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4章 臆病者と家族とキラキラ星
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家族の前か友達の前かで、態度は変わるもの。なんてのは、昨日、デパートのフードコートで拓弥、優作と話したばかりの話題だ。
あの時は確かになぁと思う反面、でもだからってあぁも口が悪くなるものか? と疑問を覚えたが……。なるほど確かに。今の拓弥の様子を見るに、そういう場合も重々ありえる事のようだ。
自分が思う以上に、人というのは相手によって態度を変えている生き物なのだったらしい。
(でもきっと、それは相手の事が嫌いだからとか、そういう話とはまた別物な気がする)
むしろ、その反対な気すらする。ちょっと乱暴に言ってもいい。そのように言い合っても対等でいられる。許される。そうわかっているから、信頼しているからこその物言い。そんな風に聞こえる。
たとえるなら、先の俺と高瀬さんとのやり取りのような。
こういう態度で接しても問題ない相手だとわかっているからこその、一種の『くだけ』のようなものが、この乱暴には含まれている気がする。
(……それでもやっぱり、たかのっぽ家のそれは、どこか度が過ぎてる気がするけど)
本当、なんであそこまで仲が悪いんだろう。俺が内心で首をかしげたその時、「大体の理由はわかったよ」と拓弥が口を開いた。
「確かにこれは、きらりと言うよりはおれ達親側の問題だな。おれも昨晩は、ちょっとキツい言い方しちゃったかもしれないって後悔してたし。はー……、まさかそこまで思い詰めさせちゃってたとは、思ってもみなかったなぁ」
「ごめんね。うちの事で、いろいろ迷惑かけちゃって」と拓弥が、申し訳無さそうにへにゃりと眉を垂らして笑う。いつもとはまた違った意味で力のない笑みに、「いや、別に……」と思わずモゴモゴと口ごもりながら俺は返した。
「迷惑ってほど、迷惑はかかってねぇよ。むしろ、拓弥も人の子だったんだなぁって思えて、なんか安心したぐらい」
「えー、何それ。俺、透くんからどんな人間に見えてるのさ」
「しっかり者の優等生で頼れる皆のまとめ役」
「人として完璧すぎない?」
困ったように拓弥が苦笑する。そうかなー。普段の拓弥ってそういう感じの奴だと思うけど。確かにきらりちゃんの件では冷静さを欠いてるが、それはそれ、これはこれだ。
実際、昨日のシオリちゃんとの話し合いの時も、率先して話を進めてくれたのは拓弥だったしね。
普段のバンド内での話し合いだって、拓弥が中心に立って話をまとめてくれる事が多い。
これで「そんな奴じゃない」なんて言うのは、詐欺って話だ。
「本当にそう思ってんだけどなー」と口を尖らせて抗議すれば、拓弥がまた苦笑した。
かと思うと、ふっと俺から視線をそらし、緩やかにその首を横に振った。
「……そんないい奴じゃないよ、おれは」
「? 拓弥?」
ボソッと呟くように返された言葉に、思わずびっくりして目を丸める。
周りが静かじゃなかったら、きっと拾う事もできなかったほどの小さな声。
その弱弱しさにあ然としていれば、俺を驚かせてしまった事を悪く思ったらしい拓弥が、先刻も見た申し訳無さそうな笑みを再びこちらに向けてきた。
「ねぇ、透くん。透くんはさ、覚えてる? おれ達が初めてバンドを組もうって話になった時のこと」
「初めてって……、それってHERO ROCKを結成した時のこと?」
「Herecじゃなくて」と俺が確認するように問うと、「そう」と拓弥が頷いた。
HERO ROCK。
それは、まだ俺達がバンドでやっていく事を夢見ていた時代に組んでいたバンドの名前だ。
名の由来は言わずもがな、自分達をバンドに繋げてくれた例のアニメだ。とはいえ、完璧に名前を同じにしてしまうと著作権云々とか厄介事が発動してしまうので、字面だけは変えてバンド名に起用した。
今使っているHerecの名だって、実は『ヒーロック』を手本につけた名前だったりする。
Hereとrecをあわせて、Herec。
『自分達の作ったものをここに残す』。そんな意味を込めて、たかのっぽくん発案でつけられた名前となっている。
にしても驚きだ。まさか昨日、俺自身がたまたま振り返った思い出を、当の本人の口から聞かされる羽目になるとは。
だが、それが今の現状とどう繋がるのだろう。話の意図が掴めず首をかしげれば、そんな俺を見た拓弥が再び苦笑した。
「『本物のバンドをしてみないか』って郁也くんの声かけで、バンドを始めようってなってさ。でも、おれ達だけじゃ機材や練習場所の準備をしようにもまだ難しくて……。だから一度、各々で親に相談しようって話になったでしょ?」
「覚えてる?」と再び拓弥が俺に尋ねてくる。
「覚えてる覚えてる」と俺は拓弥に頷き返した。
「俺や優作、郁也がすぐに親に相談したのに対して、拓弥がなかなか親にバンドの事を言い出せなくて、うじうじモジモジし続けてたやつだろ?」
「うじうじモジモジって。そこまで女々しくはしてな……、いや、うん、まぁ、でもそうだね。うじうじはしてたね。いろいろ理由つけてさ」
