傭兵少女のクロニクル

なう

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第21話 覚悟を

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 あの現地人の襲撃から何事もなく三日が過ぎた。
 幸いシウスの怪我も大した事なく、今も元気に草をはんでいる。

「めぇ!」
「めぇえ!」

 と、チャフと一緒に草を食べては、ごろんと転がって空に足を向ける。

「めぇええええ!!」

 私も真似をして、草の上に寝転がって空を見上げる。
 真っ青な空と、ふわふわとしたまばらな雲……。

「いつも天気いいよね、ここ……」

 ぱらぱらと降ることはあっても、まとまった雨は今まで一度もなかった。
 私は顔の横にある、小さなお花、鈴のような形をした白いお花を一輪摘む。
 それを口の上、鼻の下あたりに置く。

「すー、はー、すー、はー……、いい匂い……、本当に平和だねぇ……」

 ぼんやりと空を流れるわた雲を眺める。

「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」

 シウスたちがじゃれてくる。

「もう、こらぁ」

 と、私は横にローリングしならが彼らの攻撃を避ける。

「ぴよぉ! ぴよぉ!」

 すると、アルフレッドが先回りして、ぱたぱたと私の顔に乗ってくる。

「こ、こらぁ!」

 手でガード。

「もう、怒ったぞ! これでどうだ!」

 両腕を伸ばして、連続ローリング! 

「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」

 ぎゃぁ! みんな追っかけてくる! 加速!! 
 ぐるぐる、ぐるぐる、と牧柵の中を何周もする。

「きゃぁあああ、目が回るぅ」

 もう超楽しい! 

「レージス、光を閉ざした虚無の剣、弾けて砕け、剣気破弾ディバロマ!!」

 と、遊んでいたら、牧柵のむからそんなかけ声が聞えてきた。

「アスシオン、煌く光、花より美しく、風を纏え、希釈の風剣バビロンイシル!!」

 見ると、管理班の6人が剣の稽古をしていた。
 ガキン、ガキン、とかやってる。
 私はうつぶせのまま、一番下の横棒に顎を乗せて、その様子を見守る。
 現地人の襲来以来剣の稽古に熱心なんだよね。

「うおおおお!!」

 東園寺がその大きなロングソードを振り下ろす。

「はぁ!!」

 それを鷹丸が受け流す。

「甘い!!」

 と、東園寺が受け流された剣の柄で鷹丸の胸を突く。

「うお!?」

 鷹丸が数歩よろける。
 そんな感じで稽古が続く……。

「いい事なんだか、悪い事なんだか……」

 私は口の中でつぶやく。

「一番はやっぱり東園寺だね……、体格もそうだけど、筋力が他とは全然違う。次いで、その彼の相手をしている鷹丸ってところかな……」

 東園寺に勝つ自信は今の私にはない……、鷹丸もやってみないとわからない……、他は、まぁ、余裕だろうけど……。
 でも、その東園寺にしても実戦になれば、対抗策はいくらでもある、生き残るのは容易だと思う……。
 問題はあいつら……。
 私は立ち上がって、牧柵の反対側に行く。

「それじゃぁ、投げるよ!!」

 狩猟班の佐野が木の板を振っている。

「おお、出来るだけ高く投げてくれ!」
「今度は負けないぜ、ハル!」

 佐野から50メートルほど離れた場所に和泉と秋葉がいる。
 二人は弓を構えている。

「いくよ!!」

 と、佐野がブーメランの要領で木の板を空高く放り投げる。
 木の板は高く、高く舞い上がる……。

「勝負だ、ハル」
「おう、蒼」

 と、秋葉が先に矢を放ち、続いてすぐに和泉が矢を放つ。
 どうやら、早撃ちの勝負しているようだった。
 秋葉の矢はまっすぐに木の板目掛けて飛んで行く。
 しかし、和泉の矢は上ではなく、平行に地面の草をかすめるように飛んで行く……。

「お、ハル、ミスったか!?」
「いや、狙い通りだよ、蒼……」
「よーし! いったぁ、ど真ん中だ!!」

 秋葉の矢は正確に木の板目掛けて突き進む。

「ハザード」

 和泉がなんか、二本指を立てて、下からくんってやる。
 すると、地面すれすれを飛んでいた彼の矢が急上昇に転じる……。
 そして、秋葉の矢が木の板に命中する直前で下から縁に突き刺さり、そのまま木の板を空高く舞い上がらせる。
 秋葉の矢はその下を通過していく……。
 ちょっと、待って、なんだ、これ、でたらめすぎるでしょ……。

「くっそぉ!! その手があったかぁ!!」
「ははは……、惜しかったな、蒼……」

 和泉が爽やかに笑う……。
 もう、駄目だ、こいつやばい、マジでやばい……。
 こいつにハイジャック犯だってばれたら、一瞬で蜂の巣にされる、逃げる時間すらない……。
 私は両腕を抱いて、ぷるぷると震える。

「ナビー、おいでぇ、みんな待ってるよぉ」

 と、夏目に声をかけられる。
 そうだった、今から女子だけの会議だった……。

「はぁい!」

 と、元気よく返事をして駆け出す。

「シウス、チャフ、ピップ、スカーク、アルフレッド、またね!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」

 彼らの元気のよい鳴き声に送られて牧柵をあとにする。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そこはロッジが立ち並ぶ居住区から少し離れた場所。
 そこに女子たち、15人が全員集合している。

「それじゃ、いきましょうか……」

 と、綾原がそう言い歩きだす。
 私たちも無言でそのあとに続く。
 スロープ状になっている坂を下っていく。
 10メートルほど下っていくと木製の扉が現れる。
 そう、ここは地下室、現地人の襲撃の翌日から急ピッチで作った避難所だ。

「入りましょう……」

 キィイ、と音を立てて扉が開く、
 中は薄暗く非常に簡素なもの、5メートル四方くらいだろうか……、壁や天井は柱で補強されているだけで、ほとんどの箇所は土が剥き出しになっていた。
 ちょうど、炭鉱のトンネルみたいな感じ。
 床も木の板が敷いてあるだけで、なんかぶよぶよしている……。

「ここは女子専用になります」

 みんなが室内に入ったのを確認してから綾原が口を開く。

「急いで作ったから適当だけどね」

 徳永が自嘲気味に笑いながら、剥き出しの土壁を触りながら言う。

「基本的にここには物は置きません、最低限の水だけ用意しておきます」

 綾原が説明をはじめる。

「誤解しないでね、現地人が攻めて来ても、ここに立て篭もるつもりはないから……」

 みんなが暗い顔をしてうつむく。
 その表情を見て察する。
 ああ、そうか、そういう事か……。

「ここに来るのは男子たちが全滅した時だけ、彼らが全滅したら、私たちも長くは生きられない、立て篭もっても意味ないから……」

 徳永たち、女性班の3人が箱に入った木の棒をみんなに見せる。
 木の棒は先が鋭く削ってあって杭のようになっている。

「刃物は貴重だから、ここに置いておくのはこれ……」

 箱の中には徳永が持つのと同じような杭が何本も入っている。

「扉を閉めても、そう長くは持たないと思うから、ここに来る事が決まったら、その時点で覚悟を決めてね」

 ここは女子たちの自害用の地下室……。

「了解……、ここに来る事のないよう祈るよ……」
「そうね……、でも、ここがあったら、ちょっと安心出来るかも……」
「うん、いいね、いいアイデアだよ……」
「私たちは運命共同体だからね、男子たちがみんな死んだら、私たちも一緒に行かないとね……」

 悲壮感が漂う。

「こう立てて、上から乗るように喉を突く、希釈の風剣バビロンイシルを入れておくと、楽に逝けると思います……」

 綾原が使い方の説明をして、それをみんなが真剣に聞いている。
 なんとなく、胸が張り裂けそうになる……。
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