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少女編

コハクチョウとおばあちゃんの真珠 (7)

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コハクチョウさんから貰った真珠の一件以来、色々なことがあったが、また春になった。

そして、その”パール”家族も北へ帰って行った。
もちろんサエラは「来年も来てな!!」と挨拶は忘れていない。

「また湖が寂しくなるな……」
ミカは寂しそうに湖を見つめて呟く。

「大丈夫や留鳥やスズメ、春はつばめとか春から夏にかけて色々出番待っとる鳥おるから……」

春が来て、サエラも5年生になった。

そうそう、春には春の鳥が来る。

そして今年の春は、お父さんの友達に教えてもらった「鷹の渡り」を観測させてもらうことにした。
実は湖の傍には、そんなに高い山ではないが見渡せるという意味では観測に丁度良い山がある。

双眼鏡を持って空を見ているサエラ。
「あんなに多くの鷹が回っている」
「あれが鷹柱とか言うもんやな……」

そして、隣では通過する猛禽類を見ながら、観測している人がハイタカ2羽、ノスリ6羽とか言って記録していた。

「やっぱり鷹の渡りは凄いな、そやけど、うちには全然種類が分かれへんわ........」

「あんな小さい影でよう分るな……うちはトンビくらいしか知らんしな、みんな、よう分るな........」

「その内分かるようになるわ」と観測している、男の子がサエラに言ってくれた。

男の子は300㎜のレンズにリアコンを付けた一眼レフカメラを持っていた。

そう言ってもらえたので。サエラも「よっしゃ分かるように勉強しておくわ!!」と答えておいた。

「また小学生の女の子なのに鷹に興味あるなんて珍しいなぁ」
「最も、俺もまだ偉そうに言えんけどね、今小学校6年生でまだ鷹の渡り見るんも5回目やけどな……」

「俺、北原裕也、よろしくね」

サエラは笑顔で「北原君ね、サエラやよろしくね」と挨拶をした。

この二人、会ったばかりなのに、鳥で意気投合した、そして少し二人で鳥の話をした。

裕也がその時サエラに話した内容に興味がわいた。
「そうや、今度おばあちゃん見に行かへんか?」

「おばあちゃん?誰の?」

「ちゃうちゃう、人間と違うで、大鷲のおばあちゃんが、この近くの山に毎年やって来ていてねもう10年以上来とるらしい」

「そうなんや、私も見たいな」

「今年の冬にまたおばあちゃんが来たらお父さんに連れて行ってもらう予定やから、一緒に行くか?」

「行く、行く」そう言うとサエラは、一緒に来ていた父親を呼びに行った。

サエラの父親は裕也君の父親と話をして、サエラも一緒に見に行くことになった。

鷹の渡りから帰ると父親が母親に告げ口をしていた。

「サエラ言うたらなぁ、ボーイフレンドが出来たんやど」

「それも鳥友達のボーイフレンドやど!!」

「良かったな、このままお嫁に貰ってもろてもうたら」と母親が揶揄った。

サエラは真っ赤な顔をして否定する。
「あほちゃうか、今日あったばかりでボーイフレンドも何もあるわけないやろ!!」

その後は両親揃って笑っていたので、サエラも笑っていた。

そんなことをして過ごす、ある春の日、沙也加さんが来た。
「サエラちゃん、元気してた……」と抱き着いてきた。

サエラは驚いて「どないしたん?」と聞いた。

沙也加さんは「はい、これ」とサエラに紙バッグを渡した。

「中身はな、サエラちゃんの話が書いてある記事を読んで色んな人から来た手紙」

「ほんまや、手紙が物凄い沢山ある」

「みんながあなたに頑張りや言ってるわよ」

「ありがとうな」

「上がってくださいも茶でも入れますよ」とお母ちゃんが言って家に上がってもらう。

上がってもらって家で少し話をしていた。
「本当にありがとうございます、沙也加さんにはなんとお礼を言ったら良いか……」
とお母ちゃんは言った。

しかし、母親はその後、沙也加さんに耳打ちしていた……
なんか秘密の話をしているので気になったサエラが「うちには内緒なん」と言う。

母親は「もう少し待ってな、すぐわかるわ」と答えた。
サエラは、なんか仲間外れみたいで寂しかった。

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春の終わりに来るサエラの誕生日

父親と母親は思っていた。
(たぶん、今日はサエラにとって、忘れられない日になるだろう)