「親に負担かけるのはとか、ギターをやるのが自分でいいのかーとかってね」と、当時から変わりない苦笑を顔に浮かべながら拓弥が続けた。
「じゃあ、その時におれが郁也くんに尻を蹴られた事も覚えてる?」
あの時は確かになぁと思う反面、でもだからってあぁも口が悪くなるものか? と疑問を覚えたが……。なるほど確かに。今の拓弥の様子を見るに、そういう場合も重々ありえる事のようだ。
自分が思う以上に、人というのは相手によって態度を変えている生き物なのだったらしい。
(でもきっと、それは相手の事が嫌いだからとか、そういう話とはまた別物な気がする)
むしろ、その反対な気すらする。ちょっと乱暴に言ってもいい。そのように言い合っても対等でいられる。許される。そうわかっているから、信頼しているからこその物言い。そんな風に聞こえる。
たとえるなら、先の俺と高瀬さんとのやり取りのような。
こういう態度で接しても問題ない相手だとわかっているからこその、一種の『くだけ』のようなものが、この乱暴には含まれている気がする。
(……それでもやっぱり、たかのっぽ家のそれは、どこか度が過ぎてる気がするけど)
本当、なんであそこまで仲が悪いんだろう。俺が内心で首をかしげたその時、「大体の理由はわかったよ」と拓弥が口を開いた。
「確かにこれは、きらりと言うよりはおれ達親側の問題だな。おれも昨晩は、ちょっとキツい言い方しちゃったかもしれないって後悔してたし。はー……、まさかそこまで思い詰めさせちゃってたとは、思ってもみなかったなぁ」
「ごめんね。うちの事で、いろいろ迷惑かけちゃって」と拓弥が、申し訳無さそうにへにゃりと眉を垂らして笑う。いつもとはまた違った意味で力のない笑みに、「いや、別に……」と思わずモゴモゴと口ごもりながら俺は返した。
「迷惑ってほど、迷惑はかかってねぇよ。むしろ、拓弥も人の子だったんだなぁって思えて、なんか安心したぐらい」
「えー、何それ。俺、透くんからどんな人間に見えてるのさ」
「しっかり者の優等生で頼れる皆のまとめ役」
「人として完璧すぎない?」
困ったように拓弥が苦笑する。そうかなー。普段の拓弥ってそういう感じの奴だと思うけど。確かにきらりちゃんの件では冷静さを欠いてるが、それはそれ、これはこれだ。
実際、昨日のシオリちゃんとの話し合いの時も、率先して話を進めてくれたのは拓弥だったしね。
普段のバンド内での話し合いだって、拓弥が中心に立って話をまとめてくれる事が多い。
これで「そんな奴じゃない」なんて言うのは、詐欺って話だ。
「本当にそう思ってんだけどなー」と口を尖らせて抗議すれば、拓弥がまた苦笑した。
かと思うと、ふっと俺から視線をそらし、緩やかにその首を横に振った。
「……そんないい奴じゃないよ、おれは」
「? 拓弥?」
ボソッと呟くように返された言葉に、思わずびっくりして目を丸める。
周りが静かじゃなかったら、きっと拾う事もできなかったほどの小さな声。
その弱弱しさにあ然としていれば、俺を驚かせてしまった事を悪く思ったらしい拓弥が、先刻も見た申し訳無さそうな笑みを再びこちらに向けてきた。
「ねぇ、透くん。透くんはさ、覚えてる? おれ達が初めてバンドを組もうって話になった時のこと」
「初めてって……、それってHERO ROCKを結成した時のこと?」
「Herecじゃなくて」と俺が確認するように問うと、「そう」と拓弥が頷いた。
HERO ROCK。
それは、まだ俺達がバンドでやっていく事を夢見ていた時代に組んでいたバンドの名前だ。
名の由来は言わずもがな、自分達をバンドに繋げてくれた例のアニメだ。とはいえ、完璧に名前を同じにしてしまうと著作権云々とか厄介事が発動してしまうので、字面だけは変えてバンド名に起用した。
今使っているHerecの名だって、実は『ヒーロック』を手本につけた名前だったりする。
Hereとrecをあわせて、Herec。
『自分達の作ったものをここに残す』。そんな意味を込めて、たかのっぽくん発案でつけられた名前となっている。
にしても驚きだ。まさか昨日、俺自身がたまたま振り返った思い出を、当の本人の口から聞かされる羽目になるとは。
だが、それが今の現状とどう繋がるのだろう。話の意図が掴めず首をかしげれば、そんな俺を見た拓弥が再び苦笑した。
「『本物のバンドをしてみないか』って郁也くんの声かけで、バンドを始めようってなってさ。でも、おれ達だけじゃ機材や練習場所の準備をしようにもまだ難しくて……。だから一度、各々で親に相談しようって話になったでしょ?」
「覚えてる?」と再び拓弥が俺に尋ねてくる。
「覚えてる覚えてる」と俺は拓弥に頷き返した。
「俺や優作、郁也がすぐに親に相談したのに対して、拓弥がなかなか親にバンドの事を言い出せなくて、うじうじモジモジし続けてたやつだろ?」
「うじうじモジモジって。そこまで女々しくはしてな……、いや、うん、まぁ、でもそうだね。うじうじはしてたね。いろいろ理由つけてさ」
「親に負担かけるのはとか、ギターをやるのが自分でいいのかーとかってね」と、当時から変わりない苦笑を顔に浮かべながら拓弥が続けた。
「じゃあ、その時におれが郁也くんに尻を蹴られた事も覚えてる?」
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