜ一緒に暮らせなくなっただけで、家族じゃなくなるのか。そんな複雑で大人だって答えるのが難しいような問が、こんな小さな子どもの口から出てくるなんて、全くもって夢にも思わなかった。

 この子はずっと、これを誰にも聞けずに黙っていたのか。
 いや、聞いても答えてもらえないとわかっていたのかもしれない。
 ダメだ、ダメだと言うばかりの両親相手には、聞いてもきっと何も教えてもらえないと、そう思ってしまっていたのだろう。

(とはいえ、拓弥の元奥さんもきらりちゃんを傷つけたくて、そんな言葉を言ったわけじゃないんだろうな)

 これは想像だが、きらりちゃんのお母さんとしては、きらりちゃんがパパの話をする事で、周りから変な目で見られないようにしたかったのではないだろうか。

 大人ならある程度の事情は察せられるけど、子どもの場合はそうは問屋が卸さない。

 特に小学1年生、それも入学したばかりの子ども達なんて、実質幼稚園・保育園の年長さんとそう変わりない。
 実際教師間でも、「1年生は最初の半年間が1番大変だ」と言う者もいるぐらいだ。それぐらいに、今この時期の1年生達は、『小学生』と呼ぶにはまだどこか幼さが残っている子の方が多い。

 そんな子ども達に「うちにはパパとお父さんがいる」なんて言ったらどうなるか。そんなのは火を見るよりも明らかだ。
 まだオブラートに包むとか、気を遣うとか、そういう会話のテクニックを覚えていない子ども達のストレートな言葉は、時として同年代の相手の心をいともたやすく傷つけてしまう。相手にその意志がなかったとしても、だ。

(もしかして、きらりちゃんと会った時に顔を合わせようとしなかったのは、これが原因なのかな)

 つまるところ、拓弥の元奥さんも拓弥同様にきらりちゃんと仲違い中なのだろう。
 親が子どものためを思って言った事でも、子どもからすれば納得のいかない事なんて山程ある。それで親子喧嘩なんて、あるあるな親子ネタだろう。

 拓弥の話っぷり的に、元奥さんの方も結構我が強い人みたいだしな。
我の強い母親VS 我の強い娘じゃ、そりゃあ喧嘩も加速するってものだ。間に挟まれてるお父さん、大丈夫かなぁ。思わず、その現状を想像して内心遠い目をしてしまう。

(……拓弥もそうだったのかな)

『ダメだよ』――そう、きらりちゃんに厳しい声で告げた拓弥の姿が脳裏を横切る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...