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目が覚めて時刻を確認すると、既に昼の12時を過ぎていた。というかもう13時だ。
寝ぼけ眼を擦りながら右を向くと風でカーテンが揺れている。……あ、やっべ、窓開けっ放しで寝てたのか。
あぁそうだ、朝イチに気持ちが悪いブタのレイダーと出くわして、倒して帰ってきて、軽い換気してから寝たんだっけ。完全に閉め忘れてるな。
ガサガサとゆっくりと身体を起こし、布団から這い出て窓の外を見ると、お天道様はバチバチに辺りを照らしている。
今日も暑くなりそうな気がした。今日もっていうか今はもう昼過ぎだけど。
窓を閉めて足元に置きっぱなしのビールの空き缶を踏まないようにしつつ、テーブルに無造作に置かれたタバコと100円ライターを手に持って玄関近くに設置されたキッチンに向かい、換気扇をつける。
そしてタバコ一本口に咥えて火をつけた。
……あぁ落ち着くわー。嫌なこと全部忘れそうだわー。いちご柄とかさー。俺いちご柄履いてるとか知りたくなかったもんなー。
安堵のため息と一緒に吐き出した煙が換気扇に吸い込まれるのをぼーっと見つめた後に視線をテーブルに置かれたもう一つのライターに移す。
今タバコを吸うために使った100円ライターより誰が見ても明らかに高価な雰囲気のあるピンク色の金属製ライター。
正式名称をシャイニー・マジカルライター。俺があの美少女であるシャイニー・シルバーになるためのアイテム、いわば変身アイテムというやつだ。
ライターで変身するヒーローなんて俺以外いるのだろうか? いや後にも先にも俺だけだろう。
そもそもなんで俺がシャイニー・シルバーになってしまったのか。理由は恐ろしく単純だ。
家に届いた自分宛の荷物を開けたらこのライターが入ってて、一回だけフリントホイール回すか~ってやったら女の子になった後に妖精が出てきて、ヒーロー契約させられたんだよ。
……嘘じゃないんだな、これが。
あれは今から大体1ヶ月ほど前の出来事だったか。俺がコンビニの夜勤を終えて帰宅して、届いた荷物を開け「祐希~、いるドリか~」
……またタイミングが悪い。
「祐希~? いるドリよね? 知ってるドリ。早く開けるドリ~」
「……鍵かかってないから勝手にどうぞ」
「ん、あ、ほんとだドリ。不用心な家主ドリね」
大体15cmあるかないかくらいのサイズのリスのようなぬいぐるみが茶封筒片手にめちゃめちゃ普通に玄関の扉をあけて入ってきた
このヘリウムが切れかけの風船のようにふわふわ浮いてる此奴が俺をヒーローにさせた張本人、いや張本精のドリリスだ。
ぬいぐるみ部分だけ見たらとても愛らしい感じがあるが、コイツってば尻尾の代わりに建築関係の人が使ってそうなガチのドリルがあるから可愛さは微塵も感じない。なんならたまにギュインギュイン鳴らしてくるから恐怖を感じる。
「どうしたのドリリス。タバコの匂いが身体の生地につくのが嫌だから、あまり来たくないんじゃなかったっけ」
「き、来たくないとは言ってないドリ、あと生地とか言わないで欲しいドリ……」
しょんぼりとさせながら少し弱めにギュインギュインと尻尾のドリルを回転させるドリリス。一応妖精と契約した人間は妖精に触れる事が出来るから、もし何かしらの不注意であのドリルでこの部屋の壁に穴を開けようものなら、変身してから一発本気でぶん殴ろうって思ってるんだ、俺。
「冗談はさておいて、どうしたの? またレイダーでも出た? それとも俺、ヒーロー辞めれるの?」
「レイダーが出たならもっと焦ってやってくるドリよ」
「……後者は無視するのね。まぁ分かってたけど」
「今日はコレを渡しにきたドリ」
ドリリスはさっきから気になっていたっちゃあ気になっていた茶封筒を渡してきた。
「なにこれ」
「お給金だドリ。朝にレイダーを倒したのを確認したドリからね」
「え、お金もらえんの? 今までもらえてなかったよね?」
「今までは研修期間みたいなものだからドリ。レイダー退治は慈善事業ではないドリね。戦闘で拘束された分の時間給は発生するに決まってるドリよ」
「……聞いてないんだけどそれ。あ、いや別に不満じゃないんだけど。ありがたいんだけどさ」
「ん、最初の契約の時に話してるドリよ」
最初の契約と言われて、一度タバコを灰皿において思い返す。そんな事を言われたかどうかの記憶が……。
『え、え!? 女? 私見た目が変わって……え、私!? 待ってこれは夢? え、なんで少し口調変わってるの?』
『パンパカパーン! おめでとうドリ~、今から君は人々に襲いかかる怪人レイダーを倒すヒーローになったんだドリよ~』