その晩、いつもの誕生日のように母親が作ったケーキが出てきた。

「あっ、コハクチョウさんや」
ケーキには案外器用な母親がクリームでコハクチョウさんを絞り出して作ったものだった。

「そやけど、あかんわ、これ切られへんで、コハクチョウさんを繰りことはでけへんわ」
と言いつつ食欲に負けて皆で分けた。

父親から「サエラ、おじいちゃんとおばあちゃんにも、このケーキを供えたってんか」と言われサエラは仏壇に供えに行った。

「おじいちゃん、おばあちゃん、今年も驚くことばかりやった」

「最近思うんや、ほんまは真珠をうちが大事にして使わなかったから、おばあちゃんが『ええ加減に勉強せんか』いうて真珠を使かわせたんやろ」

「おかげで、今年も、やさしい人にいっぱい会えたし、知らんかったこともいっぱい知ったわ」
「ほんまに、ありがとうな」

しかし誰にも聞こえない小さな声でサエラは呟く。
「でもな、やっぱり”あの真珠”に代わるものは無いわ、そんでな無いと寂しいわ……」

ふと仏壇の横に目を遣ると、箱が二つあってどちらにも『サエラへ』とかいてあった。
「あれ?、お父ちゃんと、お母ちゃんからは誕生日のプレゼントは貰ったもろうたけど?」

その箱を持って戻ると「それは、サエラにみんなからの贈り物や」と父親が言った。

「みんなって、誰なん?」とか言いながら、父親が最初の箱はこれだという一つ目の箱を開けた。

その瞬間少し驚いたサエラは見る見る笑顔になって行く。

「これは!!」

父親が答える。
「そうやコハクチョウさんがくれた真珠や」

サエラは満面の笑顔になった。
「”パール”家族がくれた真珠や、大事にするわ」

サエラは感無量のようだった。

「こっちは、何かな?」
もう一つの箱を開けた時、サエラの目から大粒の真珠のような涙がこぼれた。

その箱の中には見覚えのある”大きな真珠”の付いたネックレスが一つ入っていた。

「これ……、これ……、おばあちゃんの……、おばあちゃんの真珠やんか、なんで、ここに……」

その質問に母親が答えた。
「ほら春に知らん、おばちゃんがいきなり『ごめん』とか言うてたやろ、あのおばちゃんな質屋さんやってはるらしいねん」

「そいでな、このネックレスを預かったらしいねんけど、『物の価値は分かるんやけどな、人を見る目はまだまだみたいや、あんな悪い奴やったとは、お金渡すんやなかったわ』とか言うとった」

「質流れになったから店で売ろうとか思ったんやけど、あの雑誌見てこの真珠はサエラあんたのん、ちゃうか言うて訪ねて来てくれたんや」

「質屋さんは商売やから、お金払う言うたんやけどな」

「おばあちゃんは『お金なんかもらえるかいな、私の勉強代や、気にせんとって』いうて受け取らんかったんや。」

サエラの目からは大粒の真珠の涙が流れていた。
「この真珠は勉強代やったから戻って来ないきいひんと思っ……とっ……たけど……」

父親は泣く我が子に話す。
「ちゃうで、サエラの言う通り、真珠は勉強代で支払ったんから本当ほんまは帰って来ないきいひん

「そやけど勉強の優秀者に、コハクチョウさんからのご褒美の贈り物としてサエラが一番欲しい真珠が選ばれたんやろ」

「よう考えてみ、あの夢があって”真珠”を見つけて「沙也加さんが居て」、そして「質屋のおばあちゃん」に繋がったんや、コハクチョウさんのお陰やで」

大きな真珠の涙が溢れているサエラは、今まで黙って来た思いを吐き出す。
「戻って来ないきいひんと分かっていても、いつまでも諦められへんかった」
「本当に色々なことが有った、でもどんなに色々なことが起こっても、この真珠の代わりにはならへんかった」

「さぁから、どうしても諦められなかったんや」そう言いながら泣き続けるサエラ。

「誕生日に泣いてばかりやとあかんで、さぁケーキ食べよ」


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両親の思った通り、多分サエラには忘れられない誕生日となっただろう。

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翌日真珠のペンダントを付けたサエラとミカが湖のほとりに居た。

ペンダントの真珠は3つになっていた、母親と同じく案外器用な父親が付けてくれたのだ。

とは言え、湖にはもちろん、コハクチョウはまだ来ていない。

サエラは湖に大きな声で叫んでいた。

「お願い、北の国の”パール”まで届けて」

「”パール”、ありがとうやで!!」

「持って来てくれた真珠とおばあちゃんの真珠の贈り物、ありがとうやで!!、一生大事にするから!!」

「はよ、みんな帰って来ないきえへんかな」


 真珠の首飾りを持つ女の子は

 今年も、湖に

 コハクチョウが

 帰ってくるのを

 楽しみに待っていた。

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