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第125話 クロスフォー
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私たち、セイレイを含めた7人は各村の村長や村民たちと一緒に捕虜の救出に向かう。
カツカツと石畳の階段を叩く軍靴の音が壁に反響する。
「暗いから気を付けろよ、ナビー」
うしろから秋葉に注意される。
「うん」
等間隔に松明が設置はされているが、それでも階段や通路は薄暗く、また、足元も非常に見え辛かった。
「おーい! 誰かいないかぁ!?」
「助けに来たぞぉ!」
「いるなら返事をしろぉ!」
と、村長や村民たちが大声を出しながら各部屋の扉を開けて中に誰かいないか確認する。
「誰もいない」
「ここじゃないのか?」
「じゃぁ、どこに?」
「地下でなんかやってるって話じゃなかったか?」
と、ひとしきり、各部屋を見て回ったあとに話す。
「くそぉ! みんなはどこだぁ!?」
「落ち着け、どこかに奥に行ける通路がないか探せ」
「「「おお!」」」
と、村民たちが散っていく。
ぴちゃん、ぴちゃん、と水滴が落ちる音がやけに大きく聞こえる。
「ねぇ、セイレイ、あなたが捕らえられていた場所ってどこだっけ? あなた以外にも大勢の人が捕らえられていたよね?」
「あそこは剣闘士専用の独房です、ファラウェイ様が期待されているような方々の投獄は考えられません……」
私の質問にセイレイがそう答える。
「そっか……」
人道的に剣闘士たちも助けたほうがいいよな……。
いずれ、火の手が回り、このリープトヘルム砦は焼け落ちる。
焼死は苦しいからね、助けられるのなら助けたほうがいい。
「投獄されてる剣闘士たちも助けよう」
私は東園寺に提案する。
「剣闘士……?」
彼は怪訝そうな表情を見せる。
「通路があったぞぉ!」
「ここから下に行けるぞぉ!」
その時、そんな大声が通路に響く。
「おお、あったか!」
「やはり、もっと下の階に捕らえられているのか!」
と、大勢の村民たちが大声のしたほうに駆けていく。
「話はあとだ、ナビーフィユリナ、俺たちも行くぞ」
「あ、う、うん……」
と、私たちもそのあとを追う。
下へと続く階段はそれなりの広さはあるけど、それまでの通路や階段と違い、壁に松明が設置されておらず、暗闇に包まれていた。
「よし、火を持ってきたぞ!」
と、村民の一人が木の棒に火を点けただけの物を持ってくる。
「いくぞ!」
そして、その人を先頭に階段を駆け下っていく。
階段はまっすぐではなく、曲がりくねり、非常に見通しの悪い造りになっていた。
また、天井も高く、その天井付近には排水溝らしき横穴も多数確認できた。
「嫌な感じ……、人ひとりくらい這って通れそう……」
その横穴を見ながらつぶやく。
それにしても、長い……。
何メートル駆け下っただろう……、5階分……、いや、もっとだろうか……、底が見えない……。
「暗い! ちょっと待ってくれ!」
「何も見えん、先頭止まれ!」
「それかもう一つ松明を持ってきてくれ!」
私たちの、さらにうしろの村民たちからそんな声が上がる。
そう、持ってきた松明は先頭の一つだけ、集団の中央付近にいると思われる私たちでさえ、その明かりをかろうじて視認できる程度になっていた。
うしろを振り返ると、そこはもう暗闇……。
ぞっとする……。
そして……、
「あっぎゃああああああ!!」
という絶叫と共に、松明の明かりは消え、周囲が暗闇に包まれる。
「な、何があった!?」
「暗い、暗い!」
「あ、明かり、明かりをくれぇ!!」
一気にパニックになる。
「ぎゃああああああ!!」
「おげああああああ!!」
「た、助けて、助けてぇえええ!!」
そして、先頭のほうからは悲鳴や怒号が飛び交う。
「逃げろ、逃げろぉ!!」
「全員、退避、退避ぃい!!」
「どけろ、どけろぉお!!」
下から大勢の村民たちが駆け上がってくる。
「ナビーフィユリナ、壁に寄れ、他も人波に飲まれるなよ」
「うい」
「おう」
