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34.転移
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ギルドに着くと、ギルド内はいつもより空気がおかしかった。依頼を受けようとしている冒険者が多くいるのだけれど騒いではいない。
空気がピリピリしていて、冒険者たちは依頼を受けずに椅子に座っている。依頼書を持っている人はいるけれど、誰も受付に行こうとはしない。
受付担当全員が受付で何か作業をしており、少し怖い顔をしている人もいた。そのうちの一人、ベルさんが顔を上げた。
「『青い光』のみなさん、今すぐルーズさんのいる三階へ行ってください!」
少し焦っているように聞こえ、私たちは顔を見合わせてから急いで階段を上った。扉をノックして、グレンさんが返事を待たずに少し乱暴に開いてしまった。
部屋の中には椅子に座ったルーズさんがいた。目を閉じており、その顔は何かを考えているように見える。
少しボロスに怒っていた時の顔に似ているけれど、今は怒ってはいない。ゆっくり目を開いたルーズさんの顔はいつもとは少し違って真剣だった。
まずは話を聞かなくてはいけないので、昨日と同じようにソファに座った。
「丁度お前たちを探していたところだったんだ」
「俺たちを?」
「ああ」
椅子から立ち上って、ソファの前のテーブルに一枚の紙を置いた。それは依頼書だ。しかも普通の依頼書ではない。緊急依頼と書かれている。
それだけではなく、この依頼を受けることができるのは『青い光』だけだった。しかも、依頼主は二人。書かれていた依頼主の名前に驚いた。どうしてこの二人が依頼をしてきたのかと疑問に思ったけれど声には出なかった。
リカルドが依頼主の名前を指してルーズさんへと視線を向けた。
「どうしてこの二人が?」
「さあな。いつの間にか交流があって、何かの作戦があるんだろう」
この二人に交流があるなんて思ってもいなかった。もしかすると最近会っていたのかもしれない。
作戦が何かは分からないけれど、依頼の内容は『手伝い』だ。しかも簡単な手伝いではない。
どうしてこの二人からの依頼を『青い光』に任せようと思ったのだろうか。もっと適任がいるはずなのに。
「この依頼が来たのは一時間ほど前だ」
一時間ほど前と言うと、イビルラットと戦い始めた頃だろう。
そうだ、依頼を受ける前にイビルラットのことを話さないと。
「依頼は受けますが、その前にいいですか?」
どうやら同じことを思ったらしいリカルドが、軽く右手を挙げてルーズさんに問いかけた。何も言わずに頷いたルーズさんに先ほどのことを話しだした。
ネブラのこと。最近出現した大きいモンスターのこと。モンスターが移動している原因のこと。
増巨剤の実物は入手出来なかったけれど、過去に魔族領で作られ、それを利用して完成させ、魔族以外の種族を滅ぼそうとしていること。
ルーズさんは少し考える素振りを見せたけれど、納得したようだった。
「きっと、この二人も真実に気がついたんだろうな」
依頼書に書かれている名前を指で三回軽く叩きながら言うルーズさんの口には笑みが浮かんでいる。
もしかすると、この依頼を受ければ、今出現している大きいモンスターはいなくなると思っているのかもしれない。
実際、ネブラがどのくらいのモンスターに増巨剤を使ったのかは分からない。他の領地にも巨大モンスターは出現しているだろうから。
「この依頼を受けるなら、俺からも一つ依頼と言うか頼みがある。増巨剤を一つ持って帰ってきてくれ」
持ってこられればの話だろう。きっと、以前捕まえた大きいブルーウルフや大きいレッドコウモリに増巨剤が使われたのかを調べるために必要なのだと思う。もし使われていた場合、巨大化した原因が分かる。
この世界にはモンスターに薬が使われたかを調べてくれる人が存在している。それは、契約獣が存在するからだ。契約獣を連れている冒険者は、冒険者自身にではなく契約獣にアイテムを使われたりすることがある。
冒険者同士のもめ事で、相手にはかなわないと思った冒険者が契約獣に攻撃をするのだ。しかも、モンスターにしか効かない毒だったり、催眠効果のあるものだったり。これらは討伐対象に使うものではあるのだけれど、同じモンスターである契約獣にも効果があるので、もめ事に巻き込まれてしまうのだ。
それらを治すために成分を調べることができる人に増巨剤を調べてもらえば、巨大化したモンスターに使われていたのかも分かるだろうし、いつか効果を消すことのできる薬も作ることができるかもしれない。
