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5章 本気と『本気』と似た者同士
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――1週間後、5月第2日曜日。
待ち合わせ先であるRe:creation近くのファミレスに入ると、そこにはすでに待ち合わせ相手の姿があった。
休日とはいえ、まだ午前も半ばで客足もまばらな店内。そんな店内の真ん中に設置された2人がけの席に座る、美しいお人形顔の少女。
今日も今日とて、ドレスにも似たゴシックなファッションに身を包み、スッと背筋を伸ばして白いカップに口をつけている様は、まるでどこぞの貴族が、優雅にアフタヌーンティーでも楽しんでいるかのようだ。
いや、時間帯的にはアフタヌーンっていうより、モーニングって言った方が正しいのか?
どちらにせよ、一般庶民の集いの場で目にするには少々場違いな空気がある。
(俺、今からあれに声かけるの? 1人で?)
ちょっとハードル高くねぇですか。思わぬ高貴な光景に、背中を流れる冷や汗が止まらない。
しかし、今さら後に引くわけにもいかない。なにせ、今日彼女を呼び出したのは他でもない――、この俺なのだから。
「何名様ですか」と尋ねてきた店員に「待ち合わせしてます」と返し、覚悟を決めて歩き出す。少ないお客達から注がれる興味深げな視線をかいくぐり、その視線の中心にいる少女の背に向かって声をかけた。
「シオリちゃん」
俺に呼ばれた少女――、シオリちゃんが俺の方へ振り返った。
「先に着いてたんだね。ごめん、待たせちゃったかな」
「いえ、別に。少し前に来たばかりですので」
ツンとした態度で返してくるシオリちゃん。
う~ん、相変わらずの態度だなぁ。本当、なんでこんなに嫌われちゃったのやら。
(いやまぁ、前回の事を思えば、今回に限ってはこんな態度を取られている理由もわからなくもない気はするけど……)
心象、絶対最悪だったろうからな。特に俺に対しての。
苦笑しつつ、「前、座ってもいい?」と尋ねれば、「どうぞ」と返される。態度は冷たいが、どうやら会話そのものはちゃんと続けてくれるようだ。
ホッと胸をなでおろしつつ、俺はシオリちゃんの向かいの席に腰をおろした。
「あ、俺もドリンクバー頼んでいい? 長話になるかもだし」
「……お好きにどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。あれ、そういえばたかのっぽくんは? 今日、一緒に来る予定だったよね」
「おに……、兄なら外に出てます。自分がいると、また私と喧嘩するかもしれないからって」
「終わったら迎えに来るから、その時になったら連絡をくれとの事です」と、シオリちゃんが説明を続けてくれる。
なるほど。たかのっぽくんなりに気を遣ってくれたって事か。
確かに前回の二の舞いになったら、この時間を設けた意味がなくなっちゃうもんな。
でもその、本音を言わせてもらえるなら、できれば俺としては、たかのっぽくんもこの場に居てほしかったなー、なぁんて。この子と二人きりで話すのは、まだちょーっとばかしキツイというか、厳しいものがあるといいますか、ゴニョゴニョゴニョ……。
シオリちゃんの方も俺と同じ心境なのか、どこか不満げに手元のカップに目を向けている。
カップの中に注がれている、彼女の髪色にも似た深く黒いコーヒー。その中に、ムスッとした表情のシオリちゃんが映り込む。
とりあえず、ドリンクバーを頼もう。ドキドキと、嫌な鼓動を鳴らす心臓は見ないフリをしつつ、俺はテーブル上のタブレットを操作して、1人分のドリンクバーを注文した。注文完了の文字が表示されるのを見届けた後、飲み物を取りに行く。
ちょっと悩んでから、シオリちゃんと同じコーヒーをグラスに注いだ。ミルクとスティック砂糖、それからマドラー代わりのスプーンを1つずつ持って席へ戻る。
貴族然とした少女に向けられる視線を除けば、コーヒーを手に歩くお昼も前の食事処の中は、あいも変わらず静かな空気で満ちている。
前回来た時のような賑やかさはないけれど、穏やかな音楽がゆるりと流れる店内は、逆に長居したくなる居心地の良ささえある。
1人でのんびりするのはもちろん、誰かと向き合い、じっくりと話すのにも最適な空間といえるのではないだろうか。
――俺とシオリちゃんが、こうして今、向き合っているように。
「それで? 話とはなんでしょう」
席に戻ってきた俺が、コーヒーにミルクと砂糖を淹れ終えるのを見計らって、シオリちゃんが話を切り出した。
「MVに関する事だと、兄からは伺いましたが」
「どういった要件でしょうか」そう続けながら、鋭い灰色の眼光を俺の方へと投げつけてきたのだった。
待ち合わせ先であるRe:creation近くのファミレスに入ると、そこにはすでに待ち合わせ相手の姿があった。
休日とはいえ、まだ午前も半ばで客足もまばらな店内。そんな店内の真ん中に設置された2人がけの席に座る、美しいお人形顔の少女。
今日も今日とて、ドレスにも似たゴシックなファッションに身を包み、スッと背筋を伸ばして白いカップに口をつけている様は、まるでどこぞの貴族が、優雅にアフタヌーンティーでも楽しんでいるかのようだ。
いや、時間帯的にはアフタヌーンっていうより、モーニングって言った方が正しいのか?
