傭兵少女のクロニクル

なう

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第143話 インシデント

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「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 耳の短いうさぎのような姿形をした小動物……。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 私の手に頭、額をこすりつけてくる。

「よし、よし……、あうあー」

 撫でて欲しいのだろう、私のその要望に答えて小動物たちの頭を撫でてやる。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 でも、なんだろうな、これ……、怯えているような感じもする……。
 しゃがんでいる私のワンピーススカートの中に頭を入れたりして身を隠そうとしているようにも見える。

「うーん……」

 小動物たちを見る。
 白と薄茶色の毛並み、短い手足とまん丸な身体、そして、まん丸な黒いつぶらな瞳。
 なんて可愛いんだろう……。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 鳴き声まで可愛い。

「あうあー……」

 と、また近くの草むらからカサコソと音がする。

「あうあー……」

 よちよちと小動物が出てくる。

「うん?」

 なんか、ちょっとふらふらとして……、

「ああっ!?」

 背中に矢が刺さっているよ! 

「どうしたの!?」

 と、私は大慌てでその子に駆け寄る。

「あうあー……、あうあー……」

 痛そうに、苦しそうに私の目を見る。

「だ、誰にやられたの、こんな酷いこと……」

 かわいそうで、ちょっと涙目になって、その子を抱きかかえる。

「しょ、彰吾、なんとかならない、魔法で? この子を助けて」

 人見に助けを求める。

「どれ、見せてみろ」
「うん」

 と、矢の刺さった背中を彼に見せる。

「あうあー」

 人見が矢に触れと、痛いのかビクッと反応する。

「ごめん、ごめん、痛かったか……、和泉、手伝ってくれ、矢を抜く、止血を頼む」
「わかった」

 和泉が近くに来て、

「美くしき、流れのほとりで、慈雨にその身を任せ、癒しの精霊糸ミインテールレット

 と、呪文を唱える。
 すると、彼の指先から、蜘蛛の糸のような白い繊維質の糸が無数に噴き出す。
 それを器用に人差し指と親指にわた飴のように巻いていく。

「準備おーけーだ」

 と、和泉が矢の突き刺さった根元、傷口のところを人差し指と親指で挟む。

「痛いかもしれないが、我慢してくれよ……」

 人見が矢を掴み、力を込める。
 私は小動物が動かないように少し抱く力を強くする。

「あうあー……」

 力無く鳴く。

「あうあー……」
「我慢してくれよ……、ジルアス、カルキアス、サムトリアス、告げ鳴く鹿よ、風かけたるひさかたの白雪よ……」

 人見も呪文を唱えはじめる。

「ディウスグラム、インフェルベウム、ラミルダード、その身を引き裂く至れり永遠、狂騒と静寂の、累世永遠クラス・オ・ダール……」

 矢と小動物の身体が青く、うっすらと光り出す。

「彰吾?」

 心配になって彼に尋ねる。

「大丈夫だ、止血と幻術による麻酔だ……、もう少し……」

 そして、矢が引き抜かれる。

「よし、成功だ」

 人見が抜いた矢を草むらに放り投げる。

「よかった……、大丈夫……?」
「あうあー?」

 と、元気が戻ったのか、小動物が身じろぎする。

「血も止まったかな? 思ったより傷は浅そうだ」

 和泉が傷口から指を離して出血具合を見る。

「あうあー!」

 と、私の腕から逃れようとする。

「じゃ、じゃぁ、もう、大丈夫かな……?」

 私はしゃがんで、その子を解放する。

「あうあー!」

 と、その子が他の子たちのところに合流する。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 みんなで仲良くしてる。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 しばらく見守っていると、またみんなが私の周りに集まってくる。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 そして、撫でて欲しそうに頭とかを押し付けてくる。

「よし、よし」

 しょうがないので、その手触りの良い毛並みを撫でてやる。

「こっちも! こっちも!」

 と、順番にみんなを撫でてやる。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 うん、気持ち良さそうにしてる。

