傭兵少女のクロニクル

なう

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第17話 お祭り

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 夜はすぐに訪れる。
 太陽は地平の彼方に沈み、それと同時に綺麗な星々が姿をあらわす。
 森は黒々しくそこに佇み、何か不気味な印象を私に与えていた。
 そんな森の中で唯一、光に溢れる場所がここラグナロク広場。

「いやぁ、これで脚気の心配もなくなるなぁ」
「運動量も多いし、ちゃんとお肉も食べないと脚気になるよねぇ」
「ビタミンB1欠乏症って、どこの江戸時代よ」

 と、楽しげな会話も聞えてくる。
 パチパチ、パチパチと薪の弾ける音と肉の焼ける香ばしい匂いが広場を満たす。

「ナビー、お皿を用意して、たぶん足りなくなると思うから」
「はぁい!」

 私たち、狩猟班や生活班の女子たちは忙しくBBQの準備に追われている。

「まだ気が早いかもしれないけど、お塩とかコショウの残りが心配になるよね」
「うん、そうだね、でも、もっとたくさんあるはずなんだよ、見つけてないだけで」
「そっかなぁ? 国際線ならまだしも、国内線でそんなに積んでるかなぁ?」

 それは微妙なところだけど、通常、塩とコショウは座席分用意しているのが普通だと思う。
 テーブルを見ると、塩とコショウのビンが20個くらいずつ置いてある。
 おそらく、この数倍はあるはず……。

「今度注意して見ておくか……」

 小さくつぶやく。

「よーし、それじゃぁ、切り分けるぞ、全員皿を持って並べ」

 と、焚き火のほうから東園寺の声がする。
 仕込みは生活班の女子たちでやったけど、実際に焼き上げる作業は管理班が行っていた。

「もういいみたい、行こ!」
「やったぁ、楽しみ!」
「ナビーも行こ!」

 私たちもお皿を持って焚き火のほうに駆けていく。
 焚き火の前では、すでに人だかりが出来ていて、みんなが皿を持って順番待ちをしていた。

「ああ……、出遅れたぁ……」
「私たちの分もあるよね……?」

 と、私たちも列の一番最後に並ぶ。

「大丈夫、大丈夫、あんなに食べ切れないよ」
「だ、だといいんだけど……」

 そんな話をしていると、すぐに私たちの順番がくる。
 猪の丸焼きは焚き火から引き上げられて、今は木の棒に吊るされていた。
 ちょうど、あれ、ケバブみたいな感じになっている。
 その丸焼きの前には、東園寺をはじめとした管理班の6人が立っており、手には切れ味鋭いロングソードが握られている。
 そのロングソードを使って、猪の丸焼きを削ぐようにして肉を切って、それぞれの皿に取り分けていく。

「わぁ、ありがとう」

 と、私は目を輝かせて、お肉の乗った皿を覗き込む。
 ちゃんと、仕込んでおいたネギや香菜もたっぷりと乗せてくれる。

「お祭りみたいだなぁ、どこで食べよっかなぁ……」

 意気揚々と手頃な場所を探す。

「ナビー、こっち、こっち!」

 と、和泉たちが大きく手を振っている。
 狩猟班のみんなもいるので、私もそっちに行ってみる。
 そして、夏目の隣に座り、お皿の内容を吟味する。
 まず、ネギいっぱい……。
 次に、香菜、ハーブっぽいやつ、これもいっぱい。
 そして、最後に香菜の下に隠れているお肉。
 薄くばら肉のように、スライスされたものが5枚ほど……。
 うーん、うーん……。
 脂身と焦げ目が絶妙で食欲をそそる……。
 とりあえず、お肉をひと口かじってみる。
 うっ……。
 脂っこいよ……。
 あと、味が薄くて、なんか生臭い……。
 でも、ちょっと生臭いけど、香菜と一緒に食べると、あら不思議、さっぱりとして、あとに引くようなジューシーさだけが残る。
 むしゃ、むしゃ、うま、うま……。

「ごはん欲しいな……」
「パンでもいいかも……」
「その前に焼肉のタレくれ……」

 と、和泉、秋葉、佐野が話している。
 うん、確かにね、味薄いよね……。
 私はポケットに入っていた小瓶を取り出して、お肉に振りかける……。
 そう、前に拾ったお塩だ。
 そして、ひと口かじる。
 おお! おいしさが十倍以上になった! 
 しょうがない、みんなのお肉にもお塩を振りかけてやろう。

