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16.ギルドマスターからの依頼

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 ギルドの三階に上がると、そこには扉があった。どうやら三階半分が部屋のようだ。半分は吹き抜けになっており、二階が見える。他に扉はなく、この部屋がルーズさんの部屋のようだ。
 通された部屋にはソファとテーブルがあり、窓の前には仕事用に使っているのか、書類が載った机があった。
 立ったままでいると、ルーズさんにソファに座るようにすすめられた。
 怪我をしたということもあり、リカルドが私を先に座らせてくれた。ノアさんとノエさんが向かいのソファに座ると、立ったままのリカルドがルーズさんを見た。
 すると、ルーズさんは小さく頷いてネックレスに触れた。

「ティーダ、出ておいで」

 そう言うと、青紫色の魔石が輝いた。小さな光が飛び出してきたと思うと、それは形を成して床に降り立った。
 それは、クジャクのような尾をした真紅の鳥。この世界ではレアモンスターとされる、不死鳥だった。
 けれどその不死鳥は思っていたよりも小さい。子供なのかもしれないけれど、サイズからするとクジャクと同じように見える。色が真紅でなければ、クジャクだと思ったかもしれない。
 それに、翼も小さいように見える。この翼では、飛べるのだろうけれど、高く飛ぶことができないのではないか。

「ティーダ、頼む」

 しゃがんで頭を撫でながらルーズさんが言うと、ティーダは歩きながら私の座るソファまでやって来た。そして黙って見上げてくるものだから、思わず抱き上げたくなった。
 けれど、ルーズさんに何かを頼まれていたようだから邪魔をしてはいけない。何もせずに様子を伺うことにした。
 ティーダは私を見上げたまま軽く羽ばたくと、膝の上に乗ってきた。そして、そのまま膝の上に座ってしまった。
 すると突然、ティーダの体に炎が纏わりはじめた。驚いたけれど、熱さは感じない。

「その炎は、怪我を治してくれるから気にしないでくれ」
「分かりました」

 小さな怪我だけれど、治してくれるらしい。少しの痛みでもなくなるのなら、依頼に支障は出ないだろうからよかった。膝に座っているティーダを撫でていると、私の隣にリカルドが座った。
 そしてルーズさんは仕事で使っているだろう椅子に座った。

「さて、それじゃあ依頼の話をしようか」

 今日はルーズさんからの依頼で鐘が一つ鳴ったら来るはずだった。けれど、朝からあんな騒ぎを起こしてしまったから、鐘が鳴る前にルーズさんが来てしまった。
 迷惑をかけたことは申し訳ないとは思うけれど、ボロスに迷惑をかけられていたのは私だけではなかったようだ。
 他の人の依頼を奪ったりしていたので、元々苦情は多かったのだろう。
 ルーズさんは昔のボロスを知っていたようなので、もしかすると真面目に依頼をこなしてくれるようになるかもしれないと思っていたのかもしれない。けれどいつまでたっても真面目にならず、苦情ばかりがくる。そして今回、問題を起こした。
 ルーズさんの我慢も限界だったんだろうな。

「君たち『青い光』には、ヤエ村に行ってもらいたい」
「何かあったんですか?」
「そういえば、ブルーウルフの目撃情報がありましたね」

 ヤエ村と言われて頭に浮かんだのはブルーウルフ。
 ベルさんがヤエ村付近だけではなく、リトレイ領にあるエルカの街の東にある森付近での目撃情報もあると言っていた。
 別のモンスターの討伐の可能性もあるけれど、私とリカルドはベルさんに聞いていたからブルーウルフだろうと思った。

「話が早くて助かる。ギルドマスターの俺からの依頼は『ヤエ村付近に出没するブルーウルフの討伐』だ」

 ブルーウルフを最初に見つけて討伐してきたのは私とリカルドだった。
 他の街や村でも目撃情報が増え、リトレイ領とシュトーレン領の領主と話しをしたところ、一斉に討伐をすることになったらしい。
 早いところはすでに昨日討伐に出ており、ヤエ村付近には私たちが行くことになったらしい。
 ギルドはそれぞれの街に一つは存在しているので、近くの目撃場所へとそれぞれの代表が向かっているとのことだ。

「それで、今朝入ってきた情報なんだが……」
「何か問題でも?」
「ヤエ村付近に、ブルーウルフだけではなく、不審な男がいるらしい」

 不審な男。村に住んでいる人が不審と思うのなら、よほど怪しいのだろう。
 村と言っても、近くに森があることから冒険者が村に出入りすることはあるだろう。それなのに不審ということは、村には入らずに何かの目的のために周辺にいるのだろう。
 けれど、何が目的なのか。

「目的は分からないんですよね」
「ああ。別の場所にいる冒険者にも、ヤエ村に行くようにと連絡をした。運が良ければ合流できるだろう」
「その人には何の依頼を?」
「不審者の調査だ」

