退屈な日常を変えるために打ったメールは、どこかの誰かに届いたらしい

風枝ちよ

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第3話

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メールが誰かに届いただけでイベントと言っていいのに、まだ続くようだ。
俺の今までの平凡は今日で完全に消えた。
昨日までは、メールの中だけだったからそんなに現実感を味わえなかった。
おっさんが女子高生のフリをしている説は生きていたからな。
でも、今日完全に平凡から脱する。
後輩の女子から告られると言うイベント発生。
いつフラグ立てられたんだ?



朝。
登校。
靴箱。
一つの封筒がある。
俺が通っている高校は、靴箱にプリント配布するような伝統はなかったはずだ。
テロリストに爆弾を仕掛けられる覚えもないし。
なんだろう。
そっと取り出してみる。
ピンクのハートのシールで閉じられている。

予鈴。
その封筒を鞄に入れ、急いで階段を駆け上がる。



授業。
教室。
何かを忘れているような気がする。
何か、すごく大事なことを。
大切なことを。



昼休み。
教室。
弁当を取り出すために、鞄を開く。
ん?
なんだこの封筒。
置き勉派の俺は、朝鞄開けないから気付かなかったんだ。
なにこれ。
と思ったのも数秒で、すぐに気付く。
あれだよあれ。
例のあれ。
“らぶれたあ”みたいなやつだよ。
話があるので昼休み屋上に1人で来てくださいとか放課後銀杏の木の下で待ってますとかそういうやつだよ。
やべえ人生初だわ。
どうしよう。
相談しよう。
隣の席の、渡辺に話しかける。
渡辺すずかとは、いわゆる幼馴染という関係だ。
母親は福岡の出身らしい。
幼稚園小学校中学校高校と、ずっと同じクラスだという奇跡。
なんとも思ってないんだけどね?

「あのさ、ちょっといい?」
「ん?どげんしたと?」
「朝、こんな封筒が靴箱にあったんだけど…」

封筒を渡す。

「あ、ラブレター?」

女子察し良すぎるだろ。

「多分な」

渡辺は躊躇せず封筒を開ける。
爆発したりしないよな?

「山下創先輩へ。話があります。昼休み、北校舎の屋上で待ってます。高校一年三組駒田加奈より」

あ、マヂモンのラブレターじゃん。

「カッコ閉じる」
「それは書いてないだろ」

どこから始まってたんだよそのカッコ。

「ってか昼休みって今じゃん!」
「今気付いたと?」
「気付いてたなら言ってくれよ」
「早く行かんと、凍えて死にそうになっとーかも知れんばい」
「どんな可能性だよ」

今全然雨の降らない梅雨っつーか、もう夏だわ。

「頑張りーね」

その声が少しだけ震えていることに、俺は気付かなかった。

「おう!」

ダッシュ。
さすがに凍えてはないだろうけど。



昼休み。
屋上。
いた。
屋上には今1人しかいないから、間違いない。
木陰に置いてあるベンチに座って、本を読んでいる。
ポニーテールが、風で揺れる。
…可愛い。

「ごめん、待った?」
「いえ、今来たところですよ」

駒田は柔らかく微笑む。
見惚れてしまう。

「いきなりだけど、話って何?」
「山下先輩」

駒田は、立ち上がって僕をまっすぐ見つめる。
その瞳に、吸い込まれそうになる。
気のせいか駒田の頬が赤い。
俺の心拍数も上がってきているようだ。

「あなたなんか、キライですっ!」

そんな言葉と同時に、彼女の左手が俺の頬を打つーーなんてことはない。

「好きです。付き合ってください」

まっすぐな告白だった。
駒田の顔が、一気に赤く染まる。
俺の頬もそうなっているのを感じる。
夕日のせいにはできない。

「…お願いします」

俺は言う。

「ありがとうございます!」

駒田の表情が、ぱっと明るくなる。
ポニーテールが揺れる。
犬のしっぽかよ。



昼休み。
教室。
駒田とメアドを交換した俺は、渡辺に報告する。

「そうなん?よかったやん」

声は明るいのに、震えている。
目にはうっすらと涙。
…涙?
俺渡辺を泣かせちゃったの?
なんで?

「あ、目にゴミが…ちょっとトイレ行ってくる」

ゴミなのか?
どうしたんだ?
俺は、何をしてしまったんだ?



   今日、俺告られて付き合うことになりました。

家に帰ってすずに送信すると、すぐに返信が返ってくる。

   あ、へーそうなんだ。
   ファイトp(^_^)q

いやなんか反応冷たくね?
怒ってらっしゃるのかな?
今日学校で何かあったのかな?

   じゃあうちとのメールはこれで終わりやね。

2つ目のメール。
すずが2つ続けて送ってくるのは初めてだ。
終わりって、どういうことだ?
メールできないのか?

そのあと、俺が何を送っても返信が返ってくることはなかった。


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