「ハル、これこれ」

 と、まず、和泉のお肉に振りかける。

「ナビー? なにこれ?」
「いいから、いいから、食べてみて」

 と、笑顔で食べるように催促する。

「おお、すげぇ、うまい!」
「でしょ! 次々、蒼と獏人も!」

 私は大喜びでみんなのお肉にお塩を振りかけていく。

「いいねぇ!」
「本格的にごはんが欲しくなるね!」

 と、みんなも大喜び。

「ナビー、ちゃんと調理室に戻しておくのよ、調味料は貴重なんだから……」
「もう、ひらりも、口うるさいんだから、いいじゃん、おいしいんだから」

 雨宮の小言に笹雪がフォローしてくれる。

「しかし、今日は会心の出来だったよな、ハル?」
「ああ、そうだな、俺と蒼で獲物を追い込んで、佐野が待ち伏せしてとどめを刺す、これが一番いいのかもな」
「佐野の投槍も凄かったよな? ものすげぇ音がしたぜ、ぶぅおおおおぉ、ってよ」
「いやぁ、あれは人見さんに教えてもらった魔法のおかげだよ」

 と、和泉たちが狩の感想を言い合う。

「でも、出来すぎた感も否めないな、毎日あんな感じだといいんだけど」
「毎日は無理でも、特別な日、そうだな、誰かの誕生日とかそんな日に気合入れて狩るようにすればいいさ、今はな」
「誕生日か……、そういえば、ナビー、キミの誕生日はいつなの?」
「うん? 七月十日だよ」

 と、和泉が聞いて来たので思わず即答してしまう……。
 やばい、私は記憶喪失中って設定だったんだ……。
 というか、七月十日はナビーフィユリナの誕生日じゃなくて、武地京哉の誕生日だよ。

「七月十日? もう再来週じゃん?」

 うわっ、笹雪が話しに加わってきた。

「そうなんだ? 七月十日でいくつになるの? 11歳?」
「う、うん……、11歳だよ、翼……」

 ど、どうしよう、すごくまずい……。

「じゃぁさ、誕生会でもやろうぜ、すげぇの捕ってくるからさ、な、ハル?」
「そうだな、蒼、そうしよう、班長会議で提案しておくよ」

 えっと、旅客機に乗り込んだとき、何か身元を証明出来るもの持ってきてたっけ……。
 め、免許証? それが見つかったら、なんでハイジャック犯と同じ誕生日なんだよ、ってなって、さらに、ナビーフィユリナの本当の誕生日がわかって、やっぱりおまえかぁ!? ってなって、それで、みんなから拷問されて、そして、殺されちゃうんだ……。
 うわああああ!? 
 どど、ど、どうしよう!? 

「たた、た、誕生日なんて、どうでもいいよ、そ、それより、みんなのお誕生会やろう……?」

 私は激しく動揺しながら言う。

「高二にもなって恥ずかしいだろ、ナビーのだけでいいよ」
「そうそう、他は晩飯を豪華にするだけでいい」
 誕生会なんてやったら、武地京哉の誕生日がみんなの脳に刻みつけられてしまう!! 
「いやぁ、楽しみだなぁ、七月十日」
「七月十日かぁ、七月十日、七月十日、忘れないようにしないと……」

 そんなに武地京哉の誕生日を連呼しないで!! 
 私は思わず頭を抱える。

「全員、お疲れ、そのまま聞いてくれ」

 と、途方に暮れていると、そんな東園寺の声が聞こえてくる。

「我々がここに来てから一ヶ月が過ぎた。手探りの生活、悪戦苦闘の日々の中で、皆、本当によくやってくれた、心から礼を言う、ありがとう」

 彼が深々と頭を下げる。

「そして、これからの事だが……、いくら待てども救助は来ない、ここがどこだかもわからない、そもそもここが地球だという確証もない……、だから、救助隊は来ないものとする、これからは俺たちだけで生きていく。だが、誤解するな、帰る事を諦めたわけではない、ここに来られたのだから、帰る方法もあるはずだ、俺は必ずその方法を見つけ出す、全員が生きてまた日本の地を踏めるように全力を尽くす。だから、その日まで俺に力を貸してくれ、頼む」

 と、また彼は深々と頭を下げる。
 彼の赤い髪が焚き火の明かりに照らされて今はオレンジ色に見える。

「なに言ってんだよ、東園寺、あんたがいなかったら、今頃みんな死んでたよ」

 生活班の山本新一が口を開く。

「頼むもなにも、俺たちはあんたを信じて付いて行くしかないんだよ、そうだよな、みんな?」
「そうだ、そうだ、俺は東園寺を信じるぜ」
「人見くんも前に言ってたよね、お互いに協力しあうのが、生き残るための最善策って……」

 と、山本の言葉にみんなが口々に言い合う。
 なんて言うか、いいリーダーにいい部下だよね……、と、しみじみ考えながら、たっぷりのハーブと一緒にお肉を頬張る。
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