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取扱説明書(4)
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「ただいま」
「おかえりなさい」
でも、俺にも今は、こうやって出迎えてくれる真純がいる。
「渡してくれた? お土産」
「うん。ありがとうって」
テーブルの上には、真純の食べかけのサンドウィッチと、インスタントのスープ。
「それ、晩飯?」
真純はうん、と頷いて、テーブルの上を片付けた。簡単な食事。真純が一人の時は、こんな食事ばかりなことを、俺は知っている。だけど、家で二人で食事をすることなんて、滅多にない。お互い、外の付き合いがあるし、仕事もある。
でも、もし、真純が専業主婦なら、どうだろう。俺は学生の頃みたいに、食べに帰るかもしれない。二人で、テーブルを囲んで、あの頃は偽りだったかもしれないけど、今ならきっと、本当に、笑顔で食事ができる。
真純は、お気に入りなのか、その白い花柄のワンピースをよく着ている。タオル地で、ふわふわして、真純の細いカラダが、よけいに細く見える。
「そのワンピース、かわいいね」
「これ? ずっと前から着てるよ」
「前から思ってた」
抱き寄せた真純の髪からは、シャンプーの香りがして、その場で押し倒してしまいそうなくらい、一気に欲情してしまう。
「風呂、入ってくる」
風呂から上がると、真純はソファで、ビールを飲みながら、ぼんやりと、スマホを見ている。
真純はあまり、酒が強くない。
「珍しいね」
「うん……」
真純は何か言いたげに、口籠った。
「俺も飲もうかな」
軽く缶を合わせて、真純は俺の肩にもたれて、USJで撮った写真と動画を見ながら、ぼんやりと言った。
「楽しかったね」
スマホの中で、エルモとクッキーモンスターのTシャツを着た、俺と真純が笑っている。急いで服買ったけど、結局、中でTシャツとか色々買ってしまって、年甲斐もなく、結構はじけてしまった。
「また行こうな。あ、今度、ディズニー行こうよ。泊まりがけで、休み合わせてさ」
そうだね、と呟いて、真純は、ずっとスマホを見ている。時々ため息をつきながら、ぼんやりと……どうしたんだろう。元気、ないよな。
「なんか、あった?」
「……うん」
「仕事?」
俺のその質問に、真純は答えず、空になった缶を軽くつぶして、二本目のビールを、冷蔵庫に取りに行った。
本当に珍しい。ビールなんて、普段、飲まないのに。
少し離れて座って、二本目の缶をあけて、一口飲んで、思い切ったように、口を開いた。
「明日から、しばらくお休みなの」
「えっ? なんで?」
「訴えた部下がね……セクハラがあったって……」
「セ、セクハラ?」
「私から、セクハラを受けたって」
「なんだよ、それ!」
「確かにね……男だったら、みたいなこと言ったの。それがダメだったみたい」
「そんなこと、普通に言うだろう」
「今はダメなのよ、そういうこと言うと」
ふっと笑って、真純は淡々と続ける。
「異動になるの」
「異動? どうして」
「今回のことが、マスコミに流れて、企業イメージに傷がついたって。それに、その子の復職の条件が、私が管理職から外れることなの。それが、ご家族からの要望」
「本人は、何て言ってるの」
「うつ病だから、正常な判断はできないそうよ。本人の意思は、不明なまま。でも、もし本当に裁判にでもなって、ブラック企業の烙印でも押されたら、もう取り返しがつかない」
ふと見た横顔は、冷たい、横顔。真純は、じっと前を見て、佐倉部長の目で、唇を噛み締めて、何かを、必死で隠している。
「私の行く末は、総務部課長か、名古屋支店の企画部長か。もう後任も決まってるの。私の上司だった人でね。私の抜擢人事で、名古屋に出向になった人。ざまあみろって顔で、私を笑ったわ。散らばってた取り巻きも集めて、完全な追い出しにかかってる」
「どうする気なの」
真純は、強い目で俺を見た。まるで、睨みつけるように、強い目。会社での、佐倉部長は、こうして闘ってきたんだ。若くて、美人で、女の、佐倉真純は、こうして、男社会で、一人で闘ってきた。
「このままじゃ、終わらせないわ。絶対に、企画部に戻ってみせる。こんなこと、許さないわ」
