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刺激
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スカートは膝下。前髪は眉上。髪は肩につかないくらいの長さか、一つ結び。メイクなんてもってのほか。学校内でのスマホの使用はもちろん禁止。世の中のJKからしたら厳しい校則らしいが私には関係ない。ルールはルール。守るだけだ。
私は小さい頃から親に厳しく育てられてきた。毎日四時間の勉強は当たり前。勉強のほかにもピアノの練習。生け花の授業やらなんやら。教養というものは片っ端から叩き込まれてきたと思っている。そのおかげで周りからは「真面目」と言ってもらえる機会が多い。アニメなんかは見たことがないし、放課後に友達と寄り道なんてこともしたことがない。する時間も友達も持ち合わせてはいないと言った方が正しいのかもしれない。一般的に言われる娯楽を知らない。知らないからこそ、周りが愚痴愚痴言っている規則を守ることに対して何の苦もない。
「宮野さんって真面目だよね」
クラスの中心で私の名が挙がる。宮野あき=真面目。そんな等式が出来上がっていた。
「委員会決めるぞー」
学期が変わってリセットされた今日。担任が教壇で声を発する。今学期は学校祭もあるし、委員長は避けたいな。立候補者を募る中、誰かが言った。
「真面目だし、委員長は一学期と同じ宮野さんでいいんじゃね」
「うんうん」
「確かに!」
期待の眼差しが私に集まる。
「面倒くさいので無理です」
なんて私が言えるはずもなく
「じゃあ…やります」
この瞬間拍手が起こった。押し付けられるように二学期の委員長も引き受けてしまった。
「推薦されて委員長になったんだ」
多少色を付けながら今日の出来事を母親に話す。
「あらそうなの。あきちゃんがみんなから評価されるなんてお母さん誇らしいわ」
母親が大袈裟に褒めてくれる。押し付けられたんじゃない。この結果はみんなからの評価だ。すべてはお母さんのおかげだ。そう錯覚させる。
「ごはん食べ終わったならピアノの練習してきちゃいなさい。ピアノもできる委員長なんてあきちゃんさすがだわ」
ブランド物を自慢する大学生のような母親を背に自室へ向かった。
クラシック以外も練習してみたいな。K-POPなど世の中のJK間で流行っている音楽には疎い。なんてレベルじゃない。テレビで流れているもの以外耳に入れたことがない。親との連絡ツールとしての役割しか果たしていないスマートフォン。インスタやツイッターなど当然入っていない。数少ないアプリの中に入っている検索アプリ。
「けーぽっぷ」
打ち込んでみる。お人形さんみたいな女の子が際どい衣装を着て歌い、ダンスをしている動画。髪を色とりどりに染めた男の子たちが踊っている動画が並んでいる。
ポチッー。
再生ボタンを押してみると自分の知らない言語で彩られた歌が流れる。すごい。感心しているうちに一曲目が終わってしまった。ほかの曲は…。
「ひっぷ…ほっぷ…?」
なんとなくだった。本当になんとなく。何かに導かれるようにその曲の再生ボタンを押した。
電撃が走ったようだった。今まで触れたことのない種類の音楽。痺れた。
「あぁ。好きだな。」
思わず言葉が漏れた。もっと、もっと聞きたい!
