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第2章「未来はなにも分からない」
第28話「迷宮竜」
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辿り着いた円形上の岩板の上。四階層への入口はすぐそこだが、用があるのはそこではない。
何もいなかった広場。そこに一つの影が現れ、風が吹き荒れる。
ミラは顔を見上げ、二人に注意を促す。戦闘が始まるのだ。
「ジャン、ジェイ。来たみたいだよ、階層主」
真っ青な空の中、雲を掻き割り階層主は現れた。天空の覇者――竜だ。その巨大さと凶暴さを思わせる姿に恐怖を覚える。同時に美しいとも思った。
真っ白な鱗が太陽光を反射している。ぎょろっと動く赤い目がミラ達を捉えていた。その姿は爬虫類らしさを思い出される。
竜は、こちらを確かめる様に空中でホバリングしていた。
「よりによって竜なんだよな……」
「どうする、剣は届かないぞ」
生意気なことに竜はこちらを睥睨するだけで、まったく降りてこない。
「地上に引き摺り下ろすか、魔法で攻撃するしかないけど……」
ミラは思いつくままに言ってみるが、どちらもあまり現実的ではなかった。魔法は遠すぎるし、なによりあの鋼鉄の鱗は攻撃が通じるのか分からない。引き摺り下ろすにしても、なんらかの方法で攻撃を届かさなければいけないが、それも出来ない。堂々巡りである。
いっそのこと壁からジャンプして飛び移ってみようかな、と曲芸師さながらの発想をするが、実行する前に竜が動く。
「ねえ、なんか口開けてない、あの竜」
「ああ、しかも炎が見えるな」
「どうする。結界でも張るか?」
ジェイの提案にミラは少し悩む。しかし、それで防げなかったら丸焦げだ。たかが学生の試験で死にたくはない。噂では、死んでも生き返らせる教師がいるので死んでも大丈夫らしいが、そういう問題ではないのだ。
「いや、避けよう」
ジャン王子が、はっきりとそう言う。
「防げなかった場合が危険すぎる。火力も分からんしな。それより、しばらく様子を見よう。どんな攻撃があるか、確認するんだ」
初見の相手には観察が基本。学園で習う基本事項ではあるが、忘れがちなことではある。
「二人とも、自力で避けられるよね?」
「ああ、だが、自分用の結界は張っとけ。万が一直撃しても、威力を軽減できる」
「そうだね」
「ああ」
ジャン王子の言う通り、自分の周りに守護結界――自身を守ることだけに特化した魔法結界――を張り、いつでも移動できるようにする。
「散り散りになろう。一緒はよくない」
ミラは言いつつ、二人から離れる。白竜は別れた三人をぎょろぎょろと見回しているようだった。
白竜の口内でどんどん炎が強まっている。最初は赤かった炎が、黄色くなり、白に、青になる。
その色から伺える温度の高さに冷や汗を掻き、頬がヒクつく。
一体竜の口内はどうなっているのだろう。あんな高温に耐えられるなんて。魔法だから、なんでもありのなのか。
竜の顔がゆっくりと動く。
……えーと、もしかして狙われてる?