「……だめだ嫌な記憶しか思い出せん。けどありがたいのには代わりないんで貰っておきます」
軽く会釈してドリリスの手から茶封筒を受け取り、居間のテーブルの上に置く。
まぁ流石に目の前で金額を確認するのはちょっとどうかと思うので一旦置いておこう。
「さて、これで用事は終わったドリが……そういえばなんで祐希はあの3人と行動を共にしないドリ? 一緒の方がレイダー退治も楽になるんじゃないかドリ?」
「それ本気で言ってる? あの3人の変身前を知らないけど多分中高生だろ? 俺だけ変身解いたら24の男でしたーってかなりやばい変態でしょ」
「……確かにドリ。祐希は変態だったドリね」
「変態じゃねぇよ、全部アンタのせいだよ」
がっしりとタバコを触っていた手でドリリスの頭をアイアンクローした。「痛、痛いドリ! あ、タバコ! タバコの匂いがつくドリ!」と何か言っているけど気にしない。
数秒そのままにした後に手を離し、灰皿に起きっぱなしだったタバコを咥えた。
「はぁ……あの3人は誰なのかってのは今後の行動に関わるから知っておきたいけど、お前が頑なに教えてくれないの思い出してつい力入れちまった。
それより俺がシャイニー・シルバーだっていうのはこのまま墓まで持って行くつもりだから、そのつもりで」
「わ、分かったドリ……」
顔をさするドリリスに釘を刺し、煙を吐き出す。そしてコイツはいつまでウチにいるんだろうとか、昼飯なにを食べようか、と考えていた時に来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「ん、誰だ?」
タバコの火を消し、玄関に移動しようとする前に足を止めてドリリスの方を向く。
「ドリリスって一般人には見えないんだっけ?」
「他のヒーローとかヒーローの素質がある人以外にはなーんにも見えないドリ」
「おっけ、でも一応居間にいてくれ」
コクリと頷き、居間に移動するドリリスを見送る。
何かの拍子で荷物の配達員さんとかに見られてしまって、尻尾をドリルに改造したリスのぬいぐるみを宙に浮かべてるヤベー奴と思われないって事は大きい。
うんうん良かった、と頷いていると再度催促のチャイムが鳴ったので「はいはい」と急いで玄関に向かい扉を開ける。
「はいすみませんお待たせしまし……わーお」
「何? 久しぶりに会って、第一声がそれなんだ?」
扉の前で腕組みしながら待っていたのは大きな荷物を背負い、俺の家の最寄駅から2~3つ離れた駅近くにある高校の制服を着たポニーテールの子だった。
年齢もまだ16くらいだというのに俺より少しだけ身長が高く、スタイルもいい目力のある美人だ。
まさに美少女とかいう枠にピッタリはまる、そんな印象を受ける。
小並感だけれど、この子にちょっとでも優しくされたら告白とかすぐしちゃいそう。
あ、ちなみに俺は絶対に告白とかしない自信がある。だってコイツは妹なのだから。
「いやー、久々に見た顔だからつい。久しぶり、葵乃」
「久しぶり兄貴。タバコ臭いよ」
「ほっとけ」
ギロリと俺を睨み、嫌なものを吐き出すかのように匂いを指摘した眼前の女性は白銀 葵乃。
母さんたち両親と一緒に3~4駅くらい離れた実家に住んでいる妹。俺よりも頭が良く、更にはその長身を生かしてバレーボール部に所属している秀才ちゃんである。
酷いよなぁ、天って簡単に二物を与えるんだから。
「んで、どうしたのわざわざ。なんか用事?」
「なんかお母さんが3日後に兄貴の部屋掃除しに行くって言ってて、部活の帰りついでに部屋の様子を見てこいって」
「抜き打ちチェックというやつか」
「左様。入っていい?」
その言葉に特になにも言わずに部屋に招き入れる。
幸い、見られて恥ずかしいものなんて見られないようにカムフラージュされているし気づかれることは無い。
1番の問題はこうしてる間も居間でふわふわ浮いてるあのリスだけれど、あいつが言うにはそう簡単に存在を認識されない。
ちょっとビールの空き缶とか転がってるけど、大丈夫だ。
「お邪魔します。意外と狭いんだね」
「まぁワンルームのアパートだから、こんなもんよ」
他愛のない会話をしながら居間と玄関を隔てる扉を開ける。
「あ、戻ってきたドリね~おかえりドリ~」
ドリリスは勝手にテレビを点け、リモコンを操作し、見たい番組に切り替えていた。
「……嘘」
あー、おいおいちょっと待ってくれ。もしかしてこれはアレか? ポルターガイスト的な感じに見られてしまっているのか? 曰く付き物件に住んでいるって勘違いされちゃったか?