「あきちゃん?何してるの?」
ノックもなしに入ってくる母親。やばいという表情を浮かべた私と目が合ってしまう。
「そんな音楽聞いちゃだめよ。馬鹿になっちゃうから。ほらピアノの練習しましょ」
とても穏やかで優しい声。けど目の奥は笑っていない。「あきちゃん、大好きよ」と何回も言ってくれる。端から見たらいい母親。けど私に対して愛情を向けてくれているはずなのに目が合わない。私じゃない他の人を私を通してみている感覚。そんな母親の目は怖くて得意じゃない。
「ほら早く」
「はい」
急かされ、ピアノの練習に取り掛かる。どんな曲を弾いても私の心に残っているのはさっきの曲。うわの空でピアノの練習を終えた。その気持ちのまま英語の勉強をする。
この単語。
さっき聞いた曲に出てきた。意味は確か…。
「刺激」
私の生活と正反対の場所に位置する言葉。刺激を夢見ながら今日という日を終わらせる。
あと五日。
学祭までの日数が記された黒板。本格的に準備が始まり、リーダーである私はいろいろな仕事を押し付けられていた。それに伴い、帰宅時間が遅くなってしまっていた。みんなから信頼されているのはいいけれど、ピアノや勉強の時間が減っているのに対して母親からいい顔はされていない。
今日も七時近くまで居残って作業をしていた。区切りがいいのでもうそろそろ帰ろうかと思っていた矢先、私のスマホを一つの通知が照らした。
「最近帰りが遅いんじゃないかな?今も位置情報見て学校にいるのはわかってるから安心だけどできるだけ早く帰ってきてね」
私のことを心配している母親。心底気持ちが悪い。ただそう思った。心配しているふりをして、私を鳥籠に閉じ込めようとしてくる。位置情報を見てくるなんてプライバシーの侵害だ。本当に吐き気がする。
あぁ、無理だ。私の心が拒否をした。
一応家には向かう。あと百メートル。人通りのない歩道を歩く私。イヤホンを取り出し、音楽を耳に届ける。普段は聞かないアップテンポな曲。
何者にでもなれる気がした。車道の真ん中に出てみる。
「ルールを守るだけの私」とは違う自分がいた。
特に理由もなく走った。気持ちがいい。肌で風を感じる。意味もなく走って、なんとなくで笑っていた幼稚園児を思い出した。走って。走って。走って。疲れた。本能のまま行動する。疲れたら休憩をするはずだ。交差点の真ん中に寝そべってみる。地面の冷たさを感じた。耳をつけると道路を伝って聞こえてくる車の音。ただ休まずに働き続ける信号機を見ていた。私だけを置いて進んでいく世界を何も考えずに見る。ふと気が付くと長針が半周ほど回っていたらしい。スマホを見ると母親からの連絡がたくさん。誰かのいたずらか。位置情報が非表示になっていたらしい。
「どこにいるの?」
「早く帰ってきて」
「ねぇ。返事は?」
帰る気になれない程憂鬱だ。帰りたくない。帰れない。
真面目だったころの私はどこかへ消えて。何者かになった誰かがあの家に向かって足を動かす。
私は小さい頃から親に厳しく育てられてきた。毎日四時間の勉強は当たり前。勉強のほかにもピアノの練習。生け花の授業やらなんやら。教養というものは片っ端から叩き込まれてきたと思っている。そのおかげで周りからは「真面目」と言ってもらえる機会が多い。アニメなんかは見たことがないし、放課後に友達と寄り道なんてこともしたことがない。する時間も友達も持ち合わせてはいないと言った方が正しいのかもしれない。一般的に言われる娯楽を知らない。知らないからこそ、周りが愚痴愚痴言っている規則を守ることに対して何の苦もない。
「宮野さんって真面目だよね」
クラスの中心で私の名が挙がる。宮野あき=真面目。そんな等式が出来上がっていた。
「委員会決めるぞー」
学期が変わってリセットされた今日。担任が教壇で声を発する。今学期は学校祭もあるし、委員長は避けたいな。立候補者を募る中、誰かが言った。
「真面目だし、委員長は一学期と同じ宮野さんでいいんじゃね」
「うんうん」
「確かに!」
期待の眼差しが私に集まる。
「面倒くさいので無理です」
なんて私が言えるはずもなく
「じゃあ…やります」
この瞬間拍手が起こった。押し付けられるように二学期の委員長も引き受けてしまった。
「推薦されて委員長になったんだ」
多少色を付けながら今日の出来事を母親に話す。
「あらそうなの。あきちゃんがみんなから評価されるなんてお母さん誇らしいわ」
母親が大袈裟に褒めてくれる。押し付けられたんじゃない。この結果はみんなからの評価だ。すべてはお母さんのおかげだ。そう錯覚させる。
「ごはん食べ終わったならピアノの練習してきちゃいなさい。ピアノもできる委員長なんてあきちゃんさすがだわ」
ブランド物を自慢する大学生のような母親を背に自室へ向かった。
クラシック以外も練習してみたいな。K-POPなど世の中のJK間で流行っている音楽には疎い。なんてレベルじゃない。テレビで流れているもの以外耳に入れたことがない。親との連絡ツールとしての役割しか果たしていないスマートフォン。インスタやツイッターなど当然入っていない。数少ないアプリの中に入っている検索アプリ。
「けーぽっぷ」
打ち込んでみる。お人形さんみたいな女の子が際どい衣装を着て歌い、ダンスをしている動画。髪を色とりどりに染めた男の子たちが踊っている動画が並んでいる。
ポチッー。
再生ボタンを押してみると自分の知らない言語で彩られた歌が流れる。すごい。感心しているうちに一曲目が終わってしまった。ほかの曲は…。
「ひっぷ…ほっぷ…?」
なんとなくだった。本当になんとなく。何かに導かれるようにその曲の再生ボタンを押した。
電撃が走ったようだった。今まで触れたことのない種類の音楽。痺れた。
「あぁ。好きだな。」
思わず言葉が漏れた。もっと、もっと聞きたい!