赤い目がじっとミラを睨む。最初のターゲットは自分らしい。
「ミラ、気を付けろっ!」
ジャン王子の言葉が飛んできた瞬間、視界が青色で埋まった。熱気を感じ、ぶわっと恐怖で体中から汗が出る。
ミラは足に渾身の力を入れ、着地を考えず横に飛んだ。後先を考えずに跳躍したが、運よく四階層へ繋がっているであろう岩壁にぶつかった。
体が岩壁にのめり込む。だが、壁にぶつかった反動を持って、床に落ちた。
「ううっ」
背中が痛い。だが、それもすぐになくなる。竜巫女の力は伊達じゃない。骨が折れた程度なら、呻くぐらいで済む。しかも、後遺症はない。
かなりの勢いでぶつかったため、この体でなければすぐに立ち上がれなかっただろう。
よろめきながらも立ち上がると、周りは岩壁の破片が散らばっていた。血は出ていなかった。パラパラと体からも小さい石が落ちる。
危なかった。跳んだ先が岩壁の方でよかった。逆だったら落ちてる。
跳びさったもとを見れば、大穴が開いていた。というよりも、岩が溶け、湯気が立っている。完全に貫通しているようで、空が見えた。
「わー……」
人に当たったら間違いなく死ぬ。自分だって、異様な回復力があるというだけで、体全部が無くなってしまったら回復なんて出来ない。それ以前に痛すぎて正気を保てないと思う。
というか、……ここ本当に乙女ゲームの世界なんだろうか。なんで、こんなゴリゴリの戦闘しているのか。それに、学園の迷宮なのに生徒に対して容赦がなさ過ぎる。本当に死人が出るんじゃないだろうか、迷宮の設計。
上を見上げると、竜は悠々と飛んでいた。あたりを旋回している。なんとなく、こちらの様子を窺っているようにも見える。次の標的を探しているのか、ミラに当たらなかったのが不服だったのか。
「大丈夫か、ミラっ」
ジャン王子が駆け寄ってくる。このくらいじゃ傷つかないって知っているはずなのに。
「ジャン……、私は大丈夫。それよりも、倒さな――きゃっ」
「良かった……」
ミラの言葉など聞こえていないように、彼に抱き締められる。この迷宮に入ってから、普段よりもスキンシップが増えている気がする。
「おいっ! また、来るぞっ!」
ジェイの声に、竜を見ると、あの化け物はまた大口を開けていた。炎が溜まっているのが分かる。さっきと同じだ。
どうしよう。戦うにしても、空の上では近付けない。ブレスも厄介だ。このまま何回も攻撃されるようであれば、岩場全体が溶けてなくなってしまう。そうなれば、待っているのは空へ真っ逆さまへと落ちる未来。死にこそしないものの、試験が空振りに終わってしまう。
いっそのこと、剣を投げるか。届かないなら届かせるしかない。この距離では魔法も届くか怪しい。
さっき使ったばかりでキツいが、少しだけ先を見れば当たるかどうかも分かる。
「ジャン、竜が攻撃する前に剣を投げる。私の怪力ならいける」
「ミラ?」
ジャン王子を離し、作戦を話す。ここは彼の力も必要だ。
「私が剣を投げるから、ジャンは目に刺さる様に風で誘導して。絶対に刺さる様に未来も視るから」
「……分かった。でも、ブレスが来るのが視えたらすぐに教えてくれよ。全力で君を守る」
ジャン王子はミラの頭を乱暴に撫でた。
「ジェイーっ! 竜の注意逸らしてっ! 後はこっちでなんかするっ!」
少々雑な指示だが、細かいことを話している暇はない。ジェイは片手を上げると、剣を抜いた。すぐに刀身が炎に包まれる。
彼は剣を振り、炎を飛ばし始めた。炎の刃が竜へ向かう。高度が高いせいで届きはしないが、竜の意識を逸らすには十分なようだった。
ミラの方を向いていた竜が、ジェイに向く。その口の中に炎を宿したまま。
「ミラっ!」
「うんっ!」
ミラは自身の剣を腰の鞘から抜いた。刀身が黒い剣。ミラの怪力では何度も折れてしまったので、特注で造ってもらったものだった。まさか、こんな形で役に立つとは。
いかに竜といえども、粘膜は弱いだろう。眼球なら剣も通る。それにこの剣には少しばかり仕掛けがある。
まだ一度も使ったことはないけど……。刺されば上手くいくはず。
ミラは前世のやり投げを思い出す。実際にしたことは死ぬまでしたことがなかったが、友人がやっていたので形だけは真似ることができる。そこに怪力を加えれば――
「うぉぉぉらぁああっ!」
およそ乙女らしくない声を出しながら、ミラは投擲した。あまりジャン王子には聞かれたくないけどしょうがない。こうでもしないと、竜が飛んでいる高度には届きそうにない。
「ジャンっ!」
ミラが飛ばした剣は冗談の様なスピードで竜の元へ向かう。
ミラはこめかみに力を入れ、本日二度目の力を使う。目の前の景色がぶれる。あらゆるものが二重になり、未来の景色を映し出す。
