傭兵少女のクロニクル

なう

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第121話 反撃

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 生き残るための協力。
 それを、あのシェイカー・グリウムが提案する。

「戦える者は剣を取り立ち向かえ、その際、ひとりでは行くな、周りの人間と協力しろ! 帝国軍だろうと、民兵だろうと関係なくな!!」
「「「おおおお!」」」

 賛同した者は少ないけど、それでも、組織だっての応戦が始まろうとしている。

「戦えない者は負傷者の救助だ、倒れている者を救え! これはさっきと同じように人間なら全員だ、帝国軍だろうなとなんだろうと関係ない! ひとりでも多くの人命を救え!!」
「「「おおおお!」」」

 これには先程よりも多くの賛同が得られる。
 救命のための停戦……、古来より数多く行われてきたことだ……。

「ふざけるな、反乱軍風情がぁ!? こいつらは逆賊ぞ、話を聞くことなどない、そもそも、こいつらが攻めて来なければ、こんなことにはならなかった、すべての元凶はこいつらだ、帝国騎士団よ、逆賊共を殲滅せよ、ひとりたりとも逃がしてはならん、それが先帝陛下のご命令だ!!」

 と、今度は、帝国軍の指揮官が叫ぶ。

「ど、どっちの指示に従えば……」
「とりあえず、怪我人の救助を……」
「いや、反乱軍の討伐が先帝陛下のご命令では……?」

 兵士たちが迷いだす。

「きっさまぁあああ!!」

 と、シェイカー・グリウムがツカツカとその指揮官の元に歩いていく。

「貴様こそなんだぁ!?」

 指揮官が剣を抜こうとする。

「どらぁあああああ!!」

 シェイカー・グリウムがその指揮官を一撃の下に斬り捨てる。

「我々は誇り高き帝国騎士団だぁ! 貴様らはどこまでそれに泥を塗るつもりだぁ!? 遊びふざけでなんの落ち度もない弱き者たちを虐殺し、そのささやかな幸せまでも奪う、そんなくそったれな先帝の命令を聞きおって……、恥ずかし過ぎて、顔から火が出るわぁああ! 帝国騎士の誇りはどうしたぁあ!? 貴様らが立ち向かうべきは、武器を持たない民ではなかろう、あの化け物共だろうがぁああ!?」

 と、ガルディック・バビロンを指差す。

「我々は誇り高き帝国騎士……」
「長らく忘れていました……」
「どうか、ご命令を、上級騎士……」
「我々に死ねとご命じ下さい……」

 次々と帝国兵たちがシェイカー・グリウムに向かい、ひざまずいていく。

「死ぬな、生き抜け、そして、帝国のために、民のために働け」
「「「ははぁ!!」」」

 と、兵士たちが大きな声で返事をする。

「では、行くぞ、倒すぞ、化け物!!」
「「「おおおおお!!」」」

 そのかけ声で全員が抜刀する。
 良い指揮官に率いられた軍隊は士気が高いね……。
 昔から、有能な指揮官に率いられた弱兵と無能な指揮官に率いられた強兵ではどちらが強いか? という論争があるけど、私は前者、有能な指揮官に率いられた弱兵のほうが圧倒的に強いと思っている。

「指揮官が兵士の強さを決める」

 私の持論だ。

「「「うおおおおおお!!」」」

 兵士たちがガルディック・バビロンの群れに突撃していく。

「単独で行くな、あいつらは強い、チームで動け、サポートを忘れるな、人間同士で協力しろ!!」

 シェイカー・グリウムの指揮の下、兵士たちが組織的な戦闘を繰り広げる。

「あぎゃあああああ!!」
「うがああああああ!!」

 それでも、ひとり、またひとりとガルディック・バビロンの餌食になっていく……。
 見ていると、やつら虫の反応速度が桁違いで、攻撃と防御の逆転現象が起きている。
 例えるなら、虫が先によけ、兵士があとから攻撃の動作を始めるといった感じだ。
 それは虫が予測して動いているからそうなるわけではなく、私たちの認知、それよりも速く行動しているから、結果的にそう見えてしまうだけ、実際は見てから行動している。

