灰色世界と空っぽの僕ら

榛葉 涼

文字の大きさ
57 / 66

マメサユキ

しおりを挟む

 つい昨日に組まれた即興の調査団。彼らはかつてまともだった頃の人間が大都市を造ったとされる“から風荒野”を目指して前進をしていた。

 目的はから風荒野への侵入経路の確保である。というのも、から風荒野の周辺には魔素ノイズが渦状に流動をしているのだ。この渦状のノイズは結界と命名された。

“結界を破壊できるかどうか。” そこにこの調査の命運が託されているのだ。

 (………まぁ、んなことはクソほどどうでもいいんだが)

 心の中でそう吐き捨てたシヅキは、改めて自身がこの調査とやらには向いていないことを自覚をした。

 第一に士気の低さである。ホロウの悲願である人間の復活にツユほどの興味が無いシヅキが、結界の破壊という得体の知れない調査へ躍起となる理由がある筈無かった。今はただただ、“言われたことを愚直に行うようにする”という今までの自身の在り方へやはり愚直に従っているに過ぎない。

「どしたすか? シヅっち~なんか思い詰めた顔してるっすね~、ん? ん?」

 廃れの森をただ黙々と歩いていただけなのに、エイガはわざわざこちらに駆け寄ってそんなことを訊いてきた。シヅキは軽く舌打ちをした後にこのように応えた。

「るせーよ、幻覚だ」
「幻ではないっしょ……」

 ケタケタと貼りついた笑みを浮かべるエイガを、シヅキは嫌悪を隠さない表情で見た。

 第二に集団での任務。シヅキは自身が他者に対して辛辣である自覚が大いにあった。ちょうど先ほどエイガにとった態度のように。明らかに集団行動には適していないタチなのだから、やはり調査団には向いていない。

 手で払い除ける素振りを何度か行って、ようやくエイガは持ち場へと戻っていった。シヅキは溜息を1つした後に、前方を歩く1体のホロウへと視線を寄越した。その横顔が見える。

(……トウカ)

 そして最後にトウカのこと。先日トウカが吐いた彼女の正体……ソレが静かに、しかし確実にシヅキの思考を蝕んでいた。否応もなく思考せざるを得ないのだ。他のナニカに打ち込むなんて出来る筈なかった。

 そんな思考の最中で、シヅキは自分自身のことをちっぽけな存在だと思った。小心者なのだ。ソヨやヒソラ、コクヨであれば気持ちに折り合いなんかを付けられるのかもしれないが、シヅキにはそれが出来ない。自分の中で抱え込んで、抱え込んだモノは濃度が高くなりやがて毒へと変わる……そんなイメージが頭の中にあった。

 そんなシヅキのことを知ってか知らずか、調査団の隊列において先頭付近を歩くトウカの面持おももちは至って平常だった。ただ淡々と誰とも話すことなく前進を続けるのみだ。一見するとそれは、緊張をしているようにもあるいはリラックスをしているようにも見えた。

 (前者だろーけどな)

 トウカが片手に持つ錫杖しゃくじょう。その揺れる鈴を見ながらシヅキはそのように考えていた。

「シヅキさん、シヅキさん」

 先ほどのエイガのように再び声がかけられた。今度は背後からだ。移動の最中は余計な会話をしないのが原則じゃないのか? と呆れつつもシヅキは振り返る。

「んだよ、サユキ」

 ぶっきらぼうにシヅキがそのように声をかけると、同じ浄化型のサユキはメガネをカチリと上げつつこう言った。

「先ほどエペを武装した魔人を浄化したじゃないですか。その時の感想を率直にお願いしたいですね」
「あ? 感想?」
「ええ。私が近くの木の上から魔人を狙撃しましたよね? 私の立ち位置や矢を飛ばすタイミング、あとは指示についてシヅキさんが思ったことを教えて欲しいです」
「……あぁ、そういうことか」

 シヅキが思い返したのはつい先ほどの戦闘のことだった。シヅキが対峙したエペ武装の魔人の肩を1本の群青色の矢が貫いたのだ。あれはサユキが放った一撃だった。

 浄化型の武装は各ホロウで様々だ。シヅキは大鎌、コクヨは刀、アサギは大盾、エイガは短剣を同時に2本用いる。サユキは弓矢だった。戦闘時には魔人の足止めや隙作りといったバックアップを行う。

 道中では計3回魔人と対峙をした。その中でサユキが放った矢の数は1本だけだった。なぜならそれ以外はシヅキとエイガで事足りたからである。

 なので、シヅキはたった1回の狙撃のことを頭に浮かべながら、ぶっきらぼうに答えた。

「正直あの一撃は助かった。俺1体じゃあ消耗戦にでもなってたろうしな」
「ほうほう。して、改善点はありましたかね」

 コクコクと素早く頷きながら、サユキは懐から取り出したメモ帳とペンを準備した。

「……お前、マメな」
「ふふ、当然ですね。私のアイデンティティーですから!」
「アイデ……は?」
「アイデンティティーですよ! 個性ですね!」
「……」

 ドヤ顔でメガネを上げるサユキは随分と鼻についたが、流石にそれを口には出さなかった。溜息混じりにシヅキは言葉を口にする。

「……そうだな、距離感がいまいち掴めねぇとこか。背後にサユキが居ることは分かるが、どれほど距離が空いているかが曖昧だ。声の調子だけじゃ理解に時間かかるから、他に合図をくれると助かる」
「ほうほうほう」

 ザーッという調子でメモをとるサユキ。シヅキが眼の端に捉えたメモ帳はびっしりと黒で埋まっていた。

「分かりました。とりあえず木を移った際は脚で幹を叩くようにしましょう。それが聞こえづらければ他に案を考えてみます」
「ああ」
「質問は以上です。ご協力感謝ですね」

 やはり最後もメガネをカチリと上げたサユキは、ペコリと頭を下げた後にスキップでもともと居た隊列の位置へと戻っていった。

 それを眼で見送った後に視線を戻すと、こちらを見ながら後ろ歩きをするエイガと眼が合った。

「ふーん」
「……んだよ」
「シヅっち、意外と喋るんだ~と思っただけすよ」
「お前には関係ないだろ」
「あるっすよ! オレはシヅっちと仲良くなりてーっすもん!」
「俺は思ってねぇよ」
「え~ひどいすよ!」

 そう言いながらわざとらしくその場で地団駄を踏んだエイガ。その光景を、トウカと同じ隊列の先頭を歩くソウマがギロッと睨んでいた。

 そんな2体のを眼に捉えつつシヅキは考える。

 (エイガとソウマ……こいつらがコクヨさんと一緒に“絶望”から救助したんだよな)

 赤毛で軽薄な態度を崩さないエイガと、堅物な態度をとり続けるメガネをかけたソウマ。一度救助されたからかどうかは不明だが、2体にはアサギやサユキといった他のホロウとはが異なると漠然と感じていた。

 顎を2度さすった後にエイガがおどけた口調で言った。

「シヅっちってば、まーた思い詰めた顔してるすよ? よければ相談乗るっすよ? ん?」
「……」

 個体差があるのだから纏う雰囲気が異なるのは当然だろう。だが、それとは別にシヅキの中には2体に共通する“違和感”があった。なぜ自分の中にそんなものがあるのか分からない。 ……ただ、存在するのだ。そして、それはシヅキの思考を蝕みつつあった。

 静かに、しかし確実に。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...