どちらにせよ、一般庶民の集いの場で目にするには少々場違いな空気がある。
(俺、今からあれに声かけるの? 1人で?)
ちょっとハードル高くねぇですか。思わぬ高貴な光景に、背中を流れる冷や汗が止まらない。
しかし、今さら後に引くわけにもいかない。なにせ、今日彼女を呼び出したのは他でもない――、この俺なのだから。
「何名様ですか」と尋ねてきた店員に「待ち合わせしてます」と返し、覚悟を決めて歩き出す。少ないお客達から注がれる興味深げな視線をかいくぐり、その視線の中心にいる少女の背に向かって声をかけた。
「シオリちゃん」
俺に呼ばれた少女――、シオリちゃんが俺の方へ振り返った。
「先に着いてたんだね。ごめん、待たせちゃったかな」
「いえ、別に。少し前に来たばかりですので」
ツンとした態度で返してくるシオリちゃん。
う~ん、相変わらずの態度だなぁ。本当、なんでこんなに嫌われちゃったのやら。
(いやまぁ、前回の事を思えば、今回に限ってはこんな態度を取られている理由もわからなくもない気はするけど……)
心象、絶対最悪だったろうからな。特に俺に対しての。
苦笑しつつ、「前、座ってもいい?」と尋ねれば、「どうぞ」と返される。態度は冷たいが、どうやら会話そのものはちゃんと続けてくれるようだ。
ホッと胸をなでおろしつつ、俺はシオリちゃんの向かいの席に腰をおろした。
「あ、俺もドリンクバー頼んでいい? 長話になるかもだし」
「……お好きにどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。あれ、そういえばたかのっぽくんは? 今日、一緒に来る予定だったよね」
「おに……、兄なら外に出てます。自分がいると、また私と喧嘩するかもしれないからって」
「終わったら迎えに来るから、その時になったら連絡をくれとの事です」と、シオリちゃんが説明を続けてくれる。
なるほど。たかのっぽくんなりに気を遣ってくれたって事か。
確かに前回の二の舞いになったら、この時間を設けた意味がなくなっちゃうもんな。
でもその、本音を言わせてもらえるなら、できれば俺としては、たかのっぽくんもこの場に居てほしかったなー、なぁんて。この子と二人きりで話すのは、まだちょーっとばかしキツイというか、厳しいものがあるといいますか、ゴニョゴニョゴニョ……。
シオリちゃんの方も俺と同じ心境なのか、どこか不満げに手元のカップに目を向けている。
カップの中に注がれている、彼女の髪色にも似た深く黒いコーヒー。その中に、ムスッとした表情のシオリちゃんが映り込む。
とりあえず、ドリンクバーを頼もう。ドキドキと、嫌な鼓動を鳴らす心臓は見ないフリをしつつ、俺はテーブル上のタブレットを操作して、1人分のドリンクバーを注文した。注文完了の文字が表示されるのを見届けた後、飲み物を取りに行く。
ちょっと悩んでから、シオリちゃんと同じコーヒーをグラスに注いだ。ミルクとスティック砂糖、それからマドラー代わりのスプーンを1つずつ持って席へ戻る。
貴族然とした少女に向けられる視線を除けば、コーヒーを手に歩くお昼も前の食事処の中は、あいも変わらず静かな空気で満ちている。
前回来た時のような賑やかさはないけれど、穏やかな音楽がゆるりと流れる店内は、逆に長居したくなる居心地の良ささえある。
1人でのんびりするのはもちろん、誰かと向き合い、じっくりと話すのにも最適な空間といえるのではないだろうか。
――俺とシオリちゃんが、こうして今、向き合っているように。
「それで? 話とはなんでしょう」
席に戻ってきた俺が、コーヒーにミルクと砂糖を淹れ終えるのを見計らって、シオリちゃんが話を切り出した。
「MVに関する事だと、兄からは伺いましたが」
「どういった要件でしょうか」そう続けながら、鋭い灰色の眼光を俺の方へと投げつけてきたのだった。
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