緋の契り

桜禾

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エピローグ

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 幾度となく生まれ変わった。
 不思議なことに、その生全ての記憶を持っていた。
 時に狐、時に猫、時に妖。
 しかしどの時代においても、陽彩の気配を察知することはできなかった。

 そして、二二十三年。
 私は人間として、再び生を授かった。
 目覚めた瞬間に分かった。

“居る ”

 赤子は言葉を話せない。もどかしかった。陽彩は居るのに。この世、この時代に、陽彩は生きているのに。早く探しに行きたい。魂の揺さぶられるほうへ。
 しかし赤子というのは泣く、ミルクを飲む、寝る、この三つしかできない。とても陽彩を探しに行ける状態ではない。早く大人になりたい、そう思っていた。
 ある昼下がりのこと。
 ピーンポーン。
 インターホンが鳴った。
 私は寝ていたベビーベッドから抱っこ紐に移動させられ、母親と共に玄関へ向かう。

 ドクン。ドクン。

 鼓動で分かった。
 玄関の向こうに居るのは。
「初めまして、朝日と申します。隣に引っ越して参りました。この子は息子の陽彩です」

(陽彩……!)
「初めまして。冬月と申します。この子は……」
 母親がそう名乗り、陽彩と目が合った瞬間。

「朧!」
「「え?」」
 ふたりの母親が驚き目を見合わせた。

「朧! 僕だよ、陽彩だよ! ねえ、分かる? 分かるよね?」
 分かる。分かるよ陽彩。
 でもごめん。私は今、言葉を話せないんだ。だから。
「あぁぁーーーーー!!」
 泣くことで、私の存在を訴えた。
「こら陽彩! 急にびっくりするでしょ? 赤ちゃん、泣いちゃったじゃないの」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「あぁぁ! あうぅ! あーー!」
「陽彩……くん? どうしてこの子の名前、知ってるの?」
「朧は朧だよ! 僕たちずっと前から家族なんだ! ずっと一緒に居るって約束したんだ!」
「か、家族……? ずっと一緒?」
「母さん! この子、僕の将来のお嫁さんなんだ! 認めてくれるよね!?」
「ひ、陽彩、ちょっと待ちなさい。母さん、あなたの言ってることが……」
「奥さま、お名前をお伺いしても? 私は紫月と申します」
「あ、葉月です! 申し訳ありません、息子が急に……」
「いえ。葉月さん、もしかしたらこの子たちは、前世か何かでの縁があるのかもしれませんね。朧が泣いたのは、きっと陽彩くんに応えたかったのだと思います」
「そんなことが……。いえ、あるのかもしれませんね。私実は、紫月さんとも初めて会った気がしなくて……」
「葉月さん、私もです。私たちもまた、前世で縁があったのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね。いえね、この家に越したいと申したのは、陽彩なんです。二ヶ月ほど前、突然に。どうしてもこの家に越してほしいと」
「ちょうど、朧が生まれた頃ですね。やっぱり陽彩くんと朧は、深い縁で結ばれているのでしょうね」
「紫月さん、こんな話信じてくださるんですか?」
「もちろん。葉月さん、これも何かの縁です。仲良くしてくださいますか?」
「……ええ。喜んで。私たち今度こそ、仲良くなれると良いですね」
 ふたりの母は微笑んだ。
「ねえ母さん、紫月さん。朧、抱っこしてもいい?」
「これ陽彩! まだ二ヶ月の赤ちゃんを抱っこなんて……」
「もちろんいいわよ。将来の許嫁をよろしくお願いね」
「ありがとう!」
 そして私は、陽彩の腕に抱かれた。
 瞳は右も左も緋色。覚えのある瑠璃色は、髪の色へと変わっていた。かく言う私の瞳も、両方共に緋色。お揃いの瞳でなんだか嬉しい。
「陽彩くんの瞳、綺麗な緋色ですね。朧も緋色で、血縁にこの色の人はいなかったので、少し不安だったんですが……」
「陽彩も生まれつき緋色でしたよ。でも本人が『この色で良かった』と言うものですから、私も気にしないことにしたんです。今では自慢の色です」
「そう。朧も同じように思ってくれると良いのだけれど」
 思ってるよ、母上。
 私の瞳の色は、陽彩と共に母上を倒したときの緋色。つらい思い出も多いけれど、私と陽彩の始まりの彩だから。

「あ、あう……」
「こんにちは、朧。僕は陽彩。十歳だよ。今世では初めまして。でも、久しぶり」
「あう、ああ、あぁーーっ」
 私は言葉にならない声で必死に陽彩を呼んだ。
 陽彩、陽彩、陽彩!
「うん。分かってるよ。僕の名前を呼んでくれてるんだね」
 そう、そうだよ陽彩。私、朧だよ。あなたの家族になるって誓った、朧だよ。
「朧。よろしくね。朧がもう少し大きくなったとき、僕は改めて朧にプロポーズするから。そしたら受けてくれるかな」
「あー! あ、あう!」
「ふふ、うん。ありがと、朧」
 陽彩はくすぐったいような、可愛らしい笑みを浮かべた。

 これが、私たちの始まり。
 新しい、陽彩と朧の物語。
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