傭兵少女のクロニクル

なう

文字の大きさ
12 / 150

第12話 シウスとチャフ

しおりを挟む
「この子たちって何食べるんだろう?」
「まだ小さいから母乳?」
「母乳かぁ……、誰か母乳出る人いませんかぁ?」
「いるわけないでしょ、ナビー……」

 などと話し合いながら仔ヤギたちがよちよち歩くのを眺める。
 たまにコロンと転がって四本足を空に向けるのが非常にかわいらしい……。

「あ、草食べてる」
「ホントだ、もう食べれるんだ?」

 と、仔ヤギたちが広場の草をはむ。

「よかったぁ、これでエサの心配はしなくていいね」
「でも、この子たちって生後どのくらいなんだろ?」
「三ヶ月くらい?」

 口々に言い合う。

「なら、管理班、切れ味の確認だ」

 と、東園寺がロングソードを手にやってきた……。

「な、何をする気なの、公彦、や、やめてよ……」

 私は驚いて、仔ヤギたちを抱く。

「勘違いするな、こいつらのために柵を作ってやるんだ」

 と、管理班の6人はそれぞれ手にロングソードを持って森の中に入っていく。

「び、びっくりした……、てっきり殺されちゃうものかと……」
「そんなわけないだろ、ナビー。それより、名前を付けてやりなよ、キミが、ね?」

 和泉が笑って言う。

「な、名前か……」

 私は仔ヤギたちをじっと見つめる。
 草をはんではコロンと転がって空に足を向ける。
 そんな事を延々と繰り返している……。
 空を見てるのかな? 

「空かぁ……」

 私も空を見上げる。
 青い空とまばらな積雲……。
 今はないけど、この空には飛行機雲、ベイパーがよく似合いそう……。
 よし。

「えっとね、こっちの片方の耳の先が黒いほうがシウス、で、両耳が白いほうがチャフ、ってのはどうかな?」
「シウスとチャフか、いい名前だ、よかったな、おまえら」

 と、和泉がシウスとチャフの頭をなでる。

「めぇ……」
「めぇえ……」

 なんか、シウスとチャフの鳴き声が違うね。
 私はクスリと笑う。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 それから二日かかったけど、シウスとチャフのお家は無事に完成させる事ができた。
 とりあえず、牧柵と小屋を仔ヤギたちと一緒に見てまわろうかな。
 シウスとチャフは私のうしろをちょこちょこと一生懸命着いてくる。
 なんて、かわいいんだろう、自然と笑みがこぼれてしまう……。
 ゲートをキーっと押して入ってみる。
 牧柵は簡単なもの、一辺が10メートルくらいと、かなりコンパクトなもの。
 柵自体の高さは1メートルくらい、手で押してもびくともしない、しっかりと地面に打ち込まれている。
 小屋も簡素なもの。
 でも、屋根はちゃんと付いている。
 小屋の中にはわらのような枯れ草が敷き詰められていて、ご飯兼寝床って感じになっていた。

「ふかふかだね……」

 枯れ草の山を手で触ってみる。
 小屋自体の木の匂いと枯れ草の匂いが鼻をくすぐる……。

「めぇ!」
「めぇえ!」

 と、シウスもチャフも大喜びで枯れ草の上を転がりまわる。

「たった二日で造ったわりには、ちゃんとしてるよね」

 仔ヤギたちを見ながら感心してつぶやく。

「それぇ」

 と、私も一緒に枯れ草の山に飛び込む。
 すると、シウスとチャフが私のお腹の上に飛び乗ってくる。

「あ、やめて、くすぐったい!」

 なんか、じゃれてくる、かわいい。

「だ、だめ、そんなとこ舐めないで、汚いから!」

 もう、超楽しい、なんだ、これ。

「このぉ!」

 と、シウスとチャフに枯れ草をかけてやる。

「あ、反撃してきた!」

 仔ヤギがぶるぶるとして枯れ草を巻き散らかす。

「あははっ」

 なんか、枯れ草の匂いも心地いいし、すごく気分がいい……。

「ナビーフィユリナ」

 と、大の字に寝転がっていたら、東園寺が大きな箱を抱えて入ってきた。

「うん?」

 私は身体を起こして彼を見る。

「すまんが、そいつらにも仕事をしてもらうぞ」

 と、東園寺は大きな箱を下ろしながら言う。

「仕事?」
「そうだ、仕事だ」

 大きな箱の中身を指さす。
 見ると、沢山の野菜や山菜みたいな物が入っている。
 ああ、そうか……。

「毒見をしてもらう」

 まぁ、そうだよね、ちょうどいいよね……。

「もちろん、なんでも食わせる気は毛頭ない、明らかに毒だというものは入っていない、おそらく大丈夫だろう、だが、最後に念の為に毒見をしてもらう、そういう物だけだ」

 私の表情が翳ったのを見て彼が付け加える。

「うん、それは信用するよ……」
「すまんな」
「でも、ひとつ条件を出していい?」
「なんだ?」
「この子たちに食べさせるのは私、私から見て毒かどうかわからない物だけ食べさせる、他の人には勝手にやらせない。それが条件よ」
「もちろんだ、最初からそのつもりで持ってきた」
「ありがと、公彦」