ふと見ると、ゴミ箱の中に、丸めたティッシュが何枚も入っている。酒のせいかと思ったけど、目も少し腫れている。
きっと、俺が帰って来るまで、泣いてたんだろう。悔しくて、泣いてたんだ。
見栄をはる。
まさしく、今の真純は、そうだった。理不尽な仕打ちに耐え、傷つき、また、心を閉ざすことで、乗り越えようとしている。
「本社に残って、挽回してみせる」
「辞めなよ、もう」
「このまま辞めたら、負けたことになるわ! 負けない。こんなことくらい、どうってことない!」
真純……いいんだよ、負けても……いや、負けてなんかないんだよ。お前は、誰と闘ってるんだ? お前は、誰に負けたくないんだよ。
「誰に、負けるの?」
「そ、それは……会社とか……」
「そんなの、もういいじゃん。真純の部下の子達は、セクハラなんかしてないって、みんなわかってるだろ?」
「そうだけど……」
「それじゃ、ダメなのか? そもそも、そんなことで真純を左遷するような会社、俺はもうダメだと思うよ。真純は今まで、会社のために、下の子達のために、自分のためにがんばってきた。それはみんな知ってる。それでいいじゃないか」
もう、お前のそんな顔、見たくないんだよ、俺は……
楽に、してくれよ。な、真純。もう、いいから。俺、お前の笑った顔、好きなんだ。なあ、真純……笑っててくれよ。
「……すぐには、答え出ない」
「ゆっくり考えなよ。家でゆっくりしてさ」
受けとめられたかな。なあ、杉本、これで、俺、正解か?
「私……セクハラなんてしてないのに……私……部下の子達のこと、真剣に考えてきたのに……」
三角座りの真純は、泣いている。
悔し泣き。見栄なんか、はらなくていいんだよ。俺には、そんな見栄、いらないから。
「負けたくないの……」
そうなんだ……真純は、負けたくないんだ。ずっと虐げられて生きてきたから、誰にも、負けたくないんだ。
「……今のポジションも……『女』を武器にしたんじゃないかって……ずっと言われ続けてきた。私、どんなにがんばっても、そんな風にずっと見られてきた。違うのに。私は実力で、今のポジションを勝ち取ったのに。年功序列も、性別も関係なく、私……」
「そんなこと、わかってるから。みんな、わかってるよ」
「今日ね……ご家族が弁護士と会社に来て……謝れって。だからね、謝ったの。もうしわけありませんでしたって……靴も脱いで、そうすれば、裁判はしないっていうからね、私ね……」
俺はもう、それ以上、聞けなかった。真純は拳を握りしめて、わなわなと震えて、ただ、ただ、泣いている。
「つらかったね」
硬い拳をそっと握ると、真純は、俺の胸に飛び込んで、声をあげて、泣き始めた。
初めて見る、真純の姿。
「その子ね……慕ってくれてた。気が弱くてね、でも、仕事ができないわけじゃなかった。もっと強くなってくれれば、きっと結果を残せるような子だったの。厳しくしすぎたのかもしれない。でも、かれも一生懸命だったの。田山くんの部屋から見送ったときね、握手してくださいって。だからね、握手したの。嬉しそうに笑って……いい子なの。本当に……」
「その訴えた子も、何か理由があるんだよ」
「常務が、訴えるようにご家族に話したらしいの」
「常務って、あの、独立するとか言ってた……」
「断ったから、腹癒せよね。田山くんも、部下の子たちも、人事に抵抗してくれたんだけど……これ以上やるとね……もう、私、居場所がないの……会社に……」
「真純……」
「がんばったの、私。必死に勉強して、必死に働いて、必死に売上げ上げて、がんばったの。なのに……こんな仕打ち……」
「真純は、よくがんばった」
そうしか言えなかった。
冷えてたけど、俺は知ってた。真純が必死だったこと。夜も休みもなく、必死で仕事してた。
「……慶太……私、これからどうしよう……」
「好きなようにしていいんだよ。生活費は、俺が稼ぐからさ。金の心配はしなくていいから。真純は、好きなことをすればいい」
「好きなこと……私ね……何もないの……仕事以外に、何も……」
ああ、そうだったな……いつか、部屋に入った時、真純の部屋には、仕事以外のものは、何もなかった。それくらい真純は、仕事にうちこんでいて……頑張ってきた。
なんて言ってやればいいんだろう。今の真純に、どうしてやれる?
