検非違使異聞 読星師

魔茶来

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出会い

プロローグ:京の検非違使

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 江戸時代中期 徳川将軍唯一の朝廷からイミナを与えられた「将軍家継」の時代。

 ある夜の京の都五条通りを怪しい鬼面を付けた男が疾走していた。
 月明かりが照らす、その体には多数の返り血を浴びたような跡があり事件を想像させるには十分だった。

 鬼面の男の前を横切る男、風体は僧侶のようであるが、その動きは俊敏であった。
「何を急いでおられるのか?」

 鬼面の男は刀を抜き前を横切る男を切り捨てようとする。
 しかし男は刀を鞘のまま前に突き出し鬼面の男の刀を受け流した。

「人のようであるが妖の類であろうか
 よろしい、貴方様のうんめいを読んで差し上げましょう」

 そう言った時だ、どこからとも無く毛並みの良いネコが二匹やって来た。

 検非違使と名乗った男は、二匹の猫を見ると声を掛けた。
「”アラ”、”ニキ”ご苦労さんやな、今から読むからな、読んだらひと仕事するで……」

 そして筮竹を懐から取り出すと、ジャラジャラ占いよみ始める。

 その間も鬼面の男は嬉しそうな声をあげながら話しかけてくる。
「ひひひ、刀が人を滅せよと急かすのだ、占いなど何になる、貴様も滅してくれようぞ……」

 結果が出たのか、筮竹を見ながら話し始めた。
うぬうんめいは把握した、そのうんめい我が全うさせてやろう」

 検非違使と名乗った男は、そう説明すると何やら呪文を唱え始めた。
 その呪文により検非違使は"荒御魂"と融合を果たし腰の刀を抜く。
 刀を抜くと刀に鉤(かぎ)が飛び出した。
 それはまるで十手のような異形の刀となった。

 その刀を相手に向かって構え、二人はお互いの刀を向け合い切り合う合間を詰めながら、その一瞬を待っていた。

 夜の風の止まる一瞬、鬼面の男が奇声を上げ切り込んで来た。

 検非違使は、男の打ち込みを軽く刀で受け流し、そのまま相手の刀を鉤(かぎ)へ流した。
 相手の刀は鉤(かぎ)に掛かり検非違使が捩じると相手の刀は簡単に折れた。

「妖刀真田丸が!!」
 鬼面の男は刀が折れた瞬間、被っていた鬼面にひびが走る。

 その隙を逃さず男の腹を殴打、振り上げ返す刀で頭を峰で打ち男を倒した。
「お前のうんめいは既に全て読んだ、お前に勝ち目など無い」

 その後、検非違使は男を捕縛し、荒御魂を解放する。
 そして再度呪文を唱え、"和御魂"融合し、折れた刀を”祈祷”にすることで"憑き物"封印を行った。

「ひと仕事終わったな、後は「清めきよめ」に襲われた人の後始末を依頼すれば終わりや」

 少しすると、同じような僧侶風の男が現れ検非違使という男に話しかけた。
「検非違使佐官様とあろうものが、まさかご自身で穢れ処理とは驚きやな
 そんな仕事は「清めきよめ」に任せるもんやで……」

「あっ、なるほど「憑き物」か、なんと封印まで終わっとるがな
 いや~~っ、さすがや~、やるな~、お疲れ様!!
 しゃあないよな、30年ほど前に奴らに陰陽師は独占されたからな……
 俺たちが、表では検非違使 左官という役職を与えてもうて、裏では陰陽師の力を持つものとして重宝されとんやったな」

「そんなことより、上皇様より江戸へ向かえとの指示があった筈だが……」

「既に星を読んだ、全てが思い通りにならぬことを上皇様へも進言申したのだが……」

「何を言うてんねん
 それでも上皇様は向かうことをお望みのようなんやで、上意は絶対や」

「分かっている、星は告げていたことも……
 私は自分の星は読まない、だが読んだ運命の中に私の星が関係していることを知っている」

江戸ヒガシに行くのは『星の意志』だ……」

「"ニキ"、"アラ"帰ろか」そう言うと、二匹の猫と何処かへ向かって歩いて行った。

 ーーーーーー
 江戸と京を結ぶものとは……

 この時期、七代将軍・家継への将軍正室の話が持ち上がっていた。

 "将軍正室"……「御台所」様である。
 この「御台所」様は、三代将軍家光以降は五摂家か 四親王家から迎えるのが通例なのだが、七代将軍「家継」の婚約者は"八十宮吉子内親王"に決定することになる。

 まだこの段階では婚約者であるが、「将軍正室(御台所)」候補として「皇女」が選定されたのである。

 ◆ー◆ー◆
 平安時代より検非違使は令外官であり、上から「別当」「佐」「尉」「 志」と位があった。
 ただし、検非違使の「別当」に関しては重視されていないのか兼任されることが多く、また「別当」不在時期も長期に及ぶと云う。

 実際の検非違使の仕事は警察機構と保健衛生機構が合わさった仕事であり、彼らは犯罪と公衆衛生の対象を合わせて「穢れ」と考えていた。
 そして実際は「穢れ(犯罪の取り締まり、刑の執行、公衆衛生)」の処理は下賤な者きよめにさせて、その取り纏めが主な仕事だった。

 なお、江戸時代の検非違使の主な活躍の場は催事くらいしかなかったと云われている。

 ◆ー◆ー◆
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