私は東園寺に手を引かれ壁際に連れて行かれる。
「怖い、怖い、怖い!」
「誰か、助けてぇ!」
「なんか、いる、なんか、いるぅうう!」
と、そんな叫び声を上げて我先にと階段を駆け上がっていく村民たちをやり過ごす。
やがて、村民たちはいなくなり、私たちが先頭で取り残される。
「あれぇ……、誰かと思ったら、皆殺しのジョルカじゃないの、どうしたの、おまえ?」
階段の下、暗闇の奥からそんな声が聞こえてきた。
「なんか、無様に負けて、先帝陛下からご不興を買ったとか聞いたけど」
「その負け犬がなんでこんなところにいるんだよ?」
「上、騒がしいけど、なに、叛乱か何か?」
「もしかして、おまえの仕業? 皆殺しのジョルカさん? 裏切っちゃった?」
一人ではなく、複数の声が聞こえてくる。
会話の内容からすると、セイレイと同じ、剣闘士の連中だろうか……。
「無視すんなよ、皆殺しのジョルカさんよぉ、一緒に大勢の罪のない村人たちを殺した仲じゃないかぁ……」
「あ、おまえが強いのは、武器を持たない女子供にだけだったな、ぎゃはははは!」
返事をしないセイレイに嘲笑を浴びせかける。
「なんと言っているんだ、ナビーフィユリナ?」
現地の言葉がわからない東園寺が尋ねてくる。
「真意はわからない……、でも、敵意のある言葉だよ、あれ……」
と、だけ答える。
「そうか……」
カチャリ、と、東園寺が剣の柄を握り、鯉口をきる音が響く。
「おお? やるのか、やっちゃうのかぁ?」
「俺たちと? おまえらが?」
「逃げろよ、つまんねぇから、ぎゃははははは!」
やつらが嘲笑う。
「そっちは……、ひー、ふー、みー……、7人か!」
「奇遇だな、こっちと同じじゃねぇか!」
「団体戦やろうぜ、ぎゃははははは!」
カチャリ、カチャリ、と、暗闇の奥からもそんな音が聞えてくる。
おそらく、武器に手をかけた。
「みんな、やるみたいだよ……」
私は和泉たちにそう告げる。
「ああ、殺気でわかる……」
「いつでもいいぜ……」
と、みんなも武器を構える。
「それにしても真っ暗だな、なにも見えん……」
人見がポツリと言う。
「そうね……」
私はそう言い、ドラゴン・プレッシャーを石畳の階段に向かってマッチの要領で横に払う。
すると、バチバチバチ、という音を立てて火花が散る。
「お?」
「う?」
「なんだ?」
火花に照らされ、やつら、剣闘士たちの姿が一瞬だけ見えた。
「全員、揃いも揃って黒装束かよ……」
やつらの姿を確認してクスリと笑う。
「それじゃ、ぶっ倒すよ」
私はドラゴン・プレッシャーを振り上げ、やつら、剣闘士の一団に向かって斬り込む。
「来たぞ、ぶっ殺せぇ!」
「団体戦だ、シフト行くぞぉ!」
「シールドバッシュ!」
それに呼応して、剣闘士たちも慌しく動く。
でも……、
「もう遅いんだよ」
私の振り上げたドラゴン・プレッシャーがガリガリガリと音を立てて天井を削り、火花を散せる。
「また、火花か?」
「い、いや、待て……」
「えっ……?」
やつらが位置を気取られるのを嫌い、動きを止める。
「じゃぁな」
その隙を突いて、そのまま大剣を振り下ろす。
「ぎゃああああああ!」
「なんだぁああああ!」
「て、天井がぁああ!」
ドラゴン・プレッシャーの剣圧によって天井は引き裂かれ、崩れ、巨大な石がやつらの頭上に降り注ぐ。
「あ、頭がぁ、頭がぁ!」
「どうなってんだ、どうして、天井が崩れるんだぁ!?」
「足が挟まった、誰か助けてくれ!」
暗闇で見えないけど、やつらの悲鳴で大体察しがつく。
「けほ、けほ……」
と、舞った埃を手で払う。
「くそがぁああああ!」
「ふざけんじゃねぇぞおお!」
天井から落石を免れた剣闘士たちが私に向かってくる。
「シロス、権力によらず、暴力によらず、その身を押せ、追い風」
「ぐあああああ!」
人見の魔法によって強風が吹き、やつらが吹き飛ばされる。
「レージス、光を閉ざした虚無の剣、弾けて砕け、剣気破弾」
そして、残りの一人も東園寺の魔法剣によって斬り倒される。
さらに、ヒュン、ヒュン、という風を斬る音も聞える。
「くぁ、なにが!?」