剣は竜の元に届くものの、このままでは目元の鱗に刺さっていた。だから――
「右向きに風を送って、ジャンっ!」
ミラが叫ぶとミラの映像が変化する。目元に刺さっていたのが、竜の金色の眼に。深々と刺さっていた。
事実、実際の剣に向かって、横から暴風が吹いた。微かに進路を変え、竜の眼に刺さる。
「剣に回復魔法かけてっ! ジャンっ」
さっきから命令してばかりだな、とミラは思った。だが、仕方がない。遠隔で魔法を送り込むのはジャン王子には敵わない。
それでも、ジャン王子は言う通りに魔法を掛けてくれる。ミラは未来を見るのをやめた。終わったからだ。
深く瞼を閉じると、いつも通りの世界に戻る。
「ガァァアアアアアッ!」
竜の恨むような咆哮がビリビリと肌を痺れさせる。
空中でのたうち回る竜。金色の瞳から血を流し、内側から黒いものが突き破っていた。
ミラは呆然としているジャン王子に声を掛ける。
「ジャン、もう大丈夫。……ただ、ここに落ちてくるだろうから、後ろに下がりましょう」
「あ、ああ」
ジャン王子とともに、後ろに下がる。
「ジェイーっ! 落ちてくるからトドメお願いっ!」
ミラの声にジェイは剣を掲げた。
竜は、なおも咆哮をしていた。あちこちにか細いブレスを吐きながら、落ちてくる。
……あの勢いで落ちて、床に穴開かないよね? 大丈夫、かな?
ミラの心配をよそに、竜は轟音を立てながら目の前に落下した。飛んでさえいなければ、ただのトカゲと変わらない。大きさは桁違いだが。頭だけで、人間サイズほどある。
竜の頭上に影が差す。落ちてくるのは、ジェイだ。炎を纏っている剣を構え――一気にその首を斬った。
ジェイが斬った先、竜の首を通り越して床にまで通ったのだろうか。首の横の床にヒビが入った。
ミラの顔がヒクつく。ヒビはどんどん入っていき――床が崩れることなく収まった。
何もいなかった広場。そこに一つの影が現れ、風が吹き荒れる。
ミラは顔を見上げ、二人に注意を促す。戦闘が始まるのだ。
「ジャン、ジェイ。来たみたいだよ、階層主」
真っ青な空の中、雲を掻き割り階層主は現れた。天空の覇者――竜だ。その巨大さと凶暴さを思わせる姿に恐怖を覚える。同時に美しいとも思った。
真っ白な鱗が太陽光を反射している。ぎょろっと動く赤い目がミラ達を捉えていた。その姿は爬虫類らしさを思い出される。
竜は、こちらを確かめる様に空中でホバリングしていた。
「よりによって竜なんだよな……」
「どうする、剣は届かないぞ」
生意気なことに竜はこちらを睥睨するだけで、まったく降りてこない。
「地上に引き摺り下ろすか、魔法で攻撃するしかないけど……」
ミラは思いつくままに言ってみるが、どちらもあまり現実的ではなかった。魔法は遠すぎるし、なによりあの鋼鉄の鱗は攻撃が通じるのか分からない。引き摺り下ろすにしても、なんらかの方法で攻撃を届かさなければいけないが、それも出来ない。堂々巡りである。
いっそのこと壁からジャンプして飛び移ってみようかな、と曲芸師さながらの発想をするが、実行する前に竜が動く。
「ねえ、なんか口開けてない、あの竜」
「ああ、しかも炎が見えるな」
「どうする。結界でも張るか?」
ジェイの提案にミラは少し悩む。しかし、それで防げなかったら丸焦げだ。たかが学生の試験で死にたくはない。噂では、死んでも生き返らせる教師がいるので死んでも大丈夫らしいが、そういう問題ではないのだ。
「いや、避けよう」
ジャン王子が、はっきりとそう言う。
「防げなかった場合が危険すぎる。火力も分からんしな。それより、しばらく様子を見よう。どんな攻撃があるか、確認するんだ」
初見の相手には観察が基本。学園で習う基本事項ではあるが、忘れがちなことではある。
「二人とも、自力で避けられるよね?」
「ああ、だが、自分用の結界は張っとけ。万が一直撃しても、威力を軽減できる」
「そうだね」
「ああ」
ジャン王子の言う通り、自分の周りに守護結界――自身を守ることだけに特化した魔法結界――を張り、いつでも移動できるようにする。
「散り散りになろう。一緒はよくない」
ミラは言いつつ、二人から離れる。白竜は別れた三人をぎょろぎょろと見回しているようだった。
白竜の口内でどんどん炎が強まっている。最初は赤かった炎が、黄色くなり、白に、青になる。
その色から伺える温度の高さに冷や汗を掻き、頬がヒクつく。
一体竜の口内はどうなっているのだろう。あんな高温に耐えられるなんて。魔法だから、なんでもありのなのか。
竜の顔がゆっくりと動く。
……えーと、もしかして狙われてる?
