傭兵少女のクロニクル

なう

文字の大きさ
66 / 150

第66話 フィユたん

しおりを挟む
 何メートル転がり落ちただろう。
 2、30メートルといったところだろうか……。

「いたーい」

 じゃらじゃらと丸っこい砂利の中で身体を起こす。

「なんなのここは、いったい……」

 と、私は肘や膝などについた細かな砂利を払い落としながら辺りを見渡す。
 そこは薄暗いけど、暗闇というほどではなかった。
 グレーの砂利が敷き詰められた空間、トンネル……。

「ではない」

 空を覆っているのは広葉樹の若木たち、それが日の光を遮ってトンネルのような感じになっていた。

「騙された」

 そう、騙された。
 そこには生えていたのは普通の広葉樹ではない。
 剥き出しの根、その根が高く伸び、地上まで届き、そして、地上からは普通の幹となり枝を伸ばす。

「普通に木が生えていると思ったら、実は下が空洞になっていたのね……」

 たぶん、あれ、地面がもろくて、雨などの浸食で崩れていって出来上がった空間だと思う。

「ナビー!!」
「大丈夫か、返事をしろ、ナビー!!」

 と、上からみんなの声が聞こえてくる。

「みんなぁ!!」

 私は上を見上げながら返事をする。

「お、怪我はなかったか、ナビー!?」
「大丈夫だよぉ、ちょっと、肘とか膝を擦りむいただけぇ!!」
「よかった、今助けにいくからな!!」

 と、みんなが下に降りようとしているのか、勢いよく砂利が崩れ落ちてきた。

「きゃっ!?」

 私は崩れてくる砂利を回避しようと、数歩あとずさる。

「崩れるな、降りたら登れなくなるんじゃないのか?」
「ああ、ちょっと危ないな、佐野、ロープを持ってきてくれ」
「うい」

 と、みんなが話している。

「ナビー、大丈夫だよね、危ない事ないよね!?」
「助けに行くまで時間かかるかもしれないから、安全なところで休んでて!!」
「うん、わかったぁ!!」

 返事を返して、さらに数歩さがる。

「うーん?」

 数歩さがると、足元に何か落ちている事に気付く。

「うーん……?」

 目を凝らしてそれを見る……。

「写真……?」

 そう、写真のようなものが落ちていた。
 私はしゃがんでそれを見る。

「うーん……?」

 そして、それを人差し指と親指でつまんで拾い上げ、目線の位置まで持ってくる。

「うそ……」

 それを見た瞬間凍りつく。
 その写真に写っていたのは私……、ナビーフィユリナ・ファラウェイ……。

「なに、これ……?」

 そこには大きなケーキの前に嬉しそうな顔で座っている私が写し出されていた。

「フィユたん……?」

 ケーキにはそう書かれている……。

「あ……」

 フィユたん……、フィユリナ……、私の事か……。
 思い出した。
 あの私が最初に身につけていた名札。
 そこにはナビーフィユリナ・ファラウェイって書いてあったけど、なんか窮屈な書き方だった。
 あれは最初にフィユリナ・ファラウェイって書いて、そのあとにナビーって上に書き足したから、あんなに窮屈な形になったんだ。

「私の名前はナビーじゃない、フィユリナ・ファラウェイが正式な名前なんだ……」

 じゃぁ、ナビーって、どういう意味……? 

「なんて、疑問はどうでもいい!」

 問題は名前なんかじゃない!
 
「この身体って、別の持ち主がいたの!?」

 って、こと! 
 いや、まぁ、最初はそうかなぁ、と思ったりもしたけど、よくよく考えると、魂だけ入れ替わる事なんてないよ、なんか、違う世界に転移した影響で、武地京哉の身体が変異して、ナビーフィユリナの身体になったんだって思うようになっていた。
 そう、この身体は武地京哉で、見た目が違うだけなんだって……。
 だけど、こうして、私の身体の過去の写真が出てきて、ハンマーで殴られたかのような衝撃を受けている……。

「誰なんだよ、このフィユたんって……」

 写真の中で無邪気に笑う私を見てつぶやく。

「うん?」

 なんか、よく見ると、この写真だけではなく、そこら辺に色々な荷物が散乱しているぞ? 