「矢か、どこから!?」
「ぐあ!」
暗闇の奥から悲鳴だけが聞えてくる。
「ナビーの火花のおかげで、おまえらの位置は確認済みなんだよ……」
そう、それは秋葉蒼の十字弓だった。
「ハル、獏人、気付いてるよね?」
うしろにいる和泉と佐野に聞く。
「ああ……」
「うい」
二人が返事をしてくれる。
「なら、いい……」
と、言い、ドラゴン・プレッシャーをゆっくり真上に振りかざす。
その過程で剣先は床や壁をこすり、バチバチと火花を散らし、辺りを照らす。
「おらぁああああああ!!」
火花が辺りを照らした瞬間、壁目掛けて佐野の鉄槌が炸裂する。
凄まじい轟音を上げて、石の壁が粉々に砕け散る。
「くそぉ、なんでばれた!?」
「や、やられた!」
「こっちもだ!」
崩れた石壁の中から声が聞こえてくる。
そう、あの細い排水溝、その中にも何人か隠れていた。
「おらぁああああああ!!」
さらに、佐野が何度も石壁に向かって鉄槌を叩き付け続ける。
「ぐあああああ!」
「ぎゃぁあああ!」
その度に壁の中から悲鳴がする。
「7対7とか言っておきながら、やっぱり、他にもいるんじゃない」
と、少し笑いながら言ってやる。
「くそがぁあああ!」
「死ねやぁあああ!」
たまりかねて中から出てきた……。
「エンベラドラス、殉教者の軍勢、死の絶望が汝を燃え上がらせる、炎を纏え、双炎爆裂」
飛び出してきた剣闘士たちは和泉春月の魔法剣によって斬り倒される。
「ぷっ……」
と、セイレイが吹き出した。
「うん? どうしたの、セイレイ?」
ドラゴン・プレッシャーを肩に担いで彼女を見る。
「いえ、失礼しました……、本当に、皆様方が神の如くお強いので思わず笑ってしまいました……、信じていただけないかもしれませんが、彼らは超一流の、それこそ、帝国を代表するような剣闘士たちだったのですよ……、それを、これほど短時間で圧倒するとは……、あはははっ……、すみません……、くく……、本当に……」
と、彼女が笑いを噛み殺しながら話す。
「へぇ……、そんなに強かったんだ、あいつら……」
セイレイにつられてクスリと笑う。
カツカツと石畳の階段を叩く軍靴の音が壁に反響する。
「暗いから気を付けろよ、ナビー」
うしろから秋葉に注意される。
「うん」
等間隔に松明が設置はされているが、それでも階段や通路は薄暗く、また、足元も非常に見え辛かった。
「おーい! 誰かいないかぁ!?」
「助けに来たぞぉ!」
「いるなら返事をしろぉ!」
と、村長や村民たちが大声を出しながら各部屋の扉を開けて中に誰かいないか確認する。
「誰もいない」
「ここじゃないのか?」
「じゃぁ、どこに?」
「地下でなんかやってるって話じゃなかったか?」
と、ひとしきり、各部屋を見て回ったあとに話す。
「くそぉ! みんなはどこだぁ!?」
「落ち着け、どこかに奥に行ける通路がないか探せ」
「「「おお!」」」
と、村民たちが散っていく。
ぴちゃん、ぴちゃん、と水滴が落ちる音がやけに大きく聞こえる。
「ねぇ、セイレイ、あなたが捕らえられていた場所ってどこだっけ? あなた以外にも大勢の人が捕らえられていたよね?」
「あそこは剣闘士専用の独房です、ファラウェイ様が期待されているような方々の投獄は考えられません……」
私の質問にセイレイがそう答える。
「そっか……」
人道的に剣闘士たちも助けたほうがいいよな……。
いずれ、火の手が回り、このリープトヘルム砦は焼け落ちる。
焼死は苦しいからね、助けられるのなら助けたほうがいい。
「投獄されてる剣闘士たちも助けよう」
私は東園寺に提案する。
「剣闘士……?」
彼は怪訝そうな表情を見せる。
「通路があったぞぉ!」
「ここから下に行けるぞぉ!」
その時、そんな大声が通路に響く。
「おお、あったか!」
「やはり、もっと下の階に捕らえられているのか!」
と、大勢の村民たちが大声のしたほうに駆けていく。
「話はあとだ、ナビーフィユリナ、俺たちも行くぞ」
「あ、う、うん……」
と、私たちもそのあとを追う。