「ずっと、仕事だけだったの」
真純の好きなこと……真純が、得意なこと……仕事にうちこみ始める前は……
もう二十年前のことだけど、空白の時間を飛び越えて、俺は真純と付き合い始めた頃のことを、鮮明に思い出していた。
「俺、真純の料理、好きだよ。昔はよく、作ってくれたじゃん。ほら、オーブン買ったの、覚えてる? 真純が新しいオーブンが欲しいって言ってさ。二人で買いに行ったよな」
「そう……だったね……」
でも、真純は、あまり思い出したくないのか、そのまま黙ってしまった。
ああ、やっぱり俺は、うまくできない。せっかく真純が、本当の真純を見せ始めたのに……
二本目のビールが空いた頃、真純はソファで、うとうとし始めた。
「ベッドで寝ないと」
「うん……」
ほら、ビールなんて飲めないくせに。無理するから。
真純を抱えて、ベッドに寝かせると、そのまま眠ってしまった。
俺は子供のように眠る、少し赤くなった、その体を抱きしめた。
かわいい……ほんとに、真純はかわいい。真純は本当に、四十なんだろうか。
時々、真純が幼い少女に見える時がある。
頬に軽く唇を当てると、真純はうん……、と言って、寝返りをうった。
「離さない」
俺は呟いて、真純の背中を抱きしめた。
絶対に、離さない。他の男に真純を渡すくらいなら、この手で……
お前を殺して、俺も死ぬよ。
「おかえりなさい」
でも、俺にも今は、こうやって出迎えてくれる真純がいる。
「渡してくれた? お土産」
「うん。ありがとうって」
テーブルの上には、真純の食べかけのサンドウィッチと、インスタントのスープ。
「それ、晩飯?」
真純はうん、と頷いて、テーブルの上を片付けた。簡単な食事。真純が一人の時は、こんな食事ばかりなことを、俺は知っている。だけど、家で二人で食事をすることなんて、滅多にない。お互い、外の付き合いがあるし、仕事もある。
でも、もし、真純が専業主婦なら、どうだろう。俺は学生の頃みたいに、食べに帰るかもしれない。二人で、テーブルを囲んで、あの頃は偽りだったかもしれないけど、今ならきっと、本当に、笑顔で食事ができる。
真純は、お気に入りなのか、その白い花柄のワンピースをよく着ている。タオル地で、ふわふわして、真純の細いカラダが、よけいに細く見える。
「そのワンピース、かわいいね」
「これ? ずっと前から着てるよ」
「前から思ってた」
抱き寄せた真純の髪からは、シャンプーの香りがして、その場で押し倒してしまいそうなくらい、一気に欲情してしまう。
「風呂、入ってくる」
風呂から上がると、真純はソファで、ビールを飲みながら、ぼんやりと、スマホを見ている。
真純はあまり、酒が強くない。
「珍しいね」
「うん……」
真純は何か言いたげに、口籠った。
「俺も飲もうかな」
軽く缶を合わせて、真純は俺の肩にもたれて、USJで撮った写真と動画を見ながら、ぼんやりと言った。
「楽しかったね」
スマホの中で、エルモとクッキーモンスターのTシャツを着た、俺と真純が笑っている。急いで服買ったけど、結局、中でTシャツとか色々買ってしまって、年甲斐もなく、結構はじけてしまった。
「また行こうな。あ、今度、ディズニー行こうよ。泊まりがけで、休み合わせてさ」
そうだね、と呟いて、真純は、ずっとスマホを見ている。時々ため息をつきながら、ぼんやりと……どうしたんだろう。元気、ないよな。
「なんか、あった?」
「……うん」
「仕事?」
