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第一章 勇者追放

第二十六話 きっとそれは冗談

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『____この誘拐事件について、勇者協会ゼブラール帝国支部はコメントを発表しました。帝国臣民の信頼を裏切る行為で、大変遺憾である。該当勇者を除名し、事件の全貌を明らかにし、二度とこのような事態が発生しないよう対策を講じて』

ラジオがそこで切られる。
あれから数日後。
宿の部屋で休息を取っていたアギトは、調書作成に付き合わされた疲労をあくびで発散していた。

あの後帝国治安軍に通報し、ドラニコス達は連行された。
詳しい経緯は不明だが、彼の勇者認定は取り消され、財産のほとんどを賠償金として剥奪されたらしい。
それ以上、二人がなにか知るつもりはなかった。
どうでもよい事ともいえる。

二人は冒険者としての日常に戻っていた。
無論、取り調べなどはあるがそれもトントン拍子で進んでいき、今朝方の確認作業で行政からの呼び出しは終わりを向かえた。
アギトの暴行は正当防衛として処理され、咎められることはない。
賠償金の一部を貰ったが、それは足りなかった報酬金として割り当てられ、残ったわずかは久方の贅沢として高級レストランでの代金となった。
依頼も幾つか引き受け、今日はアギトが都庁へと赴いている間、陽菜野が一人で猫探しをしていた。

先に戻ってこれたのでラジオを流してみたアギトだが、さして聞きたい番組もなく、やはり何処かで暇を潰せば良かったと思い直してベッドへと寝転がる。
タイミングよく、扉が開いて、陽菜野が戻ってきた。

「ただいまー」

「おう。猫は?」

「見つかったよー。すっごい可愛いの。三毛ちゃんだった」

「オスだったら高値で売れそうだな」

「ここだとあまり珍しくもないらしいよ」

「そうなのか」

「そうなの」

杖を起き、装備から部屋着へと着替えて、彼女はアギトの寝ている所へと座った。

「アギトはどんなこと聞かれたの?」

「とくになにも。今までの振り返りみたいなもんだった」

「そっかー」

「…………なあヒナ」

「はー、今日も汗でベタベター」

「…………あー。そう」

「背中洗って」

「わかった」

陽菜野の言葉に頷き、アギトは彼女と共にシャワールームへと脚を運ぶ。
あの日以来、この光景は珍しくなくなった。
以前一度ふざけあって、幼い頃のように背中を洗い合おうとしたこともあった。
それを、ここ数日繰り返している。
決まって陽菜野が言い出しっぺになっていた。
断ることもできた。
しかしアギトはそれをしなかった。

脱衣場で互いに部屋着を脱ぐ。
アギトは背中を洗ってやるだけなので、腰から下は履いたまま。
陽菜野は下着姿になっていた。

「なに?」

「え?」

「見てたから」

「あー。うん。まあ、見るよな」

「えっちー」

「いや、それはお前が」

「うんしょ」

そうして背を向けると、彼女は裸になった。
白銀の長髪に、よく似合う白い肌はリビドーを刺激する。

「背中洗うだけだよ」

「ああ」

「期待してる?」

「まさか」

「ふーん」

陽菜野はタオルで局部を隠すことなく、ただ背中を向けたままシャワールームへと入る。
アギトもそれに続いた。
前回、ここで頑なに止めようと口にしたら、泣き出したので従うしかない。

二人で入るにはかなり手狭な空間で、椅子に座るとその狭さがより強調される。
アギトの視界は、ほとんどが陽菜野の背中になった。
肩甲骨と背骨が美しいラインを作り上げており、腰にかけては余分な脂肪が一切ないスレンダーな体型。
しかし尻はまるで桃のように柔らかそうで、舐めてみたいと思っていた。

「…………手で洗ってね。スポンジとかタオルとか、痛いから」

「……………………」

「アギト?」

「え、あ、うん」

「…………シャワー出すから」

ノブを回し、シャワーヘッドからお湯が流れ出す。
全開ではなく、優しく垂れ流しているような勢い。
アギトに可能な限りに飛沫を飛ばさないための配慮だが、あまり効果はない。
汗を軽く落とし、肌全体を瑞々しく注せる。
その間にアギトはポディーソープを手につけて、軽くお湯で伸ばすと陽菜野の背中に向けた。
髪の毛が分けられて開かれている光景は、妙な興奮がある。

「じゃあ、いくぞ」

「うん」

シャワーが止められ、幼馴染の背中に触れる。
爪をたてないように、擦り付けないように、掌と指の腹で撫でていく。

「…………ん」

「……………………」

「…………ぁ」

時折、陽菜野が声を漏らす。
それは何かしら気持ち良さそうな声だった。
きっと気のせいだと思い込むアギトは、作業に徹した。

「…………んぁ……ぁ……」

「……………………」

「……あんっ…………ん、ん」

「………………………………」

「んっ……きもちいい」

「そうか」

「もっと」

「わかった」

「…………あぁ……」

「…………………………………………」

「はぁあ……はぁあ……んっ……んぅ…………」

少年の股間は、もう無視できないと、盛り上がっていた。
彼女は、幼馴染は、陽菜野は。
いやしかし、それは、してはならない。
そう、大切な人をそんな目で見てはいけない。

決意を強くすると、アギトは男を鎮めさせて、引き続き背中を洗った。
一通り終わり、ようやく解放されると思い立ち上がろうとする。
が、陽菜野はまだアギトのズボンを離さない。

「なんだよ。終わっただろ?」

「まだだよ」

「どこが」

「前」

「無理だ」

「していいんだよ」

「駄目だ」

そんなことすれば、アギトは自分の滾るそれを抑えきれないとおもっていた。
今でさえ、押し倒したい衝動が頭を反復横飛びの感覚で過っている。

「だから、いいよ」

「は?」

「…………えっちなこと、してもいいよ?」

「____」

だからこそ、その発言はあまりにもアギトを困惑させたのかもしれない。
あるいは、我慢の枷をはずす必殺だったのかもしれないが。
なんにせよ陽菜野も、なにかしら意識した発言ではなかったらしく、自分がなにを言ったのか気がついて慌てて立ち上がった。
胸や股間を隠して振り返り、顔を真っ赤にさせている。

「ご、ごめん!! 変なこと、言っちゃった! 忘れて! 気にしないで!!」

「………………ああ。大丈夫だ。きっとお前、疲れたんだよ。寝とけ」

「………………うん。本当にごめんなさい」

「気にするな。そういうこともある」

「そうかな」

「そうだ」

「そうだね」

納得を応酬し、二人はシャワールームから出た。
きっとそれは冗談だったのだ。
そういう感想が残る一問答を互いの中で自己完結させると、寝間着になった陽菜野がベッドへと横になる。

「まだ夕方だけど、いいのかな」

「いいさ。たまには俺が飯を用意するよ」

「…………フライパンは食べれないからね」

「馬鹿にしすぎだろ」

「……えへへ…………」

掛け布団を口元まで手繰り寄せて微笑む。
いつもの陽菜野の姿にアギトは内心ほっとした。

夕暮れの木漏れ日が窓から差し込む。
思えばもうすぐ夏かと、思いながらさして熱くない気候に、どこか親しみを覚えかける。
夕食の出来はさしてよろしくないが、食するには問題なかった。
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