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第1章 夏
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赤に包まれた球体の中で、僕らはしばらく無言だった。
「村瀬」
先輩の声が、じんわりと空気に広がる。
静かな声。
「キス、していいか……?」
僕の目をまっすぐに見て、先輩が訊く。
「……え?」
ワンテンポ遅れて訊き返す。
「あーその、なんだ。ほんとは雰囲気とかなんだろうけど、オレそういうの苦手で」
「キス、ですか」
「だめか?」
「いえ、大丈夫、です」
「じゃあ、いくぞ」
「はい」
キスってこんなだったっけ。
先輩が近づいてくる。真顔。
ちょっと怖め。
先輩が目を閉じる、僕も目を閉じる。そして。
唐突に、創太くんの顔が浮かんだ。
唐突ではないのかもしれない。今日も何回か、創太くんのことを思っていた気がする。
「やっぱり、だめです!」
顔を背ける。
行き場を無くしたような、先輩の顔。
「だめ、です……」
「そうか」
先輩は、普通のトーンで言う。
また、無言。
帰る途中も、無言だった。
出園ゲートから駅までの道も、駅の中も電車の中も。
電車が止まり身体が傾き、ドアが開く。
人が出入りし、空気が出入りする。
電車を降りる。
日常が戻ってくる感覚。
「じゃあな」
駅を出て、先輩が言う。
「はい、ありがとうございました」
先輩は僕に背を向けて歩く。
見てたけど、一度も振り返らなかった。
「村瀬」
先輩の声が、じんわりと空気に広がる。
静かな声。
「キス、していいか……?」
僕の目をまっすぐに見て、先輩が訊く。
「……え?」
ワンテンポ遅れて訊き返す。
「あーその、なんだ。ほんとは雰囲気とかなんだろうけど、オレそういうの苦手で」
「キス、ですか」
「だめか?」
「いえ、大丈夫、です」
「じゃあ、いくぞ」
「はい」
キスってこんなだったっけ。
先輩が近づいてくる。真顔。
ちょっと怖め。
先輩が目を閉じる、僕も目を閉じる。そして。
唐突に、創太くんの顔が浮かんだ。
唐突ではないのかもしれない。今日も何回か、創太くんのことを思っていた気がする。
「やっぱり、だめです!」
顔を背ける。
行き場を無くしたような、先輩の顔。
「だめ、です……」
「そうか」
先輩は、普通のトーンで言う。
また、無言。
帰る途中も、無言だった。
出園ゲートから駅までの道も、駅の中も電車の中も。
電車が止まり身体が傾き、ドアが開く。
人が出入りし、空気が出入りする。
電車を降りる。
日常が戻ってくる感覚。
「じゃあな」
駅を出て、先輩が言う。
「はい、ありがとうございました」
先輩は僕に背を向けて歩く。
見てたけど、一度も振り返らなかった。
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