上 下
3 / 23

しおりを挟む
ぷには、天使だよ」
「……へぇ」
「反応薄くない?」

僕は恐れていた。怯えていた。
天使という存在を。天使という存在に。
古来より天使と悪魔は対立していたし、僕は天使に会うのが初めてだったし。
怖かった。
それを隠して自然なふりをしていた。

「僕仏教だから、天使は関係ないんだ」
「仏教にも天使っているらしいけど」

いないから。
僕の仏教に天使なんていないから。

「君の、名前を教えてくれる?」
「いいよ。僕は、」

僕は?
僕には、名前がない。
天使が混ざった僕は嫌われ避けられた。
誰も僕を助けてくれなかった。

「僕は、名前がない」
「なんで?」
「……色々あって」
「それ、いつか話してくれたら嬉しい」
「あんまり君のこと、知らないから」
「これから知っていこ?」

雪くんは天使のように、事実天使なんだけど、本当に天使のように笑う。
それを僕は綺麗だと思うし、雪くんの心も天使天使しているのだと思う。

「じゃあ、……黒、くん」
「くろ?」
「君の名前。黒い服着てるから」

くろ。
安直な上に犬みたいな名前だな。

「嫌なら、堕悪夜ダークナイトとか。ナイトには騎士の意味も込めてるんだよ」
「……黒がいい」
「よろしくね、黒くん」
「よろしく」

雪くんが頭を下げたので、黒くんも頭を下げる。

「黒くんは、人間だよね?」
「うん」

こわ。
なにこの子。

「驚かないの?」
「天使、ってこと?」
「そう。普通は畏れたり十字切ったりされるんだけど」

畏れてるから普段通りに振舞っているんだよ。

「心鍛えてるから」

もう泣きそう。

「見たのは初めて?」
「うん」
「天使の存在とか信じてた?」
「信じてるから見えてるんじゃない?」
「そっか」

あーこわ。
雪くんは唐突に変なことを言うからね。

「悪魔もいるんだってね」

雪くんは唐突に変なことを言うからね。
え。
悪魔?
ここは慣れないボケで誤魔化す方向で。

「みんなの心の中に、かな……」
「病んでるなぁ」

雪くんが笑う。
病んでるって言うか悪魔なんだよね。
笑顔が一つ増えたからよかった。
よかった?
悪魔の仕事は絶望を増やすことなのに、よかった?
僕の心の中の天使は、まだ死んでいないらしい。
早く悪魔にならなければ。
早く天使を殺さなければ。
死ね、僕。
しおりを挟む

処理中です...