リカルドがルーズさんの言葉に頷くと、「無理だったら持ってこなくてもいいからな」と微笑んだ。
「お待たせしました」
そう言ってノックをすることもなくベルさんが部屋に入ってきた。一枚の紙を持っており、そのままルーズさんに近づいて紙を手渡した。
ルーズさんは受け取った紙に右手を翳した。すると紙は形を変え、金色の鍵になった。左手で鍵を握ると、右手側へと歩いて行った。そこには木製の扉がある。
初めて部屋に入った時、左手に見えていたその扉は少し気になっていた。資料でも置いてあるのだろうと思っていたけれど、鍵を紙にして別の場所に置いていることを考えると、何か重要なものが置いてあるのかもしれない。
それにしても、どうして今鍵を開けるのだろう。
鍵を差し込み開けると、「こっちだ」と私たちを開いた扉の先へと誘導した。ソファから立ち上がって部屋の中に入ると、十二畳ほどの広さがあった。部屋半分には何やら魔法陣が描かれている。
「これは緊急の転移装置だ」
「転移装置?」
「ああ。今から、お前たち全員を魔族領に送る。きっちり依頼をこなしてこいよ」
笑顔でルーズさんが言うと、後ろからベルさんに押されて、魔法陣の上に立たされた。
全員が魔法陣からはみ出さないように立つには、体の一部が触れていないといけなかった。
今は緊急の転移装置を使わなくてはいけない状況なのだろう。
「無事に戻って来てくださいね」
「はい。行ってきます」
リカルドが力強く返事をすると、魔法陣が光り出した。よく見ると、ルーズさんが壁に手をついている。どうやらそこに魔法陣を発動する装置があるらしい。
本来【転移魔法】を使う時には膨大な魔力を消費する。たしかゲームでは、転移装置を使えば本来消費する半分の魔力で転移することができると聞いたことがある。ゲーム内でも使ったことはないので本当のことかは分からない。
もしかすると、ルーズさんは【転移魔法】を使えないか、使えるほどの魔力がないのかもしれない。だから緊急用に転移装置をこの部屋に作っていたのかもしれない。今回のように遠くに緊急依頼で行かないといけない場合に備えて。
「じゃあ、行ってこい!」
その言葉と同時に目の前からルーズさんとベルさんの姿が消えた。
転移先は魔族領。どのあたりに転移するのかは分からないけれど、きっと近くには依頼主である二人がいるのだろう。
依頼が来たのは一時間ほど前と言っていたから、その間に全てが終わっていなければいいと思った。
空気がピリピリしていて、冒険者たちは依頼を受けずに椅子に座っている。依頼書を持っている人はいるけれど、誰も受付に行こうとはしない。
受付担当全員が受付で何か作業をしており、少し怖い顔をしている人もいた。そのうちの一人、ベルさんが顔を上げた。
「『青い光』のみなさん、今すぐルーズさんのいる三階へ行ってください!」
少し焦っているように聞こえ、私たちは顔を見合わせてから急いで階段を上った。扉をノックして、グレンさんが返事を待たずに少し乱暴に開いてしまった。
部屋の中には椅子に座ったルーズさんがいた。目を閉じており、その顔は何かを考えているように見える。
少しボロスに怒っていた時の顔に似ているけれど、今は怒ってはいない。ゆっくり目を開いたルーズさんの顔はいつもとは少し違って真剣だった。
まずは話を聞かなくてはいけないので、昨日と同じようにソファに座った。
「丁度お前たちを探していたところだったんだ」
「俺たちを?」
「ああ」
椅子から立ち上って、ソファの前のテーブルに一枚の紙を置いた。それは依頼書だ。しかも普通の依頼書ではない。緊急依頼と書かれている。
それだけではなく、この依頼を受けることができるのは『青い光』だけだった。しかも、依頼主は二人。書かれていた依頼主の名前に驚いた。どうしてこの二人が依頼をしてきたのかと疑問に思ったけれど声には出なかった。
リカルドが依頼主の名前を指してルーズさんへと視線を向けた。
「どうしてこの二人が?」
「さあな。いつの間にか交流があって、何かの作戦があるんだろう」
この二人に交流があるなんて思ってもいなかった。もしかすると最近会っていたのかもしれない。
作戦が何かは分からないけれど、依頼の内容は『手伝い』だ。しかも簡単な手伝いではない。
どうしてこの二人からの依頼を『青い光』に任せようと思ったのだろうか。もっと適任がいるはずなのに。
「この依頼が来たのは一時間ほど前だ」
一時間ほど前と言うと、イビルラットと戦い始めた頃だろう。
そうだ、依頼を受ける前にイビルラットのことを話さないと。
「依頼は受けますが、その前にいいですか?」