「倒せない、あれは普通の人間では倒せない……」

 そう思ってしまう……。

「怯むなぁ!! 声を出せ、雄叫びを上げろぉお!! 俺たちは帝国騎士だ、何者も恐れたりはしない!!」

 シェイカー・グリウムが必死に兵士たちを鼓舞する。

「東園寺、戦おう、俺たちも加勢しよう、そうすれば勝てるかもしれない」
「待て、それは許可出来ない、人見、あとどのくらいだ?」
「リータ、フテリ、メルィル……」

 集中しているのか、その言葉は人見の耳には届かない。

「くっ……」

 東園寺が顔をしかめる。
 その彼の隣からひゅん、ひゅん、という音が聞えてくる。

「これなら文句ないだろ?」

 秋葉が矢を放つ。

「きゅぴろぴろー」
「うごろぷろー」

 その矢は的確にガルディック・バビロンの目などの急所を貫く。

「やめろ、秋葉、こちらの存在に気付かれる!」
「いぴろー」
「こぴろー」

 もう遅い、複数のガルディック・バビロンが頭を風車のようにぐるぐる回して私たちを確認しようとしている。

「く、くそっ……」
「公彦、打って出るよ」

 私はドラゴン・プレッシャーを構える。

「駄目だ、許さん、ナビーフィユリナ、防御を固める」

 尚もそう言い放つ。

「公彦……、あなたの判断はいつも正しい……、私たちはいつもその判断に助けられてきた……、だから、その判断も、たぶん正しいんだと思うよ……」

 優しく諭すように言ってあげる。

「でもね、それでもね、やらなければならない時がある、孫子曰く、勝つべからざる者は守なり。勝つべき者は攻なり……。勝てる見込みが少しでもあったら迷わず攻めろって意味、今がその時なのよ」

 ゆっくりと一歩目を踏み出す。

「ハル、蒼、獏人、私のあとに続け」

 そして、二歩目。

「ナビー……」
「お、おい……」
「ナビー、かっけぇええ、俺はナビーについていく! みんなは知らないだろうけど、ナビーって実は超強いんだぞ!」

 なぜか、佐野だけが大盛り上がり。
 ちょっと笑ってしまった。
 よし。

「ゆくぞ」

 私は建物の陰から、先頭を切って飛び出していく。

「うおおおお!!」
「ナビー!」
「マジかよ!?」

 そのあとを三人が続く。

「いぴろー」
「こぴろー」

 巨大な虫が顔を風車のようにぐるぐる回して私を見ようとしている。

「複眼の弊害だよなぁ、害虫、見えないんだよなぁ、正面から真っ直ぐ向かってくる相手はなぁ」

 複眼は前後左右に揺らすことによって、その像を捉える。
 止まっている相手は見えにくく、また動いていても、正面、真っ直ぐだと、止まっているように見えて捉えづらい。

「いぴろー」
「じゃぁな、害虫!」

 私が見えていない、ガルディック・バビロンをドラゴン・プレッシャーで一刀両断する。

「まず、一匹!」
「こぴろー」

 隣の虫が私を認識した、でも、

「おせぇんだよ!」

 やつが気付いた時には大剣は横に払われ、その胴体を真っ二つにしていた。

「二匹目! 次!」

 一度足を止めて周囲を確認する。

「動きを止めているやつ、人間を食っているやつから狙え、仲間が命を懸けて、その動きを止めてくれているのだ、それを無駄にするな!!」

 指示を出すシャイカー・グリウムの背後から一匹のガルディック・バビロンが迫る。
 私は少し外に膨らむ形で彼の元へ走っていく。
 位置の調整。
 これで、シャイカー・グリウムへ向かう虫と私、この二つがちょうど直角になった。
 シャイカー・グリウムに向かう私から見て、虫は直角、横から向かってくるような感じになっている。
 速度も虫と合わせる……。

「コリジョンコース現象」

 このコースに入ると、私は風景と同化し、相手の視界から消える。
 もう、あの害虫共とまともに戦う気なんてねぇんだよ……。
 反応速度では勝てない……。
 なら、人間が数千年かけて獲得した知識、スキルで戦うしかない。

「とぴろー」

 見えねぇだろ、害虫。
「5人、10人でチームを組め、誘い役、盾役、攻撃役を決めろ、協力して戦え!」

 と、彼は虫が背後から迫っていることに気付かず指示を出し続ける。

「こぴろー」
「たぁ!」

 シェイカー・グリウムの襲いかかる虫、そして、その虫に斬りかかる私、その二つの声が重なる。

「む?」

 そこで初めて彼がその存在に気付く。
 気付いた時にはガルディック・バビロンは真っ二つ、地面でぴくぴくと痙攣している。

「よお、シェイカー・グリウムさん、元気だったかい?」
「こ、小娘!?」

 彼が私の顔をまじまじと見る。

「油断するなよ、隊長さん」
「お、おう」

 と、シェイカー・グリウムが思い出したかのように剣を構える。
 お互い背中合わせで剣を構える。

「いい、演説だったよ、隊長さん、あんた、将来良い将軍様になるよ、私が保証する」

 背中の彼に話しかける。

「はははは、随分素直じゃないか、惚れ直したか、小娘? いいぞ、俺様の嫁にしてやる、一生安泰だぞ?」

 と、笑いながら言う。

「お断りだ、バーカ」

 と、言い返してやる。

「それで、何か策はあるのか? それを言いに来たのだろう? 我々はどうすればいい?」

 今度は真面目な口調で言う。

「さすが話が早い、あんた、ホント良い将軍様になるよ」

 正面を見据えて少し笑う。
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