下へと続く階段はそれなりの広さはあるけど、それまでの通路や階段と違い、壁に松明が設置されておらず、暗闇に包まれていた。
「よし、火を持ってきたぞ!」
と、村民の一人が木の棒に火を点けただけの物を持ってくる。
「いくぞ!」
そして、その人を先頭に階段を駆け下っていく。
階段はまっすぐではなく、曲がりくねり、非常に見通しの悪い造りになっていた。
また、天井も高く、その天井付近には排水溝らしき横穴も多数確認できた。
「嫌な感じ……、人ひとりくらい這って通れそう……」
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それにしても、長い……。
何メートル駆け下っただろう……、5階分……、いや、もっとだろうか……、底が見えない……。
「暗い! ちょっと待ってくれ!」
「何も見えん、先頭止まれ!」
「それかもう一つ松明を持ってきてくれ!」
私たちの、さらにうしろの村民たちからそんな声が上がる。
そう、持ってきた松明は先頭の一つだけ、集団の中央付近にいると思われる私たちでさえ、その明かりをかろうじて視認できる程度になっていた。
うしろを振り返ると、そこはもう暗闇……。
ぞっとする……。
そして……、
「あっぎゃああああああ!!」
という絶叫と共に、松明の明かりは消え、周囲が暗闇に包まれる。
「な、何があった!?」
「暗い、暗い!」
「あ、明かり、明かりをくれぇ!!」
一気にパニックになる。
「ぎゃああああああ!!」
「おげああああああ!!」
「た、助けて、助けてぇえええ!!」
そして、先頭のほうからは悲鳴や怒号が飛び交う。
「逃げろ、逃げろぉ!!」
「全員、退避、退避ぃい!!」
「どけろ、どけろぉお!!」
下から大勢の村民たちが駆け上がってくる。
「ナビーフィユリナ、壁に寄れ、他も人波に飲まれるなよ」
「うい」
「おう」
私は東園寺に手を引かれ壁際に連れて行かれる。
「怖い、怖い、怖い!」
「誰か、助けてぇ!」
「なんか、いる、なんか、いるぅうう!」
と、そんな叫び声を上げて我先にと階段を駆け上がっていく村民たちをやり過ごす。
やがて、村民たちはいなくなり、私たちが先頭で取り残される。
「あれぇ……、誰かと思ったら、皆殺しのジョルカじゃないの、どうしたの、おまえ?」
階段の下、暗闇の奥からそんな声が聞こえてきた。
「なんか、無様に負けて、先帝陛下からご不興を買ったとか聞いたけど」
「その負け犬がなんでこんなところにいるんだよ?」
「上、騒がしいけど、なに、叛乱か何か?」
「もしかして、おまえの仕業? 皆殺しのジョルカさん? 裏切っちゃった?」
一人ではなく、複数の声が聞こえてくる。
会話の内容からすると、セイレイと同じ、剣闘士の連中だろうか……。
「無視すんなよ、皆殺しのジョルカさんよぉ、一緒に大勢の罪のない村人たちを殺した仲じゃないかぁ……」
「あ、おまえが強いのは、武器を持たない女子供にだけだったな、ぎゃはははは!」
返事をしないセイレイに嘲笑を浴びせかける。
「なんと言っているんだ、ナビーフィユリナ?」
現地の言葉がわからない東園寺が尋ねてくる。
「真意はわからない……、でも、敵意のある言葉だよ、あれ……」
と、だけ答える。
「そうか……」
カチャリ、と、東園寺が剣の柄を握り、鯉口をきる音が響く。
「おお? やるのか、やっちゃうのかぁ?」
「俺たちと? おまえらが?」
「逃げろよ、つまんねぇから、ぎゃははははは!」
やつらが嘲笑う。
「そっちは……、ひー、ふー、みー……、7人か!」
「奇遇だな、こっちと同じじゃねぇか!」
「団体戦やろうぜ、ぎゃははははは!」
カチャリ、カチャリ、と、暗闇の奥からもそんな音が聞えてくる。
おそらく、武器に手をかけた。
「みんな、やるみたいだよ……」
私は和泉たちにそう告げる。
「ああ、殺気でわかる……」
「いつでもいいぜ……」
と、みんなも武器を構える。
「それにしても真っ暗だな、なにも見えん……」
人見がポツリと言う。
「そうね……」
私はそう言い、ドラゴン・プレッシャーを石畳の階段に向かってマッチの要領で横に払う。