どうやら同じことを思ったらしいリカルドが、軽く右手を挙げてルーズさんに問いかけた。何も言わずに頷いたルーズさんに先ほどのことを話しだした。
ネブラのこと。最近出現した大きいモンスターのこと。モンスターが移動している原因のこと。
増巨剤の実物は入手出来なかったけれど、過去に魔族領で作られ、それを利用して完成させ、魔族以外の種族を滅ぼそうとしていること。
ルーズさんは少し考える素振りを見せたけれど、納得したようだった。
「きっと、この二人も真実に気がついたんだろうな」
依頼書に書かれている名前を指で三回軽く叩きながら言うルーズさんの口には笑みが浮かんでいる。
もしかすると、この依頼を受ければ、今出現している大きいモンスターはいなくなると思っているのかもしれない。
実際、ネブラがどのくらいのモンスターに増巨剤を使ったのかは分からない。他の領地にも巨大モンスターは出現しているだろうから。
「この依頼を受けるなら、俺からも一つ依頼と言うか頼みがある。増巨剤を一つ持って帰ってきてくれ」
持ってこられればの話だろう。きっと、以前捕まえた大きいブルーウルフや大きいレッドコウモリに増巨剤が使われたのかを調べるために必要なのだと思う。もし使われていた場合、巨大化した原因が分かる。
この世界にはモンスターに薬が使われたかを調べてくれる人が存在している。それは、契約獣が存在するからだ。契約獣を連れている冒険者は、冒険者自身にではなく契約獣にアイテムを使われたりすることがある。
冒険者同士のもめ事で、相手にはかなわないと思った冒険者が契約獣に攻撃をするのだ。しかも、モンスターにしか効かない毒だったり、催眠効果のあるものだったり。これらは討伐対象に使うものではあるのだけれど、同じモンスターである契約獣にも効果があるので、もめ事に巻き込まれてしまうのだ。
それらを治すために成分を調べることができる人に増巨剤を調べてもらえば、巨大化したモンスターに使われていたのかも分かるだろうし、いつか効果を消すことのできる薬も作ることができるかもしれない。
リカルドがルーズさんの言葉に頷くと、「無理だったら持ってこなくてもいいからな」と微笑んだ。
「お待たせしました」
そう言ってノックをすることもなくベルさんが部屋に入ってきた。一枚の紙を持っており、そのままルーズさんに近づいて紙を手渡した。
ルーズさんは受け取った紙に右手を翳した。すると紙は形を変え、金色の鍵になった。左手で鍵を握ると、右手側へと歩いて行った。そこには木製の扉がある。
初めて部屋に入った時、左手に見えていたその扉は少し気になっていた。資料でも置いてあるのだろうと思っていたけれど、鍵を紙にして別の場所に置いていることを考えると、何か重要なものが置いてあるのかもしれない。
それにしても、どうして今鍵を開けるのだろう。
鍵を差し込み開けると、「こっちだ」と私たちを開いた扉の先へと誘導した。ソファから立ち上がって部屋の中に入ると、十二畳ほどの広さがあった。部屋半分には何やら魔法陣が描かれている。
「これは緊急の転移装置だ」
「転移装置?」
「ああ。今から、お前たち全員を魔族領に送る。きっちり依頼をこなしてこいよ」
笑顔でルーズさんが言うと、後ろからベルさんに押されて、魔法陣の上に立たされた。
全員が魔法陣からはみ出さないように立つには、体の一部が触れていないといけなかった。
今は緊急の転移装置を使わなくてはいけない状況なのだろう。
「無事に戻って来てくださいね」
「はい。行ってきます」
リカルドが力強く返事をすると、魔法陣が光り出した。よく見ると、ルーズさんが壁に手をついている。どうやらそこに魔法陣を発動する装置があるらしい。
本来【転移魔法】を使う時には膨大な魔力を消費する。たしかゲームでは、転移装置を使えば本来消費する半分の魔力で転移することができると聞いたことがある。ゲーム内でも使ったことはないので本当のことかは分からない。
もしかすると、ルーズさんは【転移魔法】を使えないか、使えるほどの魔力がないのかもしれない。だから緊急用に転移装置をこの部屋に作っていたのかもしれない。今回のように遠くに緊急依頼で行かないといけない場合に備えて。
「じゃあ、行ってこい!」
その言葉と同時に目の前からルーズさんとベルさんの姿が消えた。
転移先は魔族領。どのあたりに転移するのかは分からないけれど、きっと近くには依頼主である二人がいるのだろう。
依頼が来たのは一時間ほど前と言っていたから、その間に全てが終わっていなければいいと思った。
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