「あきちゃん?何してるの?」
ノックもなしに入ってくる母親。やばいという表情を浮かべた私と目が合ってしまう。
「そんな音楽聞いちゃだめよ。馬鹿になっちゃうから。ほらピアノの練習しましょ」
とても穏やかで優しい声。けど目の奥は笑っていない。「あきちゃん、大好きよ」と何回も言ってくれる。端から見たらいい母親。けど私に対して愛情を向けてくれているはずなのに目が合わない。私じゃない他の人を私を通してみている感覚。そんな母親の目は怖くて得意じゃない。
「ほら早く」
「はい」
急かされ、ピアノの練習に取り掛かる。どんな曲を弾いても私の心に残っているのはさっきの曲。うわの空でピアノの練習を終えた。その気持ちのまま英語の勉強をする。
この単語。
さっき聞いた曲に出てきた。意味は確か…。
「刺激」
私の生活と正反対の場所に位置する言葉。刺激を夢見ながら今日という日を終わらせる。
あと五日。
学祭までの日数が記された黒板。本格的に準備が始まり、リーダーである私はいろいろな仕事を押し付けられていた。それに伴い、帰宅時間が遅くなってしまっていた。みんなから信頼されているのはいいけれど、ピアノや勉強の時間が減っているのに対して母親からいい顔はされていない。
今日も七時近くまで居残って作業をしていた。区切りがいいのでもうそろそろ帰ろうかと思っていた矢先、私のスマホを一つの通知が照らした。
「最近帰りが遅いんじゃないかな?今も位置情報見て学校にいるのはわかってるから安心だけどできるだけ早く帰ってきてね」
私のことを心配している母親。心底気持ちが悪い。ただそう思った。心配しているふりをして、私を鳥籠に閉じ込めようとしてくる。位置情報を見てくるなんてプライバシーの侵害だ。本当に吐き気がする。
あぁ、無理だ。私の心が拒否をした。
一応家には向かう。あと百メートル。人通りのない歩道を歩く私。イヤホンを取り出し、音楽を耳に届ける。普段は聞かないアップテンポな曲。
何者にでもなれる気がした。車道の真ん中に出てみる。
「ルールを守るだけの私」とは違う自分がいた。
特に理由もなく走った。気持ちがいい。肌で風を感じる。意味もなく走って、なんとなくで笑っていた幼稚園児を思い出した。走って。走って。走って。疲れた。本能のまま行動する。疲れたら休憩をするはずだ。交差点の真ん中に寝そべってみる。地面の冷たさを感じた。耳をつけると道路を伝って聞こえてくる車の音。ただ休まずに働き続ける信号機を見ていた。私だけを置いて進んでいく世界を何も考えずに見る。ふと気が付くと長針が半周ほど回っていたらしい。スマホを見ると母親からの連絡がたくさん。誰かのいたずらか。位置情報が非表示になっていたらしい。
「どこにいるの?」
「早く帰ってきて」
「ねぇ。返事は?」
帰る気になれない程憂鬱だ。帰りたくない。帰れない。
真面目だったころの私はどこかへ消えて。何者かになった誰かがあの家に向かって足を動かす。
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