12 / 13
エピローグ
しおりを挟む
幾度となく生まれ変わった。
不思議なことに、その生全ての記憶を持っていた。
時に狐、時に猫、時に妖。
しかしどの時代においても、陽彩の気配を察知することはできなかった。
そして、二二十三年。
私は人間として、再び生を授かった。
目覚めた瞬間に分かった。
“居る ”
赤子は言葉を話せない。もどかしかった。陽彩は居るのに。この世、この時代に、陽彩は生きているのに。早く探しに行きたい。魂の揺さぶられるほうへ。
しかし赤子というのは泣く、ミルクを飲む、寝る、この三つしかできない。とても陽彩を探しに行ける状態ではない。早く大人になりたい、そう思っていた。
ある昼下がりのこと。
ピーンポーン。
インターホンが鳴った。
私は寝ていたベビーベッドから抱っこ紐に移動させられ、母親と共に玄関へ向かう。
ドクン。ドクン。
鼓動で分かった。
玄関の向こうに居るのは。
「初めまして、朝日と申します。隣に引っ越して参りました。この子は息子の陽彩です」
(陽彩……!)
「初めまして。冬月と申します。この子は……」
母親がそう名乗り、陽彩と目が合った瞬間。
「朧!」
「「え?」」
ふたりの母親が驚き目を見合わせた。
「朧! 僕だよ、陽彩だよ! ねえ、分かる? 分かるよね?」
分かる。分かるよ陽彩。
でもごめん。私は今、言葉を話せないんだ。だから。
「あぁぁーーーーー!!」
泣くことで、私の存在を訴えた。
「こら陽彩! 急にびっくりするでしょ? 赤ちゃん、泣いちゃったじゃないの」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「あぁぁ! あうぅ! あーー!」
「陽彩……くん? どうしてこの子の名前、知ってるの?」
「朧は朧だよ! 僕たちずっと前から家族なんだ! ずっと一緒に居るって約束したんだ!」
「か、家族……? ずっと一緒?」
「母さん! この子、僕の将来のお嫁さんなんだ! 認めてくれるよね!?」
「ひ、陽彩、ちょっと待ちなさい。母さん、あなたの言ってることが……」
「奥さま、お名前をお伺いしても? 私は紫月と申します」
「あ、葉月です! 申し訳ありません、息子が急に……」
「いえ。葉月さん、もしかしたらこの子たちは、前世か何かでの縁があるのかもしれませんね。朧が泣いたのは、きっと陽彩くんに応えたかったのだと思います」
「そんなことが……。いえ、あるのかもしれませんね。私実は、紫月さんとも初めて会った気がしなくて……」
「葉月さん、私もです。私たちもまた、前世で縁があったのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね。いえね、この家に越したいと申したのは、陽彩なんです。二ヶ月ほど前、突然に。どうしてもこの家に越してほしいと」
「ちょうど、朧が生まれた頃ですね。やっぱり陽彩くんと朧は、深い縁で結ばれているのでしょうね」
「紫月さん、こんな話信じてくださるんですか?」
「もちろん。葉月さん、これも何かの縁です。仲良くしてくださいますか?」
「……ええ。喜んで。私たち今度こそ、仲良くなれると良いですね」
ふたりの母は微笑んだ。
「ねえ母さん、紫月さん。朧、抱っこしてもいい?」
「これ陽彩! まだ二ヶ月の赤ちゃんを抱っこなんて……」
「もちろんいいわよ。将来の許嫁をよろしくお願いね」
「ありがとう!」
そして私は、陽彩の腕に抱かれた。
瞳は右も左も緋色。覚えのある瑠璃色は、髪の色へと変わっていた。かく言う私の瞳も、両方共に緋色。お揃いの瞳でなんだか嬉しい。
「陽彩くんの瞳、綺麗な緋色ですね。朧も緋色で、血縁にこの色の人はいなかったので、少し不安だったんですが……」
「陽彩も生まれつき緋色でしたよ。でも本人が『この色で良かった』と言うものですから、私も気にしないことにしたんです。今では自慢の色です」
「そう。朧も同じように思ってくれると良いのだけれど」
思ってるよ、母上。
私の瞳の色は、陽彩と共に母上を倒したときの緋色。つらい思い出も多いけれど、私と陽彩の始まりの彩だから。
「あ、あう……」
「こんにちは、朧。僕は陽彩。十歳だよ。今世では初めまして。でも、久しぶり」
「あう、ああ、あぁーーっ」
私は言葉にならない声で必死に陽彩を呼んだ。
陽彩、陽彩、陽彩!