「よかった、よかった」

 自然と笑顔になる。

「かわいいなぁ……」
「怪我した子がどれかわからなくなっちゃったね」
「回復してるだろ」

 と、和泉たちも上から覗き込んでくる。

「でも、この子たち、なんて種類の動物なんだろう?」

 私は小動物たちを撫で回しながら質問する。

「うさぎ?」
「カピパラ?」
「ふさふさ?」

 わからないみたい。

「うーん……、なんだろうなぁ……、うさぎ……、でもないようなぁ……」

 撫でながら考える。

「なんだろうね? 見たことない動物だから、ここ、割りと普通なナビーフィユリナ記念オアシス特有の動物かもしれないね」

 と、和泉が私の顔を覗き込み、笑顔でそう答える。
 うん? 
 ここの名前って、割と普通なナビーフィユリナ記念オアシスだったっけ? なんか、別の名前を付けたような気もするけど……。
 と、小動物を撫でながら考える。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 でも、ホントかわいい……。

「よし、よし……」

 手触りも最高……、この毛皮のコートとかマフラーとか手袋があったら絶対買うよ。
 うん、全財産出してもいい。

「こっちから声がしたぞぉ!!」
「どこだぁ!?」
「待ってろ、今行く、逃がすな!!」

 と、そんな大声と共に、複数の足音がこちらに向かってくる。

「誰かいるのか!?」
「人の声がしたぞ!?」

 これは日本語ではなく、現地の言葉だ。
 それが近づいてくる。
 東園寺たちは無言で、冷静に声のする方向に視線を送る。
 それは当然なこと、私たち以外に誰かいることなど予想済み、別に慌てることではない。
 そして、草をかきわけ奴等が姿をあらわす。

「なんだ、おまえら……?」
「横取りか……?」
「どこで、この場所を……」

 私たちの姿を見て奴等が驚く。
 私たちはじっと奴等を観察する。
 髭を生やした壮年の男性が6人ほど……。
 服装は……、ブラウンの、戦闘用のレザーメイルとは違う、よくなめした艶やかな皮革の服。
 腰には剣を帯び、背中には槍、そして、手には弓……。
 剣とは逆の胴にはじゃらじゃらとした鎖……、その鎖に繋がれ、吊るされているのは……、

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 私のうしろに隠れ、怯えているこの子たちと同じ小動物……。
 それが一人、数匹ずつ吊るしている。
 それは適切な表現ではないのかもしれないけど、私の脳裏の浮かんだのは、

「密猟」

 という単語だった。

「お、おまえら、同業者か……?」
「誰から、この場所を……?」

 奴等が問いかけてくる。
 でも、私は何も答えない、その腰に吊るした小動物たちを見て、即座に敵だと認定した。

「いや、ハンターではないか……」
「まだ若い……、子供、それに少女までいる……」
「遊んでいて、迷子にでもなったか……」
「こんなところにか?」
「他に仲間がいるんじゃないのか?」

 と、奴等が話し合う。

「どうする? ここは俺たちの狩場、場所を知られたからには生かしてはおけない」
「殺すのか?」
「しかし、行方不明になったとあったは探しにくるかもしれないぞ」
「なぁに、そいつらも始末すればいいだけのこと、ここは俺たちの縄張りだ」

 殺意を私たちに向ける。

「ナビーフィユリナ、聞かなくても大よそ見当はつくが、一応、聞いておく、あいつらはなんと言っているんだ?」

 東園寺が聞いてくる。

「私たちを殺す算段をしている」

 短く答える。

「だろうな……」

 和泉は腰に帯びた剣の柄に手を伸ばす。

「ほう……、小僧共、俺たちとやり合おうと言うのか……?」
「俺たちは強ぇぞ……」
「大人しくしていたら命だけは助けてやろうと思ったが……」
「うそ、うそ、最初から殺すつもりだよ」
「大人は怖いねぇ……」

 6人の密猟者たちがいやらしく笑い、弓をその辺に放り投げ、腰の剣に手をかける。

「小僧共ぉおおお!!」
「うおおおおおお!!」
「ぶっ殺してやる!!」

 そして、一斉に剣を引き抜く。

「人見……」

 東園寺がゆっくりと剣を引き抜きながら、人見に魔法を要求する。

「やれやれ……、アンシャル・アシュル・アレクト、七層光輝の鉄槌、赤き聖衣を纏いし深淵の主……」

 人見による魔法の詠唱が始まる。

「佐々木は下がっていろ、俺と人見と東園寺でやる」
「あ、ああ、すまない」

 と、佐々木は私の隣まで下がってくる。

「エア、エンリタ、エシルス、舞い降りろ、死の女神、光輝の流星陣フォール・ザ・アルテミス

 詠唱は終り、防衛陣が発動し、東園寺たちの身体が輝きだす。

「「「うおおおおお!!」」」

 そして、戦闘は開始される。
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