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感謝の水曜日

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太陽の光が部屋に差し込み、目を開ける。
知らない天井が飛び込んでくる。
鏡を見て、昨日あったことが夢じゃないと確認する。


人間になったんだ。


そのことがまだ受け入れられない。
でも、実際にはこうして人間になっている。
非現実感パナい。


小さなキッチンでは、おじいさんが料理をしていた。
何かが焼ける匂いがして、よだれが垂れそうになる。

「ほら、できたぞ」

ちゃぶ台にご飯が並ぶ。
まだじゅうじゅういっている目玉焼き、ソーセージ。湯気を立てている白ご飯、味噌汁。
初めて食べる人間のご飯。

「「いただきます」」

手をあわせる。
この時、人間はご飯を食べる前に手を合わせると知った。


白ご飯をスプーンですくい、口に運ぶ。おじいさんは箸で食べているが、僕は箸が使えないからだ。

「熱っ!」
「こらこら、冷まして食べな」

舌が焼けそうになる。
言われた通りに冷まして食べると、米の味が口いっぱいに広がる。
今までキュウリしか食べていなかったので新鮮だ。
味噌汁も目玉焼きもソーセージも、美味しかった。


片付けまで終わらせると、おじいさんが話し始めた。

「今日から、少しわしの手伝いをしてくれんかのぅ」

人間にしてくれたんだから恩返しするのは当たり前だ。
僕は首を縦に強く振る。

「有難いのう。わしは最近衰えてきてな、手伝いがどうしてもいるようになったのじゃ」


おじいさんの車に乗る。
30分ほどして着いたところは、石切場だった。
山に空いた坑道から大量の石が運び出され、それらの石はトラックに運ばれどこかへ持っていかれる。

「ここが、仕事場じゃ。お前さんの仕事は、あそこの青年に聞いてくれ」

おじいさんは肩に石が入った袋を担いでいる青年を指差した。
身体中の筋肉が引き締まり、Tシャツがピチピチだ。

……キモ

「わしは別の仕事があるから離れる。慣れないと思うが頑張ってくれ」
「はい!」

元気よく返事をすると、おじいさんは車に乗ってどこかへ行ってしまった。


「あのー、すみません……」
「なんだい?君、見ない顔だね」

僕は、おじいさんが指さした青年に話しかけた。
近づいて見ると、キモさが増す。

やめて死にそう……

「えっと、おじいさんがあなたに聞けって……。その、僕、おじいさんに恩があって、それで」
「はいはい、話は聞いてるよ。そうだね、君は石を運んでくれるかい?あそこからトラックに、この袋で石を運ぶんだ。」

袋を渡される。

「はい」
「わからないことがあったら、なんでも聞いて良いよ」
「はい、よろしくお願いします」
「うん、頑張ってね」

青年は微笑んで言った。

笑顔キショ

僕は勝手がわからないので、とりあえず青年について行くことにした。
青年は坑道の入り口に行き、袋に石を詰めている。
僕は小走りで青年のところに行き、見よう見まねで袋に石を入れる。
青年は袋を肩に担ぎ、、トラックに向かって歩く。
僕は袋を担ごうとしたが重くて持てなかった。石を少し袋から出し、肩に担ぐ。それでも少しふらついたが踏ん張る。
青年はトラックの荷台に石をぶん投げる。
僕は石の中身を少しずつ出していく。
青年はすでに袋に石を詰め込み、運んでいる。
僕は急いで袋に石を入れる。


おじいさんに感謝をしながら。


石を袋に入れる。
運ぶ。
トラックに積む。


これを何回繰り返したかわからない。
気がつくと太陽は西の空に沈みかけていた。
車が来て、ドアが開く。おじいさんが降りてきた。

「皆の者、今日はこれで終わりじゃ!帰って良いぞ!」

おじいさんが声を張り上げると、坑道からわらわらと人が出てきた。
それぞれが家に帰っていく。

「よう頑張ったな。帰るとしよう」

おじいさんに呼ばれ、急いで青年に礼を言ってから車に乗った。


家に帰り、おじいさんは晩御飯の準備を始めた。
良い匂いがしてきて、自分がお腹が減っていることに気づいた。

「今日の仕事はどうじゃった?」

おじいさんがいきなり話しかけてきて、返答に困る。
少し迷って、

「少しきつかったです……」
「そうかそうかそうか、でもそのうち慣れるぞ」
「はい、明日も頑張ります」


布団に入ると、すぐに眠りに落ちてしまった。

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