ラノベ少女

魔茶来

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私が私でなくなった時

05.過去からの脱出

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 私(浅田)はユーリシア・オンラインの中にもう一つの空間を借りている、というか借りてもらっている。

 それは、陸上の個人トレーニング空間だ。

 諦めかけていた陸上競技ではあるが、まだ頑張ろうと思うのは鞍馬さんのお陰だと思う。
 そのために、私は陸上強化VR空間中でのトレーニングをする。
 
 実際には仮想世界に入るのにFBR(フィードバック・レセプタ)まで着る人は少ない。
 これは自分の座標をクラウドに送るためと、そのレスポンスをFBRが受けて刺激としてリアル世界の体に伝える働きをするものだ。
 これにより私のアバターは他の誰よりも実際の動きに近い動きをするし、誰かがVR世界で私を触った感覚も伝わる。

 例えば、リアル世界のトレーナーでは実際に全速力で走る自分を接触指導は出来ないだろう。
 だがこの世界なら私が全速力で走りFBRから実際の体にフィードバックが伝わることで指導が出来る。

 足の上下の数ミリのずれ、数十ミリ秒のずれを確実に私の体に伝える。

 本当に凄い仕組みだ。

 中学時代に校内一位の記録、だが県内2位、そして全国で4位、その記録は素晴らしいと校内では言われていたが、私は『限界タイム』を知ってしまったのだ。

 そうだ私の記録はその限界タイムを超えられなかった。
 だが、後から来る者達はそのタイムを超えて行くのだ、中学順位は段々下がっていた。

 『限界タイム』それは私がどんなに努力しても超えられないタイムだった。

 そのことを知った、この町出身者が作ったエーハイブ・コーポという会社がこの仕組みを作ったのだ。

 完成したのは、高校に入ってからだったが、この機材一式を私に貸し与えてくれた。
 
 だがこの仕組みを使っていてもタイム向上は認められるが、未だに『限界タイム』は超えられなかった。

 少し諦めかけたいた私は、『限界タイム』を私が超えるのは奇跡だと話をするようになった。
 ただ一つ方法があるとすれば『火事場の馬鹿力』、つまりリミッターを解放することでは無いかと思っていた。

 そのころ、鞍馬さんがラノベ研究会に誘ってくれた。
 私は彼女に中学時代から好意を寄せていたのではあるが、勇気が出ず告白など出来る筈もなかった。

 なぜだろう私は彼女の屈託のない顔を見ていると力が出るのだ。
 中学は同じクラスだったため、体育祭での短距離で彼女の応援があった。
 校内記録を持つ私なのだが何故か熱くなり、もちろん優勝した。

 だが、後から家族が取っていた記録ビデオを見てもっと驚いた『限界タイム』を超えていたのだ。
 家庭用機材で録画したので、誤差では無いかとみんなは言っていたが、間違いなく超えていた。

 その後は、もちろん何どもそのシーンを思い出して訓練したが同じタイムは出なかった。

 彼女の声援が私に奇跡を起こした、それ以外は考えられないが誰も信じてはくれなかった。
 ただ唯一、親友の相馬だけが信じてくれた。

 鞍馬さんは本当に魔法使いなのでは無いかと思うことがある、不思議なことを時々起こす。
 そのときのことも私の中では『女神の声援』として彼女が起こす不思議なことの一つに数えている。

 このトレーニングは無意味ではない、ジワジワとタイムは上がっている。
 あとは彼女の『女神の声援』があれば、また陸上競技で飛べるような気がしている。

 今の彼女は、私も忘れらたと聞いてすべてがゼロに戻ったと思った。

 でも大丈夫だ、今日の話の中でも、彼女が沙也加さんであると証明できるような行動があった。

 それは彼女は無意識でこの世界の色々なことができるのだ。
 例えば、佐久間さんがシャープペンシルを渡して「文字を書いてみて」というと日本語で文字を書いた。
 その時鞍馬さんはシャープペンシルをノックして芯を出していたそうだ。

 シャープペンシルなんて彼女の元の世界には無いものだ。 
 それ以外に箸の使い方もうまいし、窮境はそばやラーメンと言った麺類をすすって食べるんだ。

 無意識で元の世界に無かったものをちゃんと扱えるというのは記憶が残っていると言うことだろう。
 元の彼女に戻すことを目指して頑張ろう、彼女は魔法使いだ、きっと思い出してくれるに違いない。
 もし思い出してくれたら、勇気を出して気持ちを伝えることも出来る……かもしれない。
 
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