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4章 臆病者と家族とキラキラ星
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「…………あー、あったな、そんなこと」
途端、俺の頭の中に、当時の記憶が昨日よりも鮮明に甦ってきた。
それは小学生も6年目の秋のこと。
長い夏休みも終わり、秋の木枯らしと共にやってきた新学期が、少しずつ夏の気配を遠くに追いやり始めていた――、そんな時期の話だ。
郁也の一言で遊びではなく本気でバンドを結成する事を決めた俺達は、その活動の第一歩として、先の話にも出たようにそれぞれの親にバンドについて相談する事となった。
しかし、自分達が子どもである以上、本当にバンドがしたいと言っても親は本気にしないだろうし、したところで渋るだろう事は目に見えていた。
それでも、それを乗り越えなければ俺達のバンド活動は始められない。
俺や優作はもちろん、両親が仕事でなかなか家にいない郁也ですら、機会を伺って各々に親にバンドの事を相談した。
遊びではなく、本気で本当に本格的な活動がしたいのだと、説明に説明を重ね、どうにか3人で保護者の許可を得る事ができた。
だが、そんな俺達とは異なり、拓弥だけはずっと親に言えずにいた。
俺や優作、郁也が「拓弥の家はどうなったのか」と尋ねても、「あぁ、うん、ちょっとね」とお茶を濁すばかりで逃げられる日々。
それが1ヶ月近くも続けば、しびれも切れるという話で、ついに俺達3人は拓弥に話さない理由を問い詰める事にした。
場所は郁也の家。常に仕事で親が家にいない郁也の家は、子どもが大事な秘密ごとを話すたまり場として適していた。
一応、例のタイムカプセルを埋めた秘密基地もあったけど、あそこは仮にも外だったからな。どこで誰に話を聞かれているかわかりゃしない。
それにもう小学生も6年目の子ども達だ。
近所の空き地に作った小さな秘密基地に集まるのは、どうにも恥ずかしいものがあった。
自分達以外誰もいない空間で、己を囲む友人達。
さすがにもう逃げられないと悟ったらしい拓弥は、ようやっと自分が親に言えずにいる理由を俺達に話した。
今にして思えば、拓弥の性格を知る者であれば、この展開はある程度予想できたものだったかもしれない。
自分からはあまり前に出ないタイプの子どもで、普段から他人を思いやっては自分の意見を引っ込める傾向にある子ども。その点を鑑みるなら、確かに拓弥が自ら進んで親に「バンドをやりたい」なんて言い出せるわけがないのだ。
それが手に取るようにわかっただけに、当時の俺と優作が腕を組んで悩んだのはいうまでもないだろう。
拓弥がそういう奴だと知っていたからこそ、それ以上責めるのは気が引けてしまったのだ。
が、そのなかで動いた者が1人。
それが郁也だった。
「あれは衝撃的な光景だったなー」と俺が当時を振り返りながら言えば、「そんなしみじみ言わないでよ」と、拓弥が恥ずかしそうに返してきた。
当時の痛みを思い出したのか、さり気なく自分の尻をさすっている。
「いやだって、まさかあそこで物理攻撃仕掛けるなんて思わないじゃん。思いっきり蹴っ飛ばしてたよな、郁也の奴」
尻を叩くなんて慣用句はあるが、それを物理で実践するとは誰も予想がつくまい。
まぁ、今にして思えば、アイツすぐに手足が出るタイプの子どもだったしな。
優作にも負けず劣らずな短気でもあったし、優作にも負けず劣らずな短気でもあったし、それを思えばむしろ逆に、あの時あの瞬間まで郁也が手を出さずにいた事自体が奇跡だったのかも?
「おかげで吹っ切れたのは、事実だけどね」
拓弥が肩をすくめた。
「『自分でやるって決めたことぐらい、最後まで突き通せ』って、そう言われてさ。あれは結構来るものがあったなぁ。おれ、結構揺らぎやすいところあるからさ。凄い臆病者なんだよ、実は」
自嘲気味に続けられた言葉に、思わずムッとなる。
臆病者って、なんじゃそりゃ。確かに他人に遠慮しすぎなきらいはあるが、別にそれが臆病者の証ってわけじゃないだろう。
自己主張が低いのはまだ大目に見られるけど、自己評価が低いのまでは友達として見過ごせん。
「別に臆病者ではなくね? あの時だって、いろいろ言ってはいたけど、結局は両親の事を思って何も言えなくなっただけだろ」
「人に優しいだけじゃん」と唇を尖らせながら言い返す。
が、俺の心からの不満は、「そんな事言うのは透くん達ぐらいだよ」と、苦笑を浮かべる拓弥本人によって一蹴されてしまった。
「別に、あそこで言った理由が嘘だってわけではないよ? うち、両親共に自営業だからさ、収入が不定期で家計の事を考えると親に負担をかけそうで相談しづらかってのも本当だし、ギターなんてボーカルの次に目立つようなポジションを、自分なんかがやってもいいのかって急に不安になっちゃったのも本当。でもそれ以上にね……、おれは本当になってしまう事が怖かっただけなんだよ」
「本当になってしまう事が怖かった?」
