願う

maekawa_kumu

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ピピピピピピ、
スマホのアラームで目が覚めた。まだ5月だというのに朝からじんわり暑い。昨日は深夜まで課題に取り組んでいて結果寝不足気味だ。それでも自力で起きることができたからよしとする。
「あーきー!ごーはーんー!」
下から母の呼ぶ声がした。まだ6時半だ。母は俺が大学生になっても5時起きの生活を続けている。文句のひとつも言いたいだろうに、いつだって一切そんな気配はない。
のそのそとリビングに向かう俺。父は既に着席しコーヒーをすすっていた。しかし熱くて飲めないようだ。
「おはよ」
眼鏡の曇った父に挨拶をした。父は舌を火傷したのかで返事ができないようだった。ちょっと面白くてにやけたがバレなかった。

母は父と出会って、はたまた父は母と出会って結婚した。どちらがきっかけを作ったのかは実は知らない。とはいえ、ほんわかしてるがしっかり者の母と寡黙でどっか抜けてる父。そんなの父の方が先にころっと落ちたに決まってる

二人が結婚して、俺が産まれて、家族が増えた。そんな当たり前のような奇跡の中で俺は育った。
もし俺に恋人ができたとして、そしてそいつが男だったとして。その先はどこにいきつくんだろう。ゴールはどこなんだろう。男同士では家族が増えるってことないもんな。別に子どもを育てることがゴールじゃないんだろうけど。でも、それでも男同士ってやっぱり、あれだ。なんて言えばいいんだろう。
不毛、とか。



ガタン、ガタン、
満員電車に揺られ俺は大学に向かっていた。満員すぎて話にならない。やべ、リュック背負ったままだと邪魔だよなと思った矢先にはもう人混みに流され潰されいつのまにか乗車していた。
ふと甘い香水の匂いを感じた。どこからかは分からない。それも一瞬のことで、あとは整髪料やら体臭やらの気持ちが悪くなるようなそれに変わった。
甘い香水。なんだか女々しいイメージだ。女の髪や胸元から香ってくるイメージ。だからといって純粋とは思わなくて、どこか媚びているようなイメージ。
突如車両が大きく揺れた。つられて全員が揺られる。するとまた強い甘い匂いが鼻先をかすった。どうやら後ろからだ。
突如背負ったままのリュックに今まで以上の負荷がかかった。ズシンという感じ。その状態のまま目的の駅に着きまた流されるように降りた。
「まだまだ満員電車通学は慣れそうにないな」
俺はやっとパーソナルスペースができたところで独り言をぼやいた。今日はまだこれからというのにかなり疲れてしまった。なんでか電車酔いをしてしまったようだ。ふらふらとベンチに腰掛ける。

「…もしかして○○大学の人?」
突如隣から声がかかった。誰か座っているのかさえ見ていなかった俺はびくりと体を震わしてしまった。
「そうです、けど」
「まじか。だからか助かったの。俺電車の中で眠っちまってさ。たまたまよりかかったのがあんただったって訳。一緒に降ろしてくれたんだな。目が覚めたらこの駅に立ってたからびびった。」

隣には切れ長の目をした男が座っていた。ふと目が合い思い切りそらしてしまった。
もしかしてこいつ、俺のリュックに頭埋めて眠ってたのかよ。あまりにもの重さだったのでこれでやっと納得した。もしかしてこの疲れは肩にかかった負荷が原因なんじゃないか?まあまあ長い時間だったから。

「今日一限からだからやばかった。朝苦手でさ、俺。」
奴は伸びをしながら勝手に話してくる。もしかしたら同じ大学なのかもしれない。…同学年?
「もしかしてとか聞いたけど俺、実はあんたのこと知ってるよ。キャンパス内で見たことあるから。」
「…何なのお前」
「かっこいいと思ったから覚えてた。」

また過るこの香り。この甘ったるい香りの発信源はこいつなのだと気づいた瞬間だった。後にこの香りが俺の心にまとわりついて離れなくなるなんて、この時は知るはずもなかったんだ。

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