 たとえ合流できたとしても、目的は違うので協力はできなさそうだ。
 けれどもしも会った時、もめないようにと他の冒険者も行くことを教えてくれたのだろう。
 冒険者は別のギルドでも依頼を受けることはできる。所属ギルドの方が受けられる依頼は多いけれど、依頼で遠くに行っている場合、余裕があれば近くのギルドで新しく依頼を受けるのだ。
 ギルドマスターは自分のギルドに所属している冒険者が何処にいるのか、ギルドカードの履歴で見ることができるので、その冒険者に連絡を入れることができたのだろう。

「リカルドとアイは【無限収納インベントリ】にブルーウルフを入れて帰って来てくれ」
「分かりました」

 解体してもらうためにも【無限収納インベントリ】に入れなければいけないので、持って帰って来ることは問題なかった。
 ただ、今回は解体するのではなく、ルーズさんの元に持ってこなくてはいけない。依頼は討伐だけれど、依頼者はルーズさんだ。ルーズさんの言う通りにしなくてはいけない。
 討伐して持って帰って来るだけではなく、ノエさんは他に聞きたいことがあるようで、小さく手をあげてルーズさんに尋ねた。

「一つ聞きたいんですけど、いいですか?」
「ああ」
「昨日のレッドコウモリのように、大きなブルーウルフはいるんですか?」
「分からないが、可能性はある」
「本当に私たちでいいの? もっとレベルもランクも高い冒険者はいるじゃない」

 たしかにそうだ。森で討伐したブルーウルフのレベルは高かった。リカルドのレベルよりは低かったけれど、ノアさんとノエさんよりは高かったはず。
 楽に倒すことを考えると、私たち以外が相応しいと思うのはおかしいことじゃない。

「残念だけど、君たちよりレベルが高い冒険者は不在でね」
「そういえば、最近見かけてないな」

 レベルが高い冒険者を私は一度も見ていない。レベルが高ければ高いほど、一目見れば強いということは分かる。けれど、そんな冒険者には会っていないし見てもいない。
 不在ということは依頼で遠くへ行っているのか、それとも地元へ戻っているのか。

「けれど、大丈夫さ。アイのレベルは高いから」
「え!?」

 三人の声が重なり、同時に顔を私に向けた。
 何も聞かれていないので、レベルのことは話していない。もちろん、どうして冒険者になったのかも。

「レベルって、あんたいくつなの!? ギルドカードを見せて!」
「は、はい」

 ノアさんがソファから身を乗り出して言うので、急いでギルドカードを取り出して渡した。
 私のギルドカードをノアさんとノエさん。そして、ソファから立ち上がったリカルドも一緒になってみている。

「レベルが五十八!? どうして!?」
「十三歳の時から特訓してたので……」

 それだけじゃないことは分かっている。転生特典として、経験値が倍になっているから、少しレベルが上がりやすいのだ。
 十三歳の時から特訓していたとしても、レベルの高いモンスターと毎日戦っていないと三年でこれだけレベルは上がらないだろう。
 この世界でモンスターを倒してもなかなかレベルは上がらない。これだけレベルが上がったのは転生特典のお陰。

「たしかに、アイがいれば強敵は大丈夫かもしれない」
「強敵が出たら、私とノア姉様が後方から支援しますね」

 全員が近距離攻撃よりも、後方からの支援も必要なので、その時はお願いすることにした。

「それでは、今からヤエ村に向かいますね」
「ああ。そうだ、アイは行く前にDランクに更新してもらってくれ。ベルには話してるからな」
「でも私、あまり依頼受けてませんよ」
「ブルーウルフにレッドコウモリ。十分ランクを上げてもいいモンスターと数を倒してるよ」
「そうなんですか……」

 ギルドマスターが言うのだから間違いはないだろう。私は、膝からティーダを下した。痛みもなくなっており、「ありがとう」と言って頭を撫でた。
 ソファから立ち上がりルーズさんに「行ってきます」と言ってから部屋から出ると、一階に下りてすぐに更新してもらった。ギルドカードが私の髪の色から黒に変わった。Eランク以外は、ギルドカードを見ただけでランクが分かるようになっているらしい。
 すでに多くの冒険者は出て行っており、残っている人は依頼から帰ってきた人や、今日は依頼を受けないと決めた人だけのようだ。
 更新もすぐに終わり、ギルドから出ると一度宿へと向かうことにした。行先の方向には宿があるので、連泊をしているリカルドたちはしばらく帰ってこないことを伝えなくてはいけない。
 私はまだ連泊にはしていなかったけれど、いつもお世話になっているので伝えることにした。
 ルクスの街からヤエ村に行くには三日かかる。帰りを入れても六日だけれど、最低でも一日は村に泊まるだろう。だから、早く帰ってくるとしても七日。
 今回の依頼に期日はないようだけれど、三日以内には終わるようなものだろうと思っている。
 私のランクがDになっても、パーティランクは変わっていないので、難しい内容ではないはずなのだ。
 難しくはないと、思いたいだけだけど。
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