赤い目がじっとミラを睨む。最初のターゲットは自分らしい。
「ミラ、気を付けろっ!」
ジャン王子の言葉が飛んできた瞬間、視界が青色で埋まった。熱気を感じ、ぶわっと恐怖で体中から汗が出る。
ミラは足に渾身の力を入れ、着地を考えず横に飛んだ。後先を考えずに跳躍したが、運よく四階層へ繋がっているであろう岩壁にぶつかった。
体が岩壁にのめり込む。だが、壁にぶつかった反動を持って、床に落ちた。
「ううっ」
背中が痛い。だが、それもすぐになくなる。竜巫女の力は伊達じゃない。骨が折れた程度なら、呻くぐらいで済む。しかも、後遺症はない。
かなりの勢いでぶつかったため、この体でなければすぐに立ち上がれなかっただろう。
よろめきながらも立ち上がると、周りは岩壁の破片が散らばっていた。血は出ていなかった。パラパラと体からも小さい石が落ちる。
危なかった。跳んだ先が岩壁の方でよかった。逆だったら落ちてる。
跳びさったもとを見れば、大穴が開いていた。というよりも、岩が溶け、湯気が立っている。完全に貫通しているようで、空が見えた。
「わー……」
人に当たったら間違いなく死ぬ。自分だって、異様な回復力があるというだけで、体全部が無くなってしまったら回復なんて出来ない。それ以前に痛すぎて正気を保てないと思う。
というか、……ここ本当に乙女ゲームの世界なんだろうか。なんで、こんなゴリゴリの戦闘しているのか。それに、学園の迷宮なのに生徒に対して容赦がなさ過ぎる。本当に死人が出るんじゃないだろうか、迷宮の設計。
上を見上げると、竜は悠々と飛んでいた。あたりを旋回している。なんとなく、こちらの様子を窺っているようにも見える。次の標的を探しているのか、ミラに当たらなかったのが不服だったのか。
「大丈夫か、ミラっ」
ジャン王子が駆け寄ってくる。このくらいじゃ傷つかないって知っているはずなのに。
「ジャン……、私は大丈夫。それよりも、倒さな――きゃっ」
「良かった……」
ミラの言葉など聞こえていないように、彼に抱き締められる。この迷宮に入ってから、普段よりもスキンシップが増えている気がする。
「おいっ! また、来るぞっ!」
ジェイの声に、竜を見ると、あの化け物はまた大口を開けていた。炎が溜まっているのが分かる。さっきと同じだ。
どうしよう。戦うにしても、空の上では近付けない。ブレスも厄介だ。このまま何回も攻撃されるようであれば、岩場全体が溶けてなくなってしまう。そうなれば、待っているのは空へ真っ逆さまへと落ちる未来。死にこそしないものの、試験が空振りに終わってしまう。
いっそのこと、剣を投げるか。届かないなら届かせるしかない。この距離では魔法も届くか怪しい。
さっき使ったばかりでキツいが、少しだけ先を見れば当たるかどうかも分かる。
「ジャン、竜が攻撃する前に剣を投げる。私の怪力ならいける」
「ミラ?」
ジャン王子を離し、作戦を話す。ここは彼の力も必要だ。
「私が剣を投げるから、ジャンは目に刺さる様に風で誘導して。絶対に刺さる様に未来も視るから」
「……分かった。でも、ブレスが来るのが視えたらすぐに教えてくれよ。全力で君を守る」
ジャン王子はミラの頭を乱暴に撫でた。
「ジェイーっ! 竜の注意逸らしてっ! 後はこっちでなんかするっ!」
