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【第1章】お店の顔を作る ― ウェブサイトとブランド設計

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翌週の午後、カウンターにはノートPCが2台並んでいた。
ひとつは美咲の古いノート。もうひとつは涼の最新型。
カフェの奥のテーブルには、コーヒーの香りと、まるで新しい何かが始まるような空気が漂っていた。

「じゃあ、まず“ホームページを作る”ってことなんですけど、
その前に――“このお店の顔”を決めましょうか」

涼は画面にホワイトボードアプリを開きながら言った。
“お店の顔”という言葉に、美咲は首をかしげる。
「顔……って、ロゴとかデザインのこと?」
「デザインも大事ですけど、それより“誰に、どんな気持ちで来てほしいか”です。
それを決めないと、どんな見た目にしても伝わらないんですよ」

美咲は考え込んだ。
いつもカウンターでお客さんに出す笑顔、
ハンドドリップに込める時間、
そして――“ほっとする場所を作りたい”という最初の思い。
それらが頭の中で混ざり合いながら、言葉にならない。

「うーん……たとえば、
仕事帰りにちょっと疲れた人が、ひと息つけるような。
コーヒーもだけど、空気ごとやさしい感じにしたいんです」

涼はその言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。
「いいですね。それ、もうブランドの芯です。
それを伝えるホームページを作りましょう。
“おしゃれな店”じゃなくて、“やさしくなれる場所”として」

美咲は少し驚いたように笑った。
「そんなふうに考えたこと、なかったかも」

「多くの人が、デザインとかSNSを頑張るんですけど、
本当に大事なのは“心の約束”なんです。
このお店は、来た人に何を約束する場所なのか――それが“顔”です」

カウンターの上に置かれた紙ナプキンに、
涼はペンでひとつの言葉を書いた。

「灯りのような時間を届けるカフェ」

その文字を見た瞬間、美咲の胸に温かいものが広がった。
その言葉は、彼女自身がずっと探していた“理由”のように思えた。

「じゃあ次は、ホームページの構成を考えましょう」
涼は、ノートPCの画面に四角い枠をいくつも並べた。
トップページ、メニュー紹介、店舗情報、そして「ストーリー」という欄。

「最後の“ストーリー”って、なんですか?」
美咲が尋ねると、涼は笑って言った。
「このカフェが“なぜここにあるのか”を書くページです。
お店は“物語”を持つことで、人の記憶に残ります」

美咲は少し恥ずかしそうに、ノートを開いた。
創業の日の写真、初めてのお客さん、開店準備で夜中までかかった日。
思い返せば、あの日々のすべてが“理由”の断片だった。

「最初は、自分が心を落ち着けられる場所がほしかったんです。
コーヒーを淹れてると、誰かの呼吸までやさしくなる気がして」

その言葉を聞きながら、涼はキーボードを打った。
画面には、美咲の言葉をもとにした文章が現れる。

ここは、がんばる人がひと息つける場所。
一杯のコーヒーが、心の灯りになるように。

美咲はその文面を見て、静かに息をのんだ。
それは自分の想いを、まるで他人が透かして書いたような不思議な感覚だった。

「伝える言葉って、こういうものなんですね」
「はい。伝わるデザインも、伝える言葉も、
“誰の心を動かしたいか”が決まらないと形にならないんです」

二人は夜遅くまで、ページの色や写真を選んだ。
淡いクリーム色の背景、木の質感のメニュー写真、
そして最後に掲げたキャッチコピー。

灯りを、もうひとつ。

涼が言った。
「この言葉がトップにあるだけで、店の印象が変わりますよ」
「うん……私、この店のことを思い出すたびに、その灯りを感じたいです」

その夜、カフェの電気が消えたあとも、
美咲の心には確かに小さな光が灯っていた。
それは、はじめて“伝えることの意味”を知った夜だった。
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