俺のその質問に、真純は答えず、空になった缶を軽くつぶして、二本目のビールを、冷蔵庫に取りに行った。
本当に珍しい。ビールなんて、普段、飲まないのに。
少し離れて座って、二本目の缶をあけて、一口飲んで、思い切ったように、口を開いた。
「明日から、しばらくお休みなの」
「えっ? なんで?」
「訴えた部下がね……セクハラがあったって……」
「セ、セクハラ?」
「私から、セクハラを受けたって」
「なんだよ、それ!」
「確かにね……男だったら、みたいなこと言ったの。それがダメだったみたい」
「そんなこと、普通に言うだろう」
「今はダメなのよ、そういうこと言うと」
ふっと笑って、真純は淡々と続ける。
「異動になるの」
「異動? どうして」
「今回のことが、マスコミに流れて、企業イメージに傷がついたって。それに、その子の復職の条件が、私が管理職から外れることなの。それが、ご家族からの要望」
「本人は、何て言ってるの」
「うつ病だから、正常な判断はできないそうよ。本人の意思は、不明なまま。でも、もし本当に裁判にでもなって、ブラック企業の烙印でも押されたら、もう取り返しがつかない」
ふと見た横顔は、冷たい、横顔。真純は、じっと前を見て、佐倉部長の目で、唇を噛み締めて、何かを、必死で隠している。
「私の行く末は、総務部課長か、名古屋支店の企画部長か。もう後任も決まってるの。私の上司だった人でね。私の抜擢人事で、名古屋に出向になった人。ざまあみろって顔で、私を笑ったわ。散らばってた取り巻きも集めて、完全な追い出しにかかってる」
「どうする気なの」
真純は、強い目で俺を見た。まるで、睨みつけるように、強い目。会社での、佐倉部長は、こうして闘ってきたんだ。若くて、美人で、女の、佐倉真純は、こうして、男社会で、一人で闘ってきた。
「このままじゃ、終わらせないわ。絶対に、企画部に戻ってみせる。こんなこと、許さないわ」
ふと見ると、ゴミ箱の中に、丸めたティッシュが何枚も入っている。酒のせいかと思ったけど、目も少し腫れている。
きっと、俺が帰って来るまで、泣いてたんだろう。悔しくて、泣いてたんだ。
見栄をはる。
まさしく、今の真純は、そうだった。理不尽な仕打ちに耐え、傷つき、また、心を閉ざすことで、乗り越えようとしている。
「本社に残って、挽回してみせる」
「辞めなよ、もう」
「このまま辞めたら、負けたことになるわ! 負けない。こんなことくらい、どうってことない!」
真純……いいんだよ、負けても……いや、負けてなんかないんだよ。お前は、誰と闘ってるんだ? お前は、誰に負けたくないんだよ。
「誰に、負けるの?」
「そ、それは……会社とか……」
「そんなの、もういいじゃん。真純の部下の子達は、セクハラなんかしてないって、みんなわかってるだろ?」
「そうだけど……」
「それじゃ、ダメなのか? そもそも、そんなことで真純を左遷するような会社、俺はもうダメだと思うよ。真純は今まで、会社のために、下の子達のために、自分のためにがんばってきた。それはみんな知ってる。それでいいじゃないか」
もう、お前のそんな顔、見たくないんだよ、俺は……
楽に、してくれよ。な、真純。もう、いいから。俺、お前の笑った顔、好きなんだ。なあ、真純……笑っててくれよ。
「……すぐには、答え出ない」
「ゆっくり考えなよ。家でゆっくりしてさ」
受けとめられたかな。なあ、杉本、これで、俺、正解か?