すると、バチバチバチ、という音を立てて火花が散る。
「お?」
「う?」
「なんだ?」
火花に照らされ、やつら、剣闘士たちの姿が一瞬だけ見えた。
「全員、揃いも揃って黒装束かよ……」
やつらの姿を確認してクスリと笑う。
「それじゃ、ぶっ倒すよ」
私はドラゴン・プレッシャーを振り上げ、やつら、剣闘士の一団に向かって斬り込む。
「来たぞ、ぶっ殺せぇ!」
「団体戦だ、シフト行くぞぉ!」
「シールドバッシュ!」
それに呼応して、剣闘士たちも慌しく動く。
でも……、
「もう遅いんだよ」
私の振り上げたドラゴン・プレッシャーがガリガリガリと音を立てて天井を削り、火花を散せる。
「また、火花か?」
「い、いや、待て……」
「えっ……?」
やつらが位置を気取られるのを嫌い、動きを止める。
「じゃぁな」
その隙を突いて、そのまま大剣を振り下ろす。
「ぎゃああああああ!」
「なんだぁああああ!」
「て、天井がぁああ!」
ドラゴン・プレッシャーの剣圧によって天井は引き裂かれ、崩れ、巨大な石がやつらの頭上に降り注ぐ。
「あ、頭がぁ、頭がぁ!」
「どうなってんだ、どうして、天井が崩れるんだぁ!?」
「足が挟まった、誰か助けてくれ!」
暗闇で見えないけど、やつらの悲鳴で大体察しがつく。
「けほ、けほ……」
と、舞った埃を手で払う。
「くそがぁああああ!」
「ふざけんじゃねぇぞおお!」
天井から落石を免れた剣闘士たちが私に向かってくる。
「シロス、権力によらず、暴力によらず、その身を押せ、追い風」
「ぐあああああ!」
人見の魔法によって強風が吹き、やつらが吹き飛ばされる。
「レージス、光を閉ざした虚無の剣、弾けて砕け、剣気破弾」
そして、残りの一人も東園寺の魔法剣によって斬り倒される。
さらに、ヒュン、ヒュン、という風を斬る音も聞える。
「くぁ、なにが!?」
「矢か、どこから!?」
「ぐあ!」
暗闇の奥から悲鳴だけが聞えてくる。
「ナビーの火花のおかげで、おまえらの位置は確認済みなんだよ……」
そう、それは秋葉蒼の十字弓だった。
「ハル、獏人、気付いてるよね?」
うしろにいる和泉と佐野に聞く。
「ああ……」
「うい」
二人が返事をしてくれる。
「なら、いい……」
と、言い、ドラゴン・プレッシャーをゆっくり真上に振りかざす。
その過程で剣先は床や壁をこすり、バチバチと火花を散らし、辺りを照らす。
「おらぁああああああ!!」
火花が辺りを照らした瞬間、壁目掛けて佐野の鉄槌が炸裂する。
凄まじい轟音を上げて、石の壁が粉々に砕け散る。
「くそぉ、なんでばれた!?」
「や、やられた!」
「こっちもだ!」
崩れた石壁の中から声が聞こえてくる。
そう、あの細い排水溝、その中にも何人か隠れていた。
「おらぁああああああ!!」
さらに、佐野が何度も石壁に向かって鉄槌を叩き付け続ける。
「ぐあああああ!」
「ぎゃぁあああ!」
その度に壁の中から悲鳴がする。
「7対7とか言っておきながら、やっぱり、他にもいるんじゃない」
と、少し笑いながら言ってやる。
「くそがぁあああ!」
「死ねやぁあああ!」
たまりかねて中から出てきた……。
「エンベラドラス、殉教者の軍勢、死の絶望が汝を燃え上がらせる、炎を纏え、双炎爆裂」
飛び出してきた剣闘士たちは和泉春月の魔法剣によって斬り倒される。
「ぷっ……」
と、セイレイが吹き出した。
「うん? どうしたの、セイレイ?」
ドラゴン・プレッシャーを肩に担いで彼女を見る。
「いえ、失礼しました……、本当に、皆様方が神の如くお強いので思わず笑ってしまいました……、信じていただけないかもしれませんが、彼らは超一流の、それこそ、帝国を代表するような剣闘士たちだったのですよ……、それを、これほど短時間で圧倒するとは……、あはははっ……、すみません……、くく……、本当に……」
と、彼女が笑いを噛み殺しながら話す。
「へぇ……、そんなに強かったんだ、あいつら……」
セイレイにつられてクスリと笑う。
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