虎と僕

碧島 唯

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 神社の子狐――2

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 ため息をついて、子狐を神社の柵の上に乗せるとしゃがみこんで目線を合わせる。
「僕にどうにかできるとか思えないけど、話くらいなら……」
 聞いてもいい──そう言いかけると、途端に子狐の顔がみるみるうちに明るくなって、嬉しそうに僕を見詰める。
『ありがとです、ありがとうですぅ』
「いや、だから、聞くくらいならって──」
 そんなに期待した顔で見詰められても困る、そう続けようとしたが、あまりにも子狐がきらきらしたような瞳で、僕をじっと見詰めてくるのに言えなくなってしまった。
 ちくしょう、なんて可愛いんだっ。

 とりあえず、と話を聞こうと思ったものの、すぐ側に──神社の中──には敵がいるのに、それを退治・もしくは追い払う話をするわけにもいかず、子狐に神社から離れることが出来るか聞いてみたが、答えは分からない、だった。
「まいったなぁ……」
『あ、でも……ひょっとしたら出来るかも、です。
 外に出るのも今日が初めてなのです。
 ここは神社の敷地の外でいい……です?』
 自信なさそうに子狐が首を傾げる。
 仕草の一つ一つが可愛い、このまま連れて帰りたくなる気持ちが湧いてしまう。
 ───っていうか、こんな可愛いのは反則じゃないか?
「じゃあ……試してみよう」
 子狐を肩に乗せると頭の上によじ登ってくる。
 なんで頭の上なんだろう、座り心地が肩と頭とそんなに違うんだろうか?
 ゆっくり、一歩一歩と神社に背を向けて歩いて、子狐の様子を伺う。
「どう、かな?
 何か変わったことある?」
『だ、大丈夫なのです。
 特に何も、ないのです』
 初めての事に戸惑っているような子狐の声が返り、少しずつ、誰かに見られていたら不思議に思うような速度で、本当にゆっくりと神社から距離を取る。
 つくづく、ここが町外れで人気のない場所でよかったと思う。
 不自然な散歩はやがて神社が見えなくなる場所に辿り着いて、この辺りでちょうどいい場所はないかと見渡してみる。
「ずいぶん離れたなぁ……大丈夫?」
 とりあえず、離れた事で影響が出てないかを聞いてみる。
『特に何も……はいっ、大丈夫なのです』
 頭上でぴょこんと跳ねられた感触があった。
 まぁ、重くもないし、痛いわけでもないからいいんだけど。
 いいんだけど!
 どうせなら、そういう可愛い動作は見えるところでやって欲しい。
「あ、あそこの石の上とか座るのに丁度いいかな、大丈夫そうなら行ってみるよ」
 丁度椅子くらいの大きさの石が数メートル先の道端に見えて、その石の方へ向かう。

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