「私……セクハラなんてしてないのに……私……部下の子達のこと、真剣に考えてきたのに……」
三角座りの真純は、泣いている。
悔し泣き。見栄なんか、はらなくていいんだよ。俺には、そんな見栄、いらないから。
「負けたくないの……」
そうなんだ……真純は、負けたくないんだ。ずっと虐げられて生きてきたから、誰にも、負けたくないんだ。
「……今のポジションも……『女』を武器にしたんじゃないかって……ずっと言われ続けてきた。私、どんなにがんばっても、そんな風にずっと見られてきた。違うのに。私は実力で、今のポジションを勝ち取ったのに。年功序列も、性別も関係なく、私……」
「そんなこと、わかってるから。みんな、わかってるよ」
「今日ね……ご家族が弁護士と会社に来て……謝れって。だからね、謝ったの。もうしわけありませんでしたって……靴も脱いで、そうすれば、裁判はしないっていうからね、私ね……」
俺はもう、それ以上、聞けなかった。真純は拳を握りしめて、わなわなと震えて、ただ、ただ、泣いている。
「つらかったね」
硬い拳をそっと握ると、真純は、俺の胸に飛び込んで、声をあげて、泣き始めた。
初めて見る、真純の姿。
「その子ね……慕ってくれてた。気が弱くてね、でも、仕事ができないわけじゃなかった。もっと強くなってくれれば、きっと結果を残せるような子だったの。厳しくしすぎたのかもしれない。でも、かれも一生懸命だったの。田山くんの部屋から見送ったときね、握手してくださいって。だからね、握手したの。嬉しそうに笑って……いい子なの。本当に……」
「その訴えた子も、何か理由があるんだよ」
「常務が、訴えるようにご家族に話したらしいの」
「常務って、あの、独立するとか言ってた……」
「断ったから、腹癒せよね。田山くんも、部下の子たちも、人事に抵抗してくれたんだけど……これ以上やるとね……もう、私、居場所がないの……会社に……」
「真純……」
「がんばったの、私。必死に勉強して、必死に働いて、必死に売上げ上げて、がんばったの。なのに……こんな仕打ち……」
「真純は、よくがんばった」
そうしか言えなかった。
冷えてたけど、俺は知ってた。真純が必死だったこと。夜も休みもなく、必死で仕事してた。
「……慶太……私、これからどうしよう……」
「好きなようにしていいんだよ。生活費は、俺が稼ぐからさ。金の心配はしなくていいから。真純は、好きなことをすればいい」
「好きなこと……私ね……何もないの……仕事以外に、何も……」
ああ、そうだったな……いつか、部屋に入った時、真純の部屋には、仕事以外のものは、何もなかった。それくらい真純は、仕事にうちこんでいて……頑張ってきた。
なんて言ってやればいいんだろう。今の真純に、どうしてやれる?
「ずっと、仕事だけだったの」
真純の好きなこと……真純が、得意なこと……仕事にうちこみ始める前は……
もう二十年前のことだけど、空白の時間を飛び越えて、俺は真純と付き合い始めた頃のことを、鮮明に思い出していた。
「俺、真純の料理、好きだよ。昔はよく、作ってくれたじゃん。ほら、オーブン買ったの、覚えてる? 真純が新しいオーブンが欲しいって言ってさ。二人で買いに行ったよな」
「そう……だったね……」
でも、真純は、あまり思い出したくないのか、そのまま黙ってしまった。
ああ、やっぱり俺は、うまくできない。せっかく真純が、本当の真純を見せ始めたのに……
二本目のビールが空いた頃、真純はソファで、うとうとし始めた。
「ベッドで寝ないと」
「うん……」
ほら、ビールなんて飲めないくせに。無理するから。
真純を抱えて、ベッドに寝かせると、そのまま眠ってしまった。
俺は子供のように眠る、少し赤くなった、その体を抱きしめた。
かわいい……ほんとに、真純はかわいい。真純は本当に、四十なんだろうか。
時々、真純が幼い少女に見える時がある。
頬に軽く唇を当てると、真純はうん……、と言って、寝返りをうった。
「離さない」
俺は呟いて、真純の背中を抱きしめた。
絶対に、離さない。他の男に真純を渡すくらいなら、この手で……
お前を殺して、俺も死ぬよ。
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