「ノート?」

 その一つを拾ってみる。
 それはうさぎのイラストが描かれた小さなメモ帳……。

「フィユたん……」

 名前の欄にはそう書かれている……。

「何者なんだ、フィユたんって……」

 さらに、よく見ると、衣類なども落ちている。

「サイズ的に私のものだ……」

 一つひとつ手に取ってサイズを確かめていく。

「なんで、私の物がこんなにまとまって落ちているのよ……、あ……」

 その謎はすぐに解ける。
 剥き出しの広葉樹の根っこのところに赤いアタッシュケースが引っかかっていて、それが開いていて中身を全部ぶちまけていた。

「ふぅ……」

 これ全部私のか……。

「ちょっと冷静になろう……」

 額に手を当て目を瞑る。
 これがみんなに見つかったらどうなる? 
 心配事はそれ。
 たぶん、身分証とか全部ある。
 私……、違う、この身体の持ち主、フィユリナ・ファラウェイがどこの誰かってすべてわかっちゃう……。
 でも、私は記憶喪失って設定なんだから、それはそれで別に構わないはず……。

「駄目だ、何か見落としがあるかもしれない……」

 憶えてないけど、この二ヶ月ちょっと、みんなと色々な話をした、そこから、整合性の取れない話が出てきて、それをきっかけとして、私がハイジャック犯の武地京哉だってばれてしまう可能性だってある。

「もっと冷静になれよ、パーフェクトソルジャー……」

 これはチャンスだろ。

「よし」

 私は目を開ける。
 そして、駆け出して元の場所に戻り、

「みんなぁ! ここは危ないよ、砂利が崩れて、もっと下のほうまで落ちそうになっているよ!!」

 と、デタラメな事を叫ぶ。

「え、マジ!?」
「ナビーは大丈夫なの!?」
「危ないから下がっていろ、ナビー!!」
「うん、逃げるね!!」

 さらに、奥のほうに走っていく。

「みんなぁ! 安全に降りられそうなとこ探すね!!」

 と、どんどん奥のほうに走っていく。

「みんなぁ、こっちだよぉ!!」

 奥のほうでみんなを呼ぶ。

「どっちだ!?」
「どこ、ナビー!?」
「ここだよぉ!!」
「ここか!?」

 と、さっきの場所よりも坂が急で岳も高い場所にみんなを誘導する。

「ここだったら、砂利も少なくて地面も固いから安全だよ!!」
「わかった、ロープを継ぎ足して、なんとか下まで降りてみる!!」
「また砂利が崩れるかもしれない、ナビーは危ないから下がっていろ!!」
「うん、お願いね!!」

 よし、これで時間は稼げた。
 私は方向転換して、荷物が散乱していた場所に向かって全速力で駆けていく。

「とおりゃぁ!」

 と、そのままおもいっきりジャンプして、木にひっかかっているアタッシュケースを掴んで回収する。

「よし!」

 それを放り投げて、次は地面に散乱している荷物類の回収をはじめる。
 衣類、タオル類、お風呂セット……、それらをアタッシュケースのほうに掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返す。

「おお、下着もある」

 と、それを手に取って広げてみる。

「うーん……」

 赤いリボンのついた白いやつ。
 正直、下着が全然なくて困ってたんだよねぇ……。
 でも……。

「気持ち悪い」

 下着をぐるぐる回して、ブーメランのようにアタッシュケースのほうに投げる。
 気持ち悪いよね、他人のはいたパンツなんて。
 例え、この身体が以前に使っていたものであったとしても、なんか、気持ち悪い。

「タオルくらいなら……」

 と、くまのイラストが描かれたバスタオルを広げてみるけど……。

「フィユたん」

 しっかり、そう刺繍で入っている……。
 まるめて、ぽい! 

「よし、これで最後っと!」

 コスメセットが入った小さなポーチを投げて回収を終える。

「次は!」

 と、アタッシュケースのところに戻って、穴を掘り出す。
 砂利の地面はもろく掘りやすい。
 魔法、ゴッドハンドで手を保護しているからだろうけど、サクサク掘り進んでいける。

「それにしても……」

 横目でさっきの写真をちらりと見る。

「いい笑顔だけど、なんか、私じゃないみたい……」

 普段、鏡で見る私とは全然違う。
 表情の作り方が違う。
 なにより、目が笑ってない、無理にほっぺとか使って笑わせている感じ。
 こんなんじゃ、かわいくない。
 なんにもわかってないよ、この子は……。

「かわいいとはなんぞや? って、問い詰めたい……」

 自然な笑顔、内面から湧き出るような笑顔が大切なのよ。

「そう、こんな感じ」

 と、笑顔を作ってみせる。
 楽しそう、それを全面に押し出しつつ、隠し味で幸せそうをプラスする、その幸せそうの加減がポイントなのよ。

「ふっ、あなたとはレベルが違うのよ、フィユたん……」

 なんて事を考えている間に穴掘り完了! 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

処理中です...