少々雑な指示だが、細かいことを話している暇はない。ジェイは片手を上げると、剣を抜いた。すぐに刀身が炎に包まれる。
彼は剣を振り、炎を飛ばし始めた。炎の刃が竜へ向かう。高度が高いせいで届きはしないが、竜の意識を逸らすには十分なようだった。
ミラの方を向いていた竜が、ジェイに向く。その口の中に炎を宿したまま。
「ミラっ!」
「うんっ!」
ミラは自身の剣を腰の鞘から抜いた。刀身が黒い剣。ミラの怪力では何度も折れてしまったので、特注で造ってもらったものだった。まさか、こんな形で役に立つとは。
いかに竜といえども、粘膜は弱いだろう。眼球なら剣も通る。それにこの剣には少しばかり仕掛けがある。
まだ一度も使ったことはないけど……。刺されば上手くいくはず。
ミラは前世のやり投げを思い出す。実際にしたことは死ぬまでしたことがなかったが、友人がやっていたので形だけは真似ることができる。そこに怪力を加えれば――
「うぉぉぉらぁああっ!」
およそ乙女らしくない声を出しながら、ミラは投擲した。あまりジャン王子には聞かれたくないけどしょうがない。こうでもしないと、竜が飛んでいる高度には届きそうにない。
「ジャンっ!」
ミラが飛ばした剣は冗談の様なスピードで竜の元へ向かう。
ミラはこめかみに力を入れ、本日二度目の力を使う。目の前の景色がぶれる。あらゆるものが二重になり、未来の景色を映し出す。
剣は竜の元に届くものの、このままでは目元の鱗に刺さっていた。だから――
「右向きに風を送って、ジャンっ!」
ミラが叫ぶとミラの映像が変化する。目元に刺さっていたのが、竜の金色の眼に。深々と刺さっていた。
事実、実際の剣に向かって、横から暴風が吹いた。微かに進路を変え、竜の眼に刺さる。
「剣に回復魔法かけてっ! ジャンっ」
さっきから命令してばかりだな、とミラは思った。だが、仕方がない。遠隔で魔法を送り込むのはジャン王子には敵わない。
それでも、ジャン王子は言う通りに魔法を掛けてくれる。ミラは未来を見るのをやめた。終わったからだ。
深く瞼を閉じると、いつも通りの世界に戻る。
「ガァァアアアアアッ!」
竜の恨むような咆哮がビリビリと肌を痺れさせる。
空中でのたうち回る竜。金色の瞳から血を流し、内側から黒いものが突き破っていた。
ミラは呆然としているジャン王子に声を掛ける。
「ジャン、もう大丈夫。……ただ、ここに落ちてくるだろうから、後ろに下がりましょう」
「あ、ああ」
ジャン王子とともに、後ろに下がる。
「ジェイーっ! 落ちてくるからトドメお願いっ!」
ミラの声にジェイは剣を掲げた。
竜は、なおも咆哮をしていた。あちこちにか細いブレスを吐きながら、落ちてくる。
……あの勢いで落ちて、床に穴開かないよね? 大丈夫、かな?
ミラの心配をよそに、竜は轟音を立てながら目の前に落下した。飛んでさえいなければ、ただのトカゲと変わらない。大きさは桁違いだが。頭だけで、人間サイズほどある。
竜の頭上に影が差す。落ちてくるのは、ジェイだ。炎を纏っている剣を構え――一気にその首を斬った。
ジェイが斬った先、竜の首を通り越して床にまで通ったのだろうか。首の横の床にヒビが入った。
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