なんじゃそりゃ、と言葉の意味を問うように、俺は拓弥の言葉をオウム返しした。
途端、俺の頭の中に、当時の記憶が昨日よりも鮮明に甦ってきた。
それは小学生も6年目の秋のこと。
長い夏休みも終わり、秋の木枯らしと共にやってきた新学期が、少しずつ夏の気配を遠くに追いやり始めていた――、そんな時期の話だ。
郁也の一言で遊びではなく本気でバンドを結成する事を決めた俺達は、その活動の第一歩として、先の話にも出たようにそれぞれの親にバンドについて相談する事となった。
しかし、自分達が子どもである以上、本当にバンドがしたいと言っても親は本気にしないだろうし、したところで渋るだろう事は目に見えていた。
それでも、それを乗り越えなければ俺達のバンド活動は始められない。
俺や優作はもちろん、両親が仕事でなかなか家にいない郁也ですら、機会を伺って各々に親にバンドの事を相談した。
遊びではなく、本気で本当に本格的な活動がしたいのだと、説明に説明を重ね、どうにか3人で保護者の許可を得る事ができた。
だが、そんな俺達とは異なり、拓弥だけはずっと親に言えずにいた。
俺や優作、郁也が「拓弥の家はどうなったのか」と尋ねても、「あぁ、うん、ちょっとね」とお茶を濁すばかりで逃げられる日々。
それが1ヶ月近くも続けば、しびれも切れるという話で、ついに俺達3人は拓弥に話さない理由を問い詰める事にした。
場所は郁也の家。常に仕事で親が家にいない郁也の家は、子どもが大事な秘密ごとを話すたまり場として適していた。
一応、例のタイムカプセルを埋めた秘密基地もあったけど、あそこは仮にも外だったからな。どこで誰に話を聞かれているかわかりゃしない。
それにもう小学生も6年目の子ども達だ。
近所の空き地に作った小さな秘密基地に集まるのは、どうにも恥ずかしいものがあった。
自分達以外誰もいない空間で、己を囲む友人達。
さすがにもう逃げられないと悟ったらしい拓弥は、ようやっと自分が親に言えずにいる理由を俺達に話した。
今にして思えば、拓弥の性格を知る者であれば、この展開はある程度予想できたものだったかもしれない。
自分からはあまり前に出ないタイプの子どもで、普段から他人を思いやっては自分の意見を引っ込める傾向にある子ども。その点を鑑みるなら、確かに拓弥が自ら進んで親に「バンドをやりたい」なんて言い出せるわけがないのだ。
それが手に取るようにわかっただけに、当時の俺と優作が腕を組んで悩んだのはいうまでもないだろう。
拓弥がそういう奴だと知っていたからこそ、それ以上責めるのは気が引けてしまったのだ。
が、そのなかで動いた者が1人。
それが郁也だった。
「あれは衝撃的な光景だったなー」と俺が当時を振り返りながら言えば、「そんなしみじみ言わないでよ」と、拓弥が恥ずかしそうに返してきた。
当時の痛みを思い出したのか、さり気なく自分の尻をさすっている。
「いやだって、まさかあそこで物理攻撃仕掛けるなんて思わないじゃん。思いっきり蹴っ飛ばしてたよな、郁也の奴」
尻を叩くなんて慣用句はあるが、それを物理で実践するとは誰も予想がつくまい。
まぁ、今にして思えば、アイツすぐに手足が出るタイプの子どもだったしな。
優作にも負けず劣らずな短気でもあったし、優作にも負けず劣らずな短気でもあったし、それを思えばむしろ逆に、あの時あの瞬間まで郁也が手を出さずにいた事自体が奇跡だったのかも?
「おかげで吹っ切れたのは、事実だけどね」
拓弥が肩をすくめた。
「『自分でやるって決めたことぐらい、最後まで突き通せ』って、そう言われてさ。あれは結構来るものがあったなぁ。おれ、結構揺らぎやすいところあるからさ。凄い臆病者なんだよ、実は」
自嘲気味に続けられた言葉に、思わずムッとなる。
臆病者って、なんじゃそりゃ。確かに他人に遠慮しすぎなきらいはあるが、別にそれが臆病者の証ってわけじゃないだろう。
自己主張が低いのはまだ大目に見られるけど、自己評価が低いのまでは友達として見過ごせん。
「別に臆病者ではなくね? あの時だって、いろいろ言ってはいたけど、結局は両親の事を思って何も言えなくなっただけだろ」
「人に優しいだけじゃん」と唇を尖らせながら言い返す。
が、俺の心からの不満は、「そんな事言うのは透くん達ぐらいだよ」と、苦笑を浮かべる拓弥本人によって一蹴されてしまった。
「別に、あそこで言った理由が嘘だってわけではないよ? うち、両親共に自営業だからさ、収入が不定期で家計の事を考えると親に負担をかけそうで相談しづらかってのも本当だし、ギターなんてボーカルの次に目立つようなポジションを、自分なんかがやってもいいのかって急に不安になっちゃったのも本当。でもそれ以上にね……、おれは本当になってしまう事が怖かっただけなんだよ」
「本当になってしまう事が怖かった?」
なんじゃそりゃ、と言葉の意味を問うように、俺は拓弥の言葉をオウム返しした。
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