退屈な日常を変えるために打ったメールは、どこかの誰かに届いたらしい

風枝ちよ

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最終話

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「ごめん」

俺は駒田に告げる。

「そんなに謝らなくても…」
「その事じゃない」
「え?」
 
俺は、駒田の顔をまっすぐ見て、言う。
告白してくれた時のように。

「ごめん」

もう一度、俺は謝る。

「やっぱり、君とは付き合えない」
「なんでですか?私じゃ、ダメなんですか?」
「君は可愛いし、優しいし、全然ダメなんかじゃない」
「じゃあなんで…」
「でも、」

駒田の言葉を遮るように言う。

「好きな子が、いるんだ」

大粒の涙が駒田の目に浮かぶ。
ポニーテールがだらんと垂れ下がる。

「ごめん」

俺は、謝ることしかできない。
好きな子がいるのに、中途半端な気持ちで付き合おうとした俺を、それでも好きでいてくれてありがとう。

「……ありがとう…ござい…まし…た…」

泣かせてしまって、本当に申し訳なくなる。

「早く、その子のところに行ってあげてください」

止まることのない涙を流しながら、精一杯の笑顔で、駒田は言う。
無理やり明るくしながら。
泣き笑いみたいな表情で。
俺の恋を、応援してくれる。
どれだけいい子なんだ。

「ごめんな」

最後にもう一度だけ謝って、俺は走り出す。
超絶可愛い後輩のすすり泣く声が、聞こえる。



今日は土曜日だから、渡辺は学校の図書館で勉強しているはずだ。
探す。

「はぁ、はぁ…」

息切れが激しい。

「…山下くん?何しよーと?」

教科書から顔を上げて、俺を見る。

「すず」

俺は、名前を呼ぶ。
渡辺すずかの、メールの時の名前を。

「気付いたんやね」
「うん」
「…ダメやね、うち。すぐ泣いて。山下くんに彼女できたときも、泣かんどこうって思っとったのに泣いちゃって」

涙を拭いながら、渡辺は言う。

「今日、デートやなかったと?どげんしたとよ」
「お前に、伝えたいことがあって来たんだ」

息は整ってきている。

「加奈ちゃんは大丈夫なん?」

こんなときも、他人の、それも恋敵の心配ができるなんて、すごいと思う。

「大丈夫。ちゃんと話をしてきた」
「本当に大丈夫と?あげん可愛い子振って後悔せん?」
「大丈夫だって」
「んで、伝えたいことって?」

話の強引な戻し方は、本当に同一人物だと分からせてくれる。

「どーせ、ノート貸してとかそういうやつやろ?いいよ。何の教科?」
「あ、そうそう。数学がちょっと…」

いや待て。
何の話をしているんだ。
こんな場面でボケを挟まないでほしい。

「じゃねーよ」

改まると、緊張。
今までの人生で最大かもしれない。
顔は赤くなるし脇汗はダラダラだし動悸も激しいし。
駒田はこんなのを乗り越えたんだ。
その想いを受け取らなかった俺は、すごく残酷なことをしたのだと思う。
でも。
俺は、目の前にいる相手に言わなければならない。
自分の想いのために。
応援してくれた駒田のために。
すずのために。
渡辺のために。
今。
伝えなければならない。

「渡辺。俺は、お前のことが、」

息を吸い、一気に言う。
全力で、想いを込めて。



「好きだ」
 


                                                       完
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