「えーっと」
「なんで……」
「いや、その、な? 葵乃これはだな決して曰く付き物件とかじゃなくてだな」
「なんで妖精が部屋にいるの」
わなわなと震えながら葵乃はそう呟い……ん?
「ん? 葵乃、お前今なんて言った?」
「え、兄貴はもしかして妖精と暮らして……え?」
信じられないといった様子の表情を浮かべながら、その視線はテーブルに置かれた悪趣味なライターに注がれた。
悪趣味なライターというか、シャイニー・マジカルライターね。
「あのライター見たことが……すーっ……はぁ……すーっ……はぁ……え、兄貴に聞きたいことがあるんだけど」
「……なんだ?」
すーっと息を吸っては吐きを繰り返して気持ちを落ち着ける葵乃。
ここで俺はすでに嫌な予感がして冷や汗びっしょり、脇汗びしゃびしゃだけれど、聞き返した。
「兄貴ってシャイニー・シルバー?」
「葵乃頼む、殺してくれ俺を」
正体が気になっていた3人のヒーローのうちの1人が身内。しかも正体バレたんだけど。
寝ぼけ眼を擦りながら右を向くと風でカーテンが揺れている。……あ、やっべ、窓開けっ放しで寝てたのか。
あぁそうだ、朝イチに気持ちが悪いブタのレイダーと出くわして、倒して帰ってきて、軽い換気してから寝たんだっけ。完全に閉め忘れてるな。
ガサガサとゆっくりと身体を起こし、布団から這い出て窓の外を見ると、お天道様はバチバチに辺りを照らしている。
今日も暑くなりそうな気がした。今日もっていうか今はもう昼過ぎだけど。
窓を閉めて足元に置きっぱなしのビールの空き缶を踏まないようにしつつ、テーブルに無造作に置かれたタバコと100円ライターを手に持って玄関近くに設置されたキッチンに向かい、換気扇をつける。
そしてタバコ一本口に咥えて火をつけた。
……あぁ落ち着くわー。嫌なこと全部忘れそうだわー。いちご柄とかさー。俺いちご柄履いてるとか知りたくなかったもんなー。
安堵のため息と一緒に吐き出した煙が換気扇に吸い込まれるのをぼーっと見つめた後に視線をテーブルに置かれたもう一つのライターに移す。
今タバコを吸うために使った100円ライターより誰が見ても明らかに高価な雰囲気のあるピンク色の金属製ライター。
正式名称をシャイニー・マジカルライター。俺があの美少女であるシャイニー・シルバーになるためのアイテム、いわば変身アイテムというやつだ。
ライターで変身するヒーローなんて俺以外いるのだろうか? いや後にも先にも俺だけだろう。
そもそもなんで俺がシャイニー・シルバーになってしまったのか。理由は恐ろしく単純だ。
家に届いた自分宛の荷物を開けたらこのライターが入ってて、一回だけフリントホイール回すか~ってやったら女の子になった後に妖精が出てきて、ヒーロー契約させられたんだよ。
……嘘じゃないんだな、これが。
あれは今から大体1ヶ月ほど前の出来事だったか。俺がコンビニの夜勤を終えて帰宅して、届いた荷物を開け「祐希~、いるドリか~」
……またタイミングが悪い。
「祐希~? いるドリよね? 知ってるドリ。早く開けるドリ~」
「……鍵かかってないから勝手にどうぞ」
「ん、あ、ほんとだドリ。不用心な家主ドリね」
大体15cmあるかないかくらいのサイズのリスのようなぬいぐるみが茶封筒片手にめちゃめちゃ普通に玄関の扉をあけて入ってきた
このヘリウムが切れかけの風船のようにふわふわ浮いてる此奴が俺をヒーローにさせた張本人、いや張本精のドリリスだ。
ぬいぐるみ部分だけ見たらとても愛らしい感じがあるが、コイツってば尻尾の代わりに建築関係の人が使ってそうなガチのドリルがあるから可愛さは微塵も感じない。なんならたまにギュインギュイン鳴らしてくるから恐怖を感じる。
