追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第二章 勇者降臨

第四十四話 学友

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一旦落ち着くため、アギト達はいつも使っている酒場の一角へと移動した。
改めて、ブリッツはリティアに自己紹介をする。

「初めまして素敵なお姉さん。オレの名はブリッツ・ジークブラッド。ご覧の通り学生さ」

「リティア。アギト達には幾つか世話になっている」

「なるほどなるほど。ところでリティアさん。今カレシとかいます?」

「あっははは、アギト、こいつぶん殴っていい?」

相も変わらない、高校生離れした筋肉特盛のような肉体と、ずかずかと踏み込むアプローチの仕方は懐かしさと同時に呆れさせた。

「殴っても、あんたの手が痛むだけだろうがな」

「だろうね。しっかしすげー身体だな」

ふふんと、鼻をならすブリッツ。
クォーター特有の鼻の高さは絶妙なイケメンを造形しているが、筋肉の影響ですべて台無しになっている。

「まあ、鍛えていますから。どんな素晴らしいお姉さんと身体のお付き合いができるように」

「そろそろ魔法でぶちこむぞ」

「すんません調子に乗りました」

リティアの指先に浮かぶ炎に、命の危険を察知して、素早く態度を変える。
こういうところは、身の丈に合わぬ程素早い。
腕にはガントレット。
見た目に反せず格闘家であるのは、アギトと陽菜野からしてみれば当然だった。

「そろそろ茶番はいいか? 話をするぞ」

「おう。そういや、二人は最初から二人きりだったわけか」

ブリッツがアギト、陽菜野の双方に指差しながら問う。

「そうだな」「うん」

「つまり……はっ! 二人はもう大人のかいだんっっ!!?」

それを言いきろうとした刹那、陽菜野が杖でブリッツの股関節を殴り付けた。
どれほど鍛えても、どうしようもない部位が、男にはあるのだと証明される。

「真面目にやろうかブリッツくん?」

「は、はい。もうふざけません」

なかなか進まない状況だが、アギトは馴れていて、リティアは流すことにした。

立ち直ったブリッツは自分がこれまでどうしていたかを語る。
彼が目を覚ました所はオルフェリア王国のなんとかという森の奥地だった。

「なんとかって、なんだよ」

「忘れた!」

頭を強く打った覚えがないというが、初めから覚える気がなかったのだろう。
ともあれ、そこで冒険者の師匠と出会い、話をしている内にここが異世界であることに気が付いた。
直前まで一緒にいた友人達の姿はなく、最初こそ自分一人だけ飛ばされたと思っていたが、勇者召喚の話を聞いて巻き込まれた可能性が浮かぶ。
しかし先立つものすらない彼が皆を捜索することは不可能であり、ましてやこの世界についてよく知らない。
情報収集に金銭確保もかねて冒険者となり、今日までやってきた、というわけであった。

「ちょっとまて。お前ランクはいくつだ?」

「たしかEだった気がするけども……まさかお前らもうDに!?」

「空港を使うために上げるのが先かと思ったけど、そうか徒歩で」

と悩むアギトに、陽菜野が突っ込んだ。

「オルフェリア王国の国境までどれくらいかかるか知ってる? 国籍を持ってないから審査も越境費用も安くないし、それに毎日依頼が手に入るわけじゃない。フリーランスが色々とデメリットがあるんだよ」

ランクCから空港が無料で使えるようになるというが、その他にも他国への越境の際に、国籍の代わりとして冒険者の身分が使えるのだ。
無論、それまでにも越境が不可能ではないが、易々とやれるものでもない。
厳しい審査に高値の入国許可証の発行。
しかもそれらは一度使えば使えなくなるため、いったり来たりしていれば、再発行の金額は凄まじい値になる。

故に、ランクDから先はかなり長いものとされていた。
セシルにしても冒険者としてやってきてようやく最近になってCに昇格したのだから。

「それもそうか。ブリッツとこうして再開したのも運が良かったわけだし」

納得して頷くアギト。
ブリッツもそれは同意していた。

「最初はもっと簡単に早くゼブラール帝国にいけると思ったんだ。だけど結局、行けるようになったのはバザールの護衛依頼が来たここ最近になってよ。ま、おかげでオルフェリア王国はあちこち回ってきたぜ」

「小旅行気分だね……流石はブリッツくんだよ」

「へへ、筋肉とヲタクとしては、問題ないからな」

後者が果たして必要だったかはさておき、オルフェリア王国には友人グループの面々の痕跡すら見つからなかった。
その報告を聞いて、陽菜野が考える。

「あとユグドラシェル大陸にある国は……アメリア合衆国にゲルマニア帝国。それにガリア公国か。まあ、ゼブラール帝国も完全に回ったわけじゃないけども」

「それでもある程度は回ったはずだ。それで見つからなかったならあとは」

アギトの言葉に頷く。

「とりあえずは……ランクを地味に上げるしかないかな」

「地味に、か。茶々をいれるようで悪いがヒナノ。それは簡単に行くかどうかとすれば、だいぶ難しいぜ。セシルが何年かかったか、知っているな?」

「それは解ってるよリティア。でもそれしかない。情報だって、そう簡単には見つからないから」

バザールでの情報収集は、思った以上に空振りだった。
異世界人の情報はほとんどなく、この間の勇者追放騒ぎが関連する情報で一番最新である。
リティアが頼んでいたソフトドリンクを口にして、続けた。

「まあ、なにかしらすごい事件を解決したら、冒険者として異例の出世とかあり得るかもしれんがな」

「そんな事件起きなければ良いけどね」

冗談混じりのイレギュラー例は、期待するだけやめておいた方がよかった、そう陽菜野は思っていた。
第一、それが発生するというのは被害者と被疑者の両名が現れるということであり、他者の不幸の塊でしかなかったからだ。
平穏に過ごせることこそ、この世界ではいいことだ。
それだけは、皆が確信して思っていた。

依頼ボードに新たな依頼が張り出されていく。
忙しそうにする内勤スタッフは、その内容に気にすることはない。
だがすこしだけ思っていた。
また、討伐系の依頼がずらりと来たと。
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