13 / 66
おかしな秒針
しおりを挟むタク、タク、タク、タク
橙の灯り一つが照らす、小さな部屋。響き渡るのは壁時計が秒針を刻む音……これ一つだけだ。
備え付けられている年季のある壁時計。シヅキがこの部屋に棲みだした頃からあるソレは、いつからだろうか? 秒針の進み方がおかしくなってしまった。突如止まってしまったり、かと思えば遅れを取り戻そうと高速で動き始めたり……そんな状態だ。
幸い、短針と長針は問題なく動いているためシヅキは今までこのおかしな秒針を放置していた訳だが……なるほど、重なるところがあった。
「このコーヒー苦い……」
存分に顔を顰めながらコーヒーを啜る目の前のホロウ。それを見てシヅキは鼻で笑った。
「な、なに? 急に笑って」
「別に。何でもねぇよ」
吐き捨てるように言ったシヅキは、トウカと同じようにマグのコーヒーを啜った。 ――あぁ、本当に苦いなこれ。そう思いながらもシヅキは表情を崩さなかった。
「マズい……」
崩してしまったら、目の前のこいつと変わらないと思ったからだ。
「文句あんなら飲まなくたっていいんだぞ」
「も、文句は言ってないって……事実を言ってるだけ。身体温まるし……あ、でもコーヒーは本当に嬉しい。ありがと」
「そうかい。……ちなみにだが砂糖みたいな嗜好品はこの部屋にねーからな」
「……そう」
残念そうに言って、コトとマグを置いたトウカ。しかしすぐにマグを持ち上げてコーヒーを啜って……再びマグを置く。さっきからソワソワと落ち着きがないのだ。
「……さっきからなんだよ。別にもういいだろ? 取り繕わなくたってよ」
「そ、そういうんじゃなくて……えっと」
琥珀の眼を泳がせるトウカ。無意味に髪を手で梳かしだす始末だ。引っ込み思案なところは出会った時の印象から変化ない。むしろ増した。
「……その、私のことは内緒にしてほしくて」
「私の……あぁ。他の奴には愛想の良い自分を見せるってことか?」
シヅキがそう訊くと、トウカは不満ありげに口をへの字に曲げた。
「愛想良いって……そんなふうに見てたの?」
「“見てた”じゃねぇよ、“見えた”だ。さっき言ったろ? ボロ出てたってよ」
「……ぐ、具体的には?」
顎を引き、上目でシヅキを見るトウカ。シヅキはハァと軽く溜息を吐いた。
「それ、説明しねーといけない?」
「お、お願い……」
「……初めに違和感があったのは俺が魔人と対峙してた時だ。あん時トウカ、『シヅキ、叩いて!』とか叫んだろ? それ聞いてよ、普段は丁寧な言葉遣いに慣れてねぇやつなんだろうなと薄々思ったんだ」
「……やだった?」
「嫌じゃねーよ。あん時は、まぁ……助かった」
「そ、それはどうも……」
ぎこちなく頭を下げたトウカ。対してシヅキは後ろ髪を強引に掻くだけだ。
「んでも、初対面ならまぁ………んなもんかって思った。なんつーの? 行儀よくするのはな」
「シヅキ……も最初は無理に丁寧な言葉遣いしてたよね。すぐ止めたけど」
「うるせ。 ……俺には向いてねんだよ」
ぶっきらぼうに答えると、トウカはなぜかくすくすと笑った。「そこ笑うとこかよ」とは口に出さず、代わりにシヅキは溜息を吐いた。
「……んで、まぁあとは何となくだよ。勘だ。さっきトウカがソヨの名前を出した時に確信した」
「わ、私……そんなに違和感あった?」
「突然のことに弱いだろ? お前。変なことが起きると口が回らなくなる」
シヅキの指摘に対して、トウカはすぐに返事をしなかった。しばらく何も言うことは無かったが、彼女がシーツをギュッと握る様子にシヅキは気がついた。
「そう、かも……」
やがて彼女が発したのはそんな言葉だった。何をそんなに気にすることがあんだ、とシヅキは思う。
「ともかくだ。変にキャラを作るとしても、もう少し詰めた方がいいと思うが。 ……何で俺がアドバイスしてんだよ」
「ぐ、具体的に――」
「知らねぇ自分で考えろ。どうせ今日が終われば、お前とは赤の他人だ。そこまでする義理がねぇ」
そう捲し立てたシヅキはマグのコーヒーをぐっぐと一遍に飲み干した。
ドンと机にマグを降ろすと、そこにはシヅキを見据えるトウカが。その表情はきょとんとしている。
「……なんだよ。ただの事実だろ?」
シヅキがそう言っても、トウカは首を傾げるだけだ。彼女の頭の上には大きな疑問符が見えた。
「えっと……シヅキ、聞いてないの?」
「あ? 何をだよ」
「私とシヅキのこと」
「……いや」
「そうだったんだ。 ……えっとね? 私とシヅキは明日から同じチームだから」
………………
ん?
「……チーム?」
「うん。その……シヅキが私の監視役……みたいな?」
頬をポリポリと掻きながら、また、バツが悪そうにしながらそんなことを宣いやがったトウカ。シヅキはというと、まだその事実を処理しきれていなかった。
「えっと……よろしくね? シヅキ。明日からも」
無言で座り尽くすシヅキに対し、トウカは手を伸ばした。ちょうどそれは、船着場でシヅキがしたように。
眼前の手を眼に捉えたところで、やっとシヅキはトウカが発した言葉の意味を理解した。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
シヅキらしからぬ大声が、秒針音を消し去るかごとく部屋中に響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる