Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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5章 本気と『本気』と似た者同士

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「シオリちゃんともう一度話がしたい」と俺がバンド仲間達に告げたのは、井尻家の騒動が落ち着き、自分が見てない間に愛娘の初恋を奪ったに詰め寄る拓弥の怒りを、どうにかこうにか静められた後の事だった。

 俺の提案に、たかのっぽくんはもちろん、優作と拓弥も驚いた顔をした。
 だが、優作と拓弥の2人は、俺の提案に耳を傾けている内にその理由に納得してくれたようだ。最終的に「いいんじゃないのか」と、頷き返してくれた。

 対してたかのっぽくんの方は、最後まで渋い顔をしていた。俺の話には納得できるが、あの妹にはあまり会わせたくない、とでも言いたげな表情だった。

 実際、「メールとかじゃダメですか」って訊かれたしね。
 またシオリちゃんが俺達に失礼な態度を取らないか、不安だったのだろう。

 まぁ俺達の方も、またあんな態度のシオリちゃんと話していたら、次こそ短気が特徴のインドアゴリラが何をし出すかわからん可能性があるわけですが。残念ながら、このゴリラを止められるほどの筋力を持つ奴は、俺達の中にはいない。

 メールで済ませていいなら、そっちの方がきっとお互いのためだっただろう。

 でも――……。

「できれば、ちゃんと顔を合わせて話したいんだ。きっとそっちの方が、いろいろ伝えやすいと思うから」

「……俺が言うのもなんですが、あんな奴の頼みなんて断ってもらっていいんですよ。バンドにメリットがある話とはいえ、あんな失礼な事を言う奴の頼み、聞くだけ損ですよ」

「でも、シオリちゃんの言っていた事の全てが間違ってたわけじゃないだろ? だからたかのっぽくんだって、シオリちゃんの態度については怒ったけど、シオリちゃんの考え方自体は否定しなかったじゃないの?」

「でしょ?」と訊き返すと、「それは……」とたかのっぽくんがたじろいだ。

「そういうところには、さすがにちゃんと向き合わないとってさ、思うんだ」

「じゃないと、俺達、丸どころか三角すら貰えないバンドになっちゃうと思うんだよね」そう言葉を続けた俺に、たかのっぽくんと優作が、なんじゃそりゃ、というように首をかしげた。

 唯一、俺の言葉に覚えがある拓弥だけが、そんな俺達の様子を苦笑しながら見守っていた。

 その後、たかのっぽくん経由でシオリちゃんに連絡したところ、あっさりと了承を得る事ができた。前回が前回だっただけに、もう会いたくないと言われても仕方ないと思っていたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
 ホッと胸をなでおろしつつ、土日であれば大学がないのでいつでもよいという彼女の言葉に甘え、前回の邂逅から1週間後の今日、また彼女と顔を合わせる事になった。

 まぁ、急なスケジュールだったせいで、拓弥だけが仕事の休みを取る事が叶わなず欠席になっちゃったんだけど。
「今週は土日どっちも休んじゃったからね。来週は挽回しないと」と苦笑気味に言われてしまえば、こっちからは何も言えない。年中無休の接客業は土日が1番稼ぎ時だってのは、簡単に想像がつくしね。

 そんなわけで、当日は拓弥を除く3人で出向く予定となったのだが……、今朝になって急に優作から「休日出勤になった」と連絡が入り、やむなく奴までもが欠席となってしまった。

 なんでも優作が担当している顧客先でシステム障害が起きたので、その修繕にあたる羽目になったのだとか。連絡はメッセージアプリで送られてきたが、優作が予想外の出来事に苛立っている事は、その文面から充分に伝わってきた。

 別に、仕事が理由でスケジュールが嚙み合わないって事態は、これまでにだってあった事だ。
 実際、前回のシオリちゃんとの顔合わせなんかは、それが原因で日を設けるのが遅くなったわけだし。

 でもまさか、今日みたいなタイミングでもそれが起ってしまうとは……。
 うーん、社会人バンドの弊害、ここに極まれり。

(とはいえ、仕事・家庭・学業優先ってのが、俺らのバンド活動の決まりだしね。今さらそこに文句を言っても仕方ねぇよな)

 実際、俺だって仕事があるから、平日に予定をいれる事は不可能なわけで。そこを鑑みれば、お互い様である。

 それに、今さらとやかく言ったところで、今この現状が変わるわけじゃない――、目の前のシオリちゃんへ意識を戻す。

 途端、彼女の鋭い眼差しと俺の目がはち合った。
 こちらの意図を探るように向けられたそれに、自然とゴクリと喉が鳴る。

 こういう態度を取られるだろうなとは、ある程度想像していた。
 が、やはりいざ実際に相対すると、その威圧感には思わず身を竦めてしまいそうだ。
 今すぐ飛んで帰って、お菓子を食いながらダラダラと休日を過ごしたい衝動にかられる。呼んだの俺だけど、帰っていいですか⁉

(いやいや、逃げずに向き合うって決めたろうが、俺っ)

 ブンブンと首を横に振って気持ちを切り替える。

 あの不安ごとばかり抱えている怖がりなバンド仲間が、それでも自分にとって大事な事を前にした時には、逃げずにしっかり向き合ったように。

 俺も向き合わなければならない、この現状と。

 自分にとって『大事』だと思えるもののために――……。

「前回、うやむやにしてしまった『楽曲のテーマ』について。俺達なりに、改めて考えてきました」

 俺の言葉に、ピクリと、シオリちゃんの眉が動いた。

 不機嫌そうに、眉間に深いしわが刻まれる。
 が、俺の話を遮るつもりはないらしい。それで? と話の続きを促すような視線が向けられた。

「シオリちゃんからしたら、後付けみたいな風に聞こえてしまうかもしれないけれど、それでもたぶん、これが俺達が楽曲で伝えたい事なんじゃないかなって。皆で話あって、考えて、確かめて、決めてきました」
「……」
「正直、これがシオリちゃんの言う、『聴く人達』の事を考えるっていう点に沿えているかはわからない。もしかしたら、まだまだ考えが甘いって言われる部分があるかもしれない。ただそれでも、俺達の楽曲を聴いてくれる人達に何を届けたいかって言われたら……、これが俺達のしたい事です」

「この楽曲の……、俺達Herecが、この楽曲で伝えたい事は――」そこまで言って、一度言葉を区切る。

 バクバクと、高鳴る心臓。
 それを落ち着かせるように一度深呼吸をした後、意を決して、俺は再び口を開いた。

「『伝える』こと。それ自体です」
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