 私は無理して笑顔をつくる。

「じゃぁ、置いていくぞ、おまえの好きなタイミングで食わせてやってくれ」

 と、東園寺が出て行く。
 残される私たち……。

「めぇ……」
「めぇえ……」

 シウスとチャフが私の手に鼻先をこすりつけてくる。

「大丈夫だよ、心配いらないよ、毒なんて入ってないからね」

 と、私は仔ヤギたちの頭を抱く。
 そして、立ち上がり、箱の前まで行き、しゃがんで中を覗き込む。
 うーん、普通の野菜だねぇ……。
 と、ひとつずつ手に取って眺める。
 でも、草、特にネギっぽいのは駄目だよね。
 ぽいっと投げ捨てる。
 あとは根菜だよね、じゃがいもっぽいのとかにんじんっぽいのがある……。

「というか、どう見てもにんじんとじゃがいもだよ、これ……」

 窓から差し込む光にかざして見る。

「めぇえ」
「うん?」

 と、見ると、チャフがさっき捨てたネギっぽい野菜をむしゃむしゃと食べていた……。

「ああ! それは駄目だよ、チャフ!」

 私は大慌てでじゃがいもとにんじんを放り投げて、チャフからネギっぽい野菜を取り上げる。

「だ、大丈夫!? 毒じゃないよね!?」
「めぇえ……」
「めぇ」

 シウスまで返事をした。
 見ると、シウスがさっき放り投げたにんじんをばりぼりと食べていた……。

「ああ!? だ、駄目だってば!!」

 私は大慌てでネギっぽい野菜を放り投げて、シウスからにんじを取り上げる。

「めぇ……」
「めぇえ」
「ああ!? チャフが箱に入って手当たり次第食べてる!!」

 ああああ!? どうしたらいいの!? 
 チャフが箱の中で食い散らかして、シウスが外に落ちてる物を食べてるし、私の手にはにんじんがあるし……。
 うん? 
 くんくん……。
 これ、やっぱりにんじんだよね? 
 シウスが食べた反対側を袖でごしごしと拭く。
 そして、食べてみる……。
 むしゃむしゃ……。

「うーん?」

 ばりぼり……。

「うーん……」

 ごくり。

「おいしい!」

 甘いにんじんって感じ、味はいちごに近いかもしれない! 

「めぇ!」
「めぇえ!」
「こらぁ! シウス、チャフ! そんなに食べないで!」

 こうして、にんじんの争奪戦がはじまった。

「がるるる!」

 私は四つんばいになって、頭でシウスとチャフを押しのける。

「めぇえ!」
「めぇ!」

 でも、シウスとチャフも抵抗してくる。

「あ、このネギっぽいのも食べれるよね?」

 チャフも食べてたし。
 袖でごしごしてからガリっと噛んでみる。

「うん、ネギだ……」
「めぇえ」

 と、チャフが私の反対側からネギを食べだした……。

「ああ! これは私の!」

 うん? こっちのじゃがいもっぽいのは、やっぱりじゃがいも? 
 くんくん。
 でも、なんか、泥だらけで食べる気にならない。

「ぽいっと」

 私はじゃがいもっぽいのを投げ捨てる。

「ナビー……」

 誰かの声がした。
 入り口のほうを見ると、そこには和泉と夏目が立っていた。
 そして、和泉が私の投げ捨てたじゃがいもを拾い上げる……。

「ナビーって、本当にかわいいらしい性格してるよね……」
「うん、無邪気って言っていいのか、天然って言っていいのかわからないけど……」

 なんか、二人が笑うのを我慢しているような複雑な表情をしている……。
 や、やばい、もしかして、見られていたの? 

「い、いつからそこに……?」

 自分でも顔が熱くなっていくのがわかる、もう耳まで熱い。

「結構前から……」
「うん、声をかけ辛くて……」

 ああ!? ち、違うの、そうじゃないから!! 
 私はただ、ナビーフィユリナと云う少女を演じていただけで、本当は最強の傭兵、パーフェクトソルジャー武地京哉なのよ!! 
 敵兵からは、発すれば雷神の如く、動けば風神の如く、戦う様は鬼神の如し、って、恐れられるほどのクールな男なのよ!! 
 戦場の魔神なんだから!! あら、かわいい戦場の魔神さんね、なんて、言わないでよ!! 
 勘違いしないでよね、超強いんだから!! 
 そう叫びそうになるのをぐっと堪える……。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

処理中です...