「うん。分かってるよ。僕の名前を呼んでくれてるんだね」
そう、そうだよ陽彩。私、朧だよ。あなたの家族になるって誓った、朧だよ。
「朧。よろしくね。朧がもう少し大きくなったとき、僕は改めて朧にプロポーズするから。そしたら受けてくれるかな」
「あー! あ、あう!」
「ふふ、うん。ありがと、朧」
陽彩はくすぐったいような、可愛らしい笑みを浮かべた。
これが、私たちの始まり。
新しい、陽彩と朧の物語。
不思議なことに、その生全ての記憶を持っていた。
時に狐、時に猫、時に妖。
しかしどの時代においても、陽彩の気配を察知することはできなかった。
そして、二二十三年。
私は人間として、再び生を授かった。
目覚めた瞬間に分かった。
“居る ”
赤子は言葉を話せない。もどかしかった。陽彩は居るのに。この世、この時代に、陽彩は生きているのに。早く探しに行きたい。魂の揺さぶられるほうへ。
しかし赤子というのは泣く、ミルクを飲む、寝る、この三つしかできない。とても陽彩を探しに行ける状態ではない。早く大人になりたい、そう思っていた。
ある昼下がりのこと。
ピーンポーン。
インターホンが鳴った。
私は寝ていたベビーベッドから抱っこ紐に移動させられ、母親と共に玄関へ向かう。
ドクン。ドクン。
鼓動で分かった。
玄関の向こうに居るのは。
「初めまして、朝日と申します。隣に引っ越して参りました。この子は息子の陽彩です」
(陽彩……!)
「初めまして。冬月と申します。この子は……」
母親がそう名乗り、陽彩と目が合った瞬間。
「朧!」
「「え?」」
ふたりの母親が驚き目を見合わせた。
「朧! 僕だよ、陽彩だよ! ねえ、分かる? 分かるよね?」
分かる。分かるよ陽彩。
でもごめん。私は今、言葉を話せないんだ。だから。
「あぁぁーーーーー!!」
泣くことで、私の存在を訴えた。
「こら陽彩! 急にびっくりするでしょ? 赤ちゃん、泣いちゃったじゃないの」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「あぁぁ! あうぅ! あーー!」
「陽彩……くん? どうしてこの子の名前、知ってるの?」
「朧は朧だよ! 僕たちずっと前から家族なんだ! ずっと一緒に居るって約束したんだ!」
「か、家族……? ずっと一緒?」
「母さん! この子、僕の将来のお嫁さんなんだ! 認めてくれるよね!?」
「ひ、陽彩、ちょっと待ちなさい。母さん、あなたの言ってることが……」
「奥さま、お名前をお伺いしても? 私は紫月と申します」
「あ、葉月です! 申し訳ありません、息子が急に……」
「いえ。葉月さん、もしかしたらこの子たちは、前世か何かでの縁があるのかもしれませんね。朧が泣いたのは、きっと陽彩くんに応えたかったのだと思います」
「そんなことが……。いえ、あるのかもしれませんね。私実は、紫月さんとも初めて会った気がしなくて……」
「葉月さん、私もです。私たちもまた、前世で縁があったのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね。いえね、この家に越したいと申したのは、陽彩なんです。二ヶ月ほど前、突然に。どうしてもこの家に越してほしいと」
「ちょうど、朧が生まれた頃ですね。やっぱり陽彩くんと朧は、深い縁で結ばれているのでしょうね」
「紫月さん、こんな話信じてくださるんですか?」
「もちろん。葉月さん、これも何かの縁です。仲良くしてくださいますか?」
「……ええ。喜んで。私たち今度こそ、仲良くなれると良いですね」
ふたりの母は微笑んだ。
「ねえ母さん、紫月さん。朧、抱っこしてもいい?」
「これ陽彩! まだ二ヶ月の赤ちゃんを抱っこなんて……」
「もちろんいいわよ。将来の許嫁をよろしくお願いね」
「ありがとう!」
そして私は、陽彩の腕に抱かれた。
瞳は右も左も緋色。覚えのある瑠璃色は、髪の色へと変わっていた。かく言う私の瞳も、両方共に緋色。お揃いの瞳でなんだか嬉しい。
「陽彩くんの瞳、綺麗な緋色ですね。朧も緋色で、血縁にこの色の人はいなかったので、少し不安だったんですが……」
「陽彩も生まれつき緋色でしたよ。でも本人が『この色で良かった』と言うものですから、私も気にしないことにしたんです。今では自慢の色です」
「そう。朧も同じように思ってくれると良いのだけれど」
思ってるよ、母上。
私の瞳の色は、陽彩と共に母上を倒したときの緋色。つらい思い出も多いけれど、私と陽彩の始まりの彩だから。
「あ、あう……」
「こんにちは、朧。僕は陽彩。十歳だよ。今世では初めまして。でも、久しぶり」
「あう、ああ、あぁーーっ」
私は言葉にならない声で必死に陽彩を呼んだ。
陽彩、陽彩、陽彩!
「うん。分かってるよ。僕の名前を呼んでくれてるんだね」
そう、そうだよ陽彩。私、朧だよ。あなたの家族になるって誓った、朧だよ。
「朧。よろしくね。朧がもう少し大きくなったとき、僕は改めて朧にプロポーズするから。そしたら受けてくれるかな」
「あー! あ、あう!」
「ふふ、うん。ありがと、朧」
陽彩はくすぐったいような、可愛らしい笑みを浮かべた。
これが、私たちの始まり。
新しい、陽彩と朧の物語。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※「なろう」にも重複投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる