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60.白峰奏 という人物 ~side 守下~
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白峰 奏――彼女は白峰製薬グループの第2子である。実に優秀な子だった。彼女には兄がいる。彼は正直、不出来な息子だった。
なぜ僕がこんなにも詳しいのかって?
僕・・・守下涼平は彼女の幼馴染であり、僕の父が白峰製薬の研究員の1人であることもあり、昔から内部の事情にはそれなりに通じているのだ。
学生のころから彼女は常に学年トップの成績を残していたし、それに見合う努力もしていた。僕はそばで見ていたから、同い年である女の努力にはいつも感心していた。
彼女は研究意欲も高かった。遊んでばかりの兄の代わりに自分が頑張らなければ、ときっと思っていたんだと思う。兄の方は・・・まあ、出来のよすぎる妹を煩わしく思っていた部分はあったと思う。いつも邪険に扱っていたから。
それでも奏は気にしていなかった。彼女は、やる気のない兄に代わって白峰製薬を支える覚悟を持っていたし、多くの人がそうなると思っていた。
が、実際に次期跡取りの話し合いになった際に、先代の強い意向で跡取りは兄の方に決まった。
正直、今時古臭い考えだと誰もが思ったよ。
理由はいたって簡単で「白峰製薬グループの指揮は女にできるものではない」というだけのものだったから。
奏だって黙っちゃいなかった。
「私が女だからという理由でふさわしくないと?もし、私が男だったら!あの兄ではなく、私を選んでくださったのですか?!」
「ああ、そうだ。女だから駄目だ。子を成せば休まなければなさないその体で勤まるものではない。男がいるのだから男を優先する。」
先代の回答もいたって簡素なもので。でも、それは奏の努力ではどうにもならないものだった。努力ですべてを解決してきた彼女にとって、到底受け入れられるものではなかった。
奏はとうとう、兄に交渉しに行った。そうしてでしか、自分の気持ちを抑えておけなかったんだろう。
「出てってくれないか。やる気も能力もない兄貴にこの会社を支えていけるとは思えない。兄貴がいなくなれば、私が代わりにこの会社を支える」
「は?言ってくれんじゃん。譲るかよ。残念だったよなァ!女って努力しても意味ねぇんだな!!さっさと女としての喜びを知った方がいいぜ?」
もちろん、兄は奏の要求を受け入れるはずもなかった。それどころか、数人で奏を辱しめた、という噂さえあった。真偽は不明だが、そのあたりから奏は精神的におかしくなった。
奏の日記を僕はこっそり読んだことがある。そう、痛い悲鳴が、狂った課程が少し垣間見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんで、私は、女なんだろう。
なんて無意味な生き物。いっそ死のうか。
じゃあ、勝負しようぜ。――幻聴が聞こえる。
屋上の上に立ってさ、塩酸ぶっかけて、前に倒れたら、君の勝ち。
後ろに倒れたら、俺の勝ち。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕が、ある日、屋上で左目が塩酸でただれた奏を発見したのは、奏が書いた最後の日記の日。
大の字になって倒れながら、大声で笑っていた。狂気的に、笑っていた。
「奏っ!」慌てて僕が駆け付けたとき、彼女は言ったんだ。
「あ、守下。俺は勝ったぜ!!!」彼女は今まで、僕を涼平と名前で呼んでいたのに、守下と言った。一人称が俺に変わった。
「女は死んだ!!!!ははははははははははは!!!!」
戸惑う僕なんか見えていないかのように笑って叫んでいた。
この日、僕は奏が人ではなくなったように感じた。でも、思いのほか奏は普通だった。教師になる、と言って、以前と変わらず効率よく勉強をこなし、しっかりと採用試験に合格した。
案外、教師の仕事も意外とまともにこなしているようだった。
ただ、時々、おかしくなるだけ。
突然、女生徒を連れ込んで、研究したいと迫ったりする。
俺は、奏のそばにずっといたこともあり、奏の暴走を止める要員として、白峰製薬グループの極秘職員として高額の報酬を得て雇われている。常にそばにいて、奏が問題を起こさないよう、監視するのが俺の仕事。そのために、日々鍛錬も怠っていない――。
と話がひと段落したところで、
「じゃあ、今回ももっと早く止めてくださいよ・・・」と、目の前の少女がジトっとした目を向けてきた。
なぜ僕がこんなにも詳しいのかって?
僕・・・守下涼平は彼女の幼馴染であり、僕の父が白峰製薬の研究員の1人であることもあり、昔から内部の事情にはそれなりに通じているのだ。
学生のころから彼女は常に学年トップの成績を残していたし、それに見合う努力もしていた。僕はそばで見ていたから、同い年である女の努力にはいつも感心していた。
彼女は研究意欲も高かった。遊んでばかりの兄の代わりに自分が頑張らなければ、ときっと思っていたんだと思う。兄の方は・・・まあ、出来のよすぎる妹を煩わしく思っていた部分はあったと思う。いつも邪険に扱っていたから。
それでも奏は気にしていなかった。彼女は、やる気のない兄に代わって白峰製薬を支える覚悟を持っていたし、多くの人がそうなると思っていた。
が、実際に次期跡取りの話し合いになった際に、先代の強い意向で跡取りは兄の方に決まった。
正直、今時古臭い考えだと誰もが思ったよ。
理由はいたって簡単で「白峰製薬グループの指揮は女にできるものではない」というだけのものだったから。
奏だって黙っちゃいなかった。
「私が女だからという理由でふさわしくないと?もし、私が男だったら!あの兄ではなく、私を選んでくださったのですか?!」
「ああ、そうだ。女だから駄目だ。子を成せば休まなければなさないその体で勤まるものではない。男がいるのだから男を優先する。」
先代の回答もいたって簡素なもので。でも、それは奏の努力ではどうにもならないものだった。努力ですべてを解決してきた彼女にとって、到底受け入れられるものではなかった。
奏はとうとう、兄に交渉しに行った。そうしてでしか、自分の気持ちを抑えておけなかったんだろう。
「出てってくれないか。やる気も能力もない兄貴にこの会社を支えていけるとは思えない。兄貴がいなくなれば、私が代わりにこの会社を支える」
「は?言ってくれんじゃん。譲るかよ。残念だったよなァ!女って努力しても意味ねぇんだな!!さっさと女としての喜びを知った方がいいぜ?」
もちろん、兄は奏の要求を受け入れるはずもなかった。それどころか、数人で奏を辱しめた、という噂さえあった。真偽は不明だが、そのあたりから奏は精神的におかしくなった。
奏の日記を僕はこっそり読んだことがある。そう、痛い悲鳴が、狂った課程が少し垣間見えた。
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なんで、私は、女なんだろう。
なんて無意味な生き物。いっそ死のうか。
じゃあ、勝負しようぜ。――幻聴が聞こえる。
屋上の上に立ってさ、塩酸ぶっかけて、前に倒れたら、君の勝ち。
後ろに倒れたら、俺の勝ち。
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僕が、ある日、屋上で左目が塩酸でただれた奏を発見したのは、奏が書いた最後の日記の日。
大の字になって倒れながら、大声で笑っていた。狂気的に、笑っていた。
「奏っ!」慌てて僕が駆け付けたとき、彼女は言ったんだ。
「あ、守下。俺は勝ったぜ!!!」彼女は今まで、僕を涼平と名前で呼んでいたのに、守下と言った。一人称が俺に変わった。
「女は死んだ!!!!ははははははははははは!!!!」
戸惑う僕なんか見えていないかのように笑って叫んでいた。
この日、僕は奏が人ではなくなったように感じた。でも、思いのほか奏は普通だった。教師になる、と言って、以前と変わらず効率よく勉強をこなし、しっかりと採用試験に合格した。
案外、教師の仕事も意外とまともにこなしているようだった。
ただ、時々、おかしくなるだけ。
突然、女生徒を連れ込んで、研究したいと迫ったりする。
俺は、奏のそばにずっといたこともあり、奏の暴走を止める要員として、白峰製薬グループの極秘職員として高額の報酬を得て雇われている。常にそばにいて、奏が問題を起こさないよう、監視するのが俺の仕事。そのために、日々鍛錬も怠っていない――。
と話がひと段落したところで、
「じゃあ、今回ももっと早く止めてくださいよ・・・」と、目の前の少女がジトっとした目を向けてきた。
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