「どうしたのドリリス。タバコの匂いが身体の生地につくのが嫌だから、あまり来たくないんじゃなかったっけ」
「き、来たくないとは言ってないドリ、あと生地とか言わないで欲しいドリ……」
しょんぼりとさせながら少し弱めにギュインギュインと尻尾のドリルを回転させるドリリス。一応妖精と契約した人間は妖精に触れる事が出来るから、もし何かしらの不注意であのドリルでこの部屋の壁に穴を開けようものなら、変身してから一発本気でぶん殴ろうって思ってるんだ、俺。
「冗談はさておいて、どうしたの? またレイダーでも出た? それとも俺、ヒーロー辞めれるの?」
「レイダーが出たならもっと焦ってやってくるドリよ」
「……後者は無視するのね。まぁ分かってたけど」
「今日はコレを渡しにきたドリ」
ドリリスはさっきから気になっていたっちゃあ気になっていた茶封筒を渡してきた。
「なにこれ」
「お給金だドリ。朝にレイダーを倒したのを確認したドリからね」
「え、お金もらえんの? 今までもらえてなかったよね?」
「今までは研修期間みたいなものだからドリ。レイダー退治は慈善事業ではないドリね。戦闘で拘束された分の時間給は発生するに決まってるドリよ」
「……聞いてないんだけどそれ。あ、いや別に不満じゃないんだけど。ありがたいんだけどさ」
「ん、最初の契約の時に話してるドリよ」
最初の契約と言われて、一度タバコを灰皿において思い返す。そんな事を言われたかどうかの記憶が……。
『え、え!? 女? 私見た目が変わって……え、私!? 待ってこれは夢? え、なんで少し口調変わってるの?』
『パンパカパーン! おめでとうドリ~、今から君は人々に襲いかかる怪人レイダーを倒すヒーローになったんだドリよ~』
「……だめだ嫌な記憶しか思い出せん。けどありがたいのには代わりないんで貰っておきます」
軽く会釈してドリリスの手から茶封筒を受け取り、居間のテーブルの上に置く。
まぁ流石に目の前で金額を確認するのはちょっとどうかと思うので一旦置いておこう。
「さて、これで用事は終わったドリが……そういえばなんで祐希はあの3人と行動を共にしないドリ? 一緒の方がレイダー退治も楽になるんじゃないかドリ?」
「それ本気で言ってる? あの3人の変身前を知らないけど多分中高生だろ? 俺だけ変身解いたら24の男でしたーってかなりやばい変態でしょ」
「……確かにドリ。祐希は変態だったドリね」
「変態じゃねぇよ、全部アンタのせいだよ」
がっしりとタバコを触っていた手でドリリスの頭をアイアンクローした。「痛、痛いドリ! あ、タバコ! タバコの匂いがつくドリ!」と何か言っているけど気にしない。
数秒そのままにした後に手を離し、灰皿に起きっぱなしだったタバコを咥えた。
「はぁ……あの3人は誰なのかってのは今後の行動に関わるから知っておきたいけど、お前が頑なに教えてくれないの思い出してつい力入れちまった。
それより俺がシャイニー・シルバーだっていうのはこのまま墓まで持って行くつもりだから、そのつもりで」
「わ、分かったドリ……」
顔をさするドリリスに釘を刺し、煙を吐き出す。そしてコイツはいつまでウチにいるんだろうとか、昼飯なにを食べようか、と考えていた時に来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「ん、誰だ?」
タバコの火を消し、玄関に移動しようとする前に足を止めてドリリスの方を向く。
「ドリリスって一般人には見えないんだっけ?」
「他のヒーローとかヒーローの素質がある人以外にはなーんにも見えないドリ」
「おっけ、でも一応居間にいてくれ」
コクリと頷き、居間に移動するドリリスを見送る。
何かの拍子で荷物の配達員さんとかに見られてしまって、尻尾をドリルに改造したリスのぬいぐるみを宙に浮かべてるヤベー奴と思われないって事は大きい。
うんうん良かった、と頷いていると再度催促のチャイムが鳴ったので「はいはい」と急いで玄関に向かい扉を開ける。
「はいすみませんお待たせしまし……わーお」
「何? 久しぶりに会って、第一声がそれなんだ?」
扉の前で腕組みしながら待っていたのは大きな荷物を背負い、俺の家の最寄駅から2~3つ離れた駅近くにある高校の制服を着たポニーテールの子だった。
年齢もまだ16くらいだというのに俺より少しだけ身長が高く、スタイルもいい目力のある美人だ。
まさに美少女とかいう枠にピッタリはまる、そんな印象を受ける。
小並感だけれど、この子にちょっとでも優しくされたら告白とかすぐしちゃいそう。
あ、ちなみに俺は絶対に告白とかしない自信がある。だってコイツは妹なのだから。
「いやー、久々に見た顔だからつい。久しぶり、葵乃」
「久しぶり兄貴。タバコ臭いよ」
「ほっとけ」
ギロリと俺を睨み、嫌なものを吐き出すかのように匂いを指摘した眼前の女性は白銀 葵乃。
母さんたち両親と一緒に3~4駅くらい離れた実家に住んでいる妹。俺よりも頭が良く、更にはその長身を生かしてバレーボール部に所属している秀才ちゃんである。
酷いよなぁ、天って簡単に二物を与えるんだから。
「んで、どうしたのわざわざ。なんか用事?」
「なんかお母さんが3日後に兄貴の部屋掃除しに行くって言ってて、部活の帰りついでに部屋の様子を見てこいって」
「抜き打ちチェックというやつか」
「左様。入っていい?」
その言葉に特になにも言わずに部屋に招き入れる。
幸い、見られて恥ずかしいものなんて見られないようにカムフラージュされているし気づかれることは無い。
1番の問題はこうしてる間も居間でふわふわ浮いてるあのリスだけれど、あいつが言うにはそう簡単に存在を認識されない。
ちょっとビールの空き缶とか転がってるけど、大丈夫だ。
「お邪魔します。意外と狭いんだね」
「まぁワンルームのアパートだから、こんなもんよ」
他愛のない会話をしながら居間と玄関を隔てる扉を開ける。
「あ、戻ってきたドリね~おかえりドリ~」
ドリリスは勝手にテレビを点け、リモコンを操作し、見たい番組に切り替えていた。
「……嘘」
あー、おいおいちょっと待ってくれ。もしかしてこれはアレか? ポルターガイスト的な感じに見られてしまっているのか? 曰く付き物件に住んでいるって勘違いされちゃったか?
「えーっと」
「なんで……」
「いや、その、な? 葵乃これはだな決して曰く付き物件とかじゃなくてだな」
「なんで妖精が部屋にいるの」
わなわなと震えながら葵乃はそう呟い……ん?
「ん? 葵乃、お前今なんて言った?」
「え、兄貴はもしかして妖精と暮らして……え?」
信じられないといった様子の表情を浮かべながら、その視線はテーブルに置かれた悪趣味なライターに注がれた。
悪趣味なライターというか、シャイニー・マジカルライターね。
「あのライター見たことが……すーっ……はぁ……すーっ……はぁ……え、兄貴に聞きたいことがあるんだけど」
「……なんだ?」
すーっと息を吸っては吐きを繰り返して気持ちを落ち着ける葵乃。
ここで俺はすでに嫌な予感がして冷や汗びっしょり、脇汗びしゃびしゃだけれど、聞き返した。
「兄貴ってシャイニー・シルバー?」
「葵乃頼む、殺してくれ俺を」
正体が気になっていた3人のヒーローのうちの1人が身内。しかも正体バレたんだけど。
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