文芸部の小野塚眞緒は無口

風枝ちよ

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回復魔法のマオは無力

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「マオ、君はモンスターの飼育員でも目指しているのか?」
「す、すいません……。あ、勇者様後ろ!」
「わかっている」

勇者様は右手に持ったバケツを振り上げる。活性化したプランポルンの顔面に衝突し、めり込む。プランポルンが崩れ落ちる。
おお。
できれば

「できれば聖剣とか使って勇者らしく倒して欲しい、と思っているだろう」
「なんでわかるんですか? ちょっ、右!」

今なら名言を盗れたけど焦って言えなかった。次は言おう。

「見ればわかる」

言われた。
勇者様はバケツを回す。遠心力で速度が上げられたバケツに当たり、プランポルンが倒れる。
なんでバケツで倒せるんですかね……。

「聖剣って、普段使わないじゃないか」

バケツも普段使わないと思うんですけど。

「君は聖剣とバケツ、どちらの使用頻度が高い?」
「バケツ、です」

聖剣など使ったことがない。

「そうだろう」

そうですけど。質問の仕方がせこい気もする。

「使い慣れた物の方が使いやすい。これは宇宙の真理だ」

宇宙レベルまでいくと確証持てませんが。

「大事なのは手段ではなく結果だ。聖剣を使えずモンスターに食い殺されるのと、バケツを使ってモンスターを食い殺すのとの違いだ。違うか?」

モンスター食い殺すんですか。

「でも勇者って、カッコよさも必要だと思うんですよ」
「今の私はカッコよくないか?」
「カッコいいです!」
「それならいいではないか」
「でも、今以上に、」
「仕方ないな」

勇者様は聖剣を取り出す。
それ何処から出したんですか。

「あまり慣れてないから不安だが……」

勇者様が聖剣を担ぐ。
カッコいい。

「恨むなよ?」

勇者様が構える。何かぶつぶつ呪文を唱え、やがて聖剣は赤く光り始める。
勇者様が聖剣を振ると、その赤い光は聖剣の先から伸びる、マオに向かって。

「マオ!!」

マオに赤い光は当たらなかった。
それはつまり、勇者様が。

「ガハッ…!」
「勇者様!」

勇者様が、赤い液体を吐く。
これがマヨネーズじゃないってことは、血液ってことで。

「えと。冗談、ですよね……?」

恐る恐る訊いたマオは、もうわかっていたはずで。
でも、認めたくなくて。
だって極東支部のモンスターのときには、自分で。

「すまぬ、な……」
「もう喋らないでください!」
「やはり私には、聖剣は向いていないようだ……」

また血が落ちる。

「自分の攻撃は、自分で治せなくて、な……」
「えっとまず止血、その前に回復薬を、いやその前に、その前に!!」
「マオ」

勇者様が、マオの名前を呼ぶ。染み込むような声。

「落ち着け」

ひぐっ、とマオは顔を歪める。

「泣くな」
「泣いてないです!」

その声が震えているのが、自分でもわかっていた。

「私は死なない。何故ならマオが、治してくれるから、な……」
「勇者様!」
「冗談だ」

何処から冗談なんですか。

「本当は、な…………」

勇者様の息が少しずつ細くなっていって。そして。
プランポルンは足を止めずに向かってくる。
何か。
何か、しないと。
マオには何ができるんだろう。
回復、くらいしか思い浮かばない。
でも、弱いし。
でも、人に当たらないし。
でも、でも。でも。
何もしないよりは。
勇者様に2回も救われたこの命を、最期くらいは勇者様のために。
どうせ死ぬのなら、マオの魔力を全て使っても。
プランポルンはすぐ近く。マオは呪文を唱える。
右手が緑色に光り始め、力を込めると光が放出される。
神様、もしいるのなら。
この命などいくらでも差し上げますので、勇者様を。
光が、勇者様を包む。
プランポルンがその光を見て後退る。
勇者様の傷がゆっくりとふさがり、顔に生気が戻ってくる。
光が消える。

「……ん?」
「勇者様! もう全方向!」

勇者様はまるで緊張感のない顔で起き上がり、バケツを振る。
マオは自分の身体から力が抜けていくのを感じた。
視界が黒くなる。
プランポルンが倒れる音